リコー杯プロ棋士ペア囲碁選手権
report
■リコー杯 準々決勝戦と準決勝戦
いよいよ準決勝戦
さて悲喜こもごも、全16ペアでスタートした本大会もいよいよ準決勝戦。
控え室では、楠・依田ペアがやはり綿密な打ち合わせ。何枚も棋譜を手にして見入っているが、なんと全部、次の対局相手である小林泉美・山下ペアのもの。
リコー杯は、パソコンに入力された棋譜をリコーの再生紙を使い、リコーのコピー機・イマジオを使って印刷し、来場者が棋譜を手に出来るようにサービスされている。
楠・依田ペアも、それで相手の棋譜を手に入れ研究することができたわけだ。なかなか作戦の内容を聞き取られせてはくれなかったが、「この二人はきっと隅に潜ってくるだろう…」という依田名人の一言だけ伝え聞くことができた。
趙王座は、祷五段に向かって「そんなに力を発揮しなくても大丈夫。普通にやっていれば勝てますから」とアドバイス。祷五段の攻めっぷりに、すっかり恐れをなした様子だった。
準決勝戦の組み合わせは、祷・趙ペアと知念・今村ペア。楠・依田ペアと小林・山下ペア。
局前の趙王座のアドバイスが効きすぎてしまったのか、祷五段が今回はおとなしい。知念・今村ペアが走る進行となった。ところが「これでは甘い」、と思ったのだろう。趙王座が突然、次から次へと強手を打ち始めた。「さかんに祷さんの暴走を恐れていたのに、趙王座が乱戦に持ち込んでます(笑)」。形勢不利と見て、やけ気味だったのかもしれないが、すさまじいファイト。様子を会場に見に行くと、真っ赤になって、頭をかきむしっている王座の姿が。扇子で頭を叩いたり、ハンカチをくわえたり。もはや様子は七番勝負と変わらない。その横で祷さんも勝負師の顔。普段はいつもニコニコ、その笑顔にファンも多いがやはり盤に向かえば顔つきが変わる。真剣勝負に周りのファンも息を呑んで見守っていた。
知念・今村ペアも必死で応じる。形勢有利とはいえ、相手が暴れ回りにきたのだ。時間のない早碁、しかもペア戦である。崩れず持ちこたえられるのか。ところがやはり、せめぎ合ううちに、ついにミスが生じてしまい攻めていたはずが、逆に自分たちの石が取られることになってしまった。
「いやー、ダメかと思ったけどねえ。まさか取れちゃうとは」と趙王座。四人とも顔が紅潮している。熱戦に対してギャラリーからは自然と拍手が沸き起こった。
小林・山下ペアと楠・依田ペアは対照的にじっくりとした進行。小林・山下の特徴は攻めの強さだが、それを封じようという作戦なのだろう。なかなか攻めに回らせてもらえない。小林・山下ペアははじめに地を与えられてしまい、かえって力が発揮できないのだ。楠・依田ペアは序盤甘めに打っても途中からしっかり右辺に大きな地所を築いてしまった。「いつもどおりの依田さんの碁。二人で打っているとは思えません」とレドモンド九段もビックリ。一瞬、にぎやかになった場面もあったものの、全体として危なげなく楠・依田ペアがまとめ上げた。
さて、準決勝を制した二組。それぞれの決意表明は、
趙「今年は正月返上でペア碁の作戦に燃えます」
依田「息がこれ以上ないくらいに合ってますからね。ぜんぜん、負ける気がしません」
決勝戦は、年明けの1月27日(日)、恵比寿のザ・ガーデンホールにて行われる。
構成・取材:囲碁観戦記者 石井妙子