| ● リコー杯1999 準々決勝・準決勝戦 ● |
| リコー杯・プロ棋士ペア囲碁選手権1999の準々決勝、準決勝戦は12月19日、東京六本木のラフォーレミュージアム六本木で行われ、昨年優勝の青木喜久代七段・本田邦久九段ペアと西田栄美女流名人・柳時熏七段ペアが決勝戦に進出した。1、2回戦とは打って変わって緊張感に包まれた準々決勝。「ここまで来たからには……」と各ペアとも意気込みが違う。公開対局で約 500人ものファンが詰めかけたものの、対局数が少ないこともあってか、会場の静けさがより緊迫した雰囲気を醸しだしていた。 |
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小川誠子副審判長の合図で準々決勝の4局が一斉に始まった。中盤早々から白熱した展開を見せたのは、中沢彩子四段・大竹英雄九段と矢代久美子二段・楊嘉源八段の対戦だった。中盤30手過ぎに上着を脱ぐ大竹九段は気合十分。中沢四段と絶妙なコンビネーションで矢代・楊ペアに猛攻を仕掛ける。 ところが、あわや大石壊滅かというときになって、中沢四段に痛恨の時間切宣告が出てしまった。恐縮してうつむく中沢四段。「ちょっと秒を読むのが早かったんじゃない」と大竹九段が記録係に声をかけたが、これはパートナーを労っての言葉だったのだろう。 大竹九段 「(局面に)動きがあったし、面白い碁だったね」楊八段 「いやあ、殴られっぱなしでした」興味のある方はぜひ棋譜をご覧いただきたい。黒47の肩ツキが大竹一流の構想。一見、ソッポを向いたように見えるが、上辺を戦う振りをして右辺の白に狙いをつけたプロならではの一手だった。結果こそ出なかったが、構想通りに進んだ中沢・大竹ペアの名局と言えるだろう。 |
![]() 矢代二段・楊八段ペアと中沢四段・大竹九段ペア |
さて、当初の予想が一転して優勝候補に挙げられた吉田美香女流鶴聖・小林覚九段ペアは、小西和子六段・加藤正夫九段ペアに2目半差で敗れてしまった。「私が敗着を打っちゃいました」と小林九段は無念の表情。 準々決勝が終わった休憩時間に、小林九段は諦めきれない様子だった。「悔しいなあ。初日は何が何だか分からず打ってるんですけど、今回は(吉田さんと)息が合ってただけにねえ」。 「私も何だか悔しい」と吉田女流鶴聖が相槌を入れる。「今までは(ペア囲碁が)終わるとホッとしてたんですよ。解放された感じがあって。今年は行けそうな感じがしてたんです。だから悔しい」 この大会、年に2回ぐらいやりませんか。あと一年も待ちきれませんよ。それだけ面白いということなんですけど」と小林九段の提案があった。 |
![]() 吉田女流鶴聖・小林九段ペアと小西六段・加藤九段ペア |
そんな小林九段の話をニコニコ聞いていた林海峰九段。知念かおり女流本因坊とペアを組んだが、本命の青木・本田ペアに惜しくも敗れた。林九段は今年前半、病気療養で一線を離れていたが、無事復帰した。局後に検討する姿は、いままでとまったく変わらず、勝敗は関係なく、囲碁が面白くて仕方がないという空気を周りに作りだす。 |
![]() 青木七段・本田九段ペアと知念女流本因坊・林九段ペア |
若手棋士と一時ペア囲碁研究会を開いていたという岡田結美子四段は今回、山田規三生七段と組んで、密かな期待を集めていたが、西田・柳ペアに撃沈されてしまった。岡田四段「今は研究会はなくなってしまったんですけど、ペア囲碁はコツとかないですよね」と話していた。 |
![]() 西田女流名人・柳七段ペアと岡田四段・山田七段ペア |
この準々決勝には、初日2連勝のペアが4組、それに2勝1敗の敗者復活組4組がぶつかった。勝ち上がったうち、なんと3組は敗者復活組だった。大竹九段は「何とかこの(敗者復活)組から優勝ペアを出したいですね」と話していたが、中沢・大竹ペアが勝っていれば、決勝を待たずにそれが実現していた ことになる。 逆に、初日2連勝して「息が合っている」と思われたペアは、この日奮わなかった。たとえ息が合っても、あまり勝つことを意識すると結果が出ない。ペア囲碁の難しさがこんなところにも現れていた。 |
![]() 青木七段・本田九段ペア |
![]() 西田女流名人・柳七段ペア |
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準決勝、フタを開けて見れば当初から「強そう」と見られていたペアがしっかり勝ち上がってきた。しかも、両ペアとも大竹九段が話していた「敗者復活組」だった。まずそれぞれの感想を聞こう。 西田女流名人 「(準決勝の)相手が師匠(加藤正夫九段)だったから、譲っていただきました。昨年は本田・青木ペアが優勝してますから、今年は違う人がいいですよね」柳七段 「組み合わせが決まった時から、この日を待っていたという感じでしょうか」青木七段 「実は初日に(1敗して)諦めていました。何だか2年連続優勝はいけないという雰囲気がありますが、打つ以上は……」本田九段 「1回戦からみて調子が少しずつ上がっています。チャンスはなかなかないので、連続優勝を狙います」 |
![]() 決勝戦の顔合わせ |
実は青木七段、来年1月15日に結婚を控えている。お相手は同じ姓の青木洋さんで、慶応大学囲碁部のOBでもある。この大会も初日から対局を見守る姿があった。連続優勝で結婚式に花をそえることができるかどうか、決勝戦の見どころのひとつだ。 |
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決勝戦は1月9日、東京・恵比寿のザ・ガーデンホールで行われる。この日は、解説・小林覚九段、聞き手・吉田美香女流鶴聖の大盤解説も予定されている。 |
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解説:小林覚九段 聞き手:吉田美香女流鶴聖 |
| 取材 横内 猛 |