大会観戦レポート
「ペア碁」がスタートして、25年目を迎える。囲碁界の最も華やかな大会として定着した「国際アマチュア・ペア碁選手権大会」は、今年は10月25日(土)、26日(日)の両日、ホテルメトロポリタンエドモンドにて開催された。恒例の荒木杯ハンデ戦も同時開催された他、25周年という節目を記念して、さまざまな特別企画も盛り込まれた。充実の二日間をお伝えしていこう。
大会二日目・開会式
二日目は、本戦二回戦から決勝が一気に進む。また、恒例の荒木ハンデ戦(Aクラス~Cクラス)、25周年を記念した第1回世界学生ペア碁選手権大会も同時進行。会場は朝から、500名を越える参加者&応援団の熱気に包まれた。
開会式では日本ペア碁協会常務理事の滝裕子があいさつに立った。「感慨深い」と25年を振り返り、2008年に設立された世界ペア碁協会に今では70カ国・地域が加盟していること。「ワールドマインドスポーツゲームズ」の公式種目になったこと。中国、韓国で国際プロペア碁大会が開催されたこと。国内でもジュニアペア碁、学生ペア碁が開催されるようになったこと。などなどの報告があり、さらに、今年記念特別イベントとして開催する第1回世界学生ペア碁選手権大会を来年以降は規模を拡大させていきたいこと、世界共通の性格なレーティングを整備していくことなど、今後の具体的な課題についても語った。「今日一日、素晴らしい時間をすごしてください!」
続いて、大会審判長の石田芳夫24世本因坊が登壇され「今年は節目のものが多くあります。宝塚歌劇団が100周年。甲子園が90周年。新幹線開通から50年。そしてペア碁が25周年。思い出とこれからの夢を描きながら、今日一日がんばってください」
恒例のベストドレッサー賞の審判長として迎えられた、デザイナーのコシノ ジュンコさんもご登壇。「昨日から、緊張した不思議な空気を味わい、私もドキドキしています。まさに文化のオリンピック。今日もたくさんの出会い、ストーリーがあるでしょう。私も会場の後ろの方をうろうろさせていただきます。オシャレに勝負していただきたいと思います」
笹子理紗さん・榎本順彦さんペア、マニエル マルツさん・ベンジャミン トイバ―さんペアがそれぞれ選手宣誓をし、石田審判長が開始コールをして、いよいよ二日目、熱戦の火ぶたが切られた。
荒木杯ハンデ戦
恒例のハンデ戦には、今年は、Aブロック30組、Bブロック59組、Cブロック40組、総勢258名が参加した。最高齢ペアは二人合わせて150歳、最年少ペアは13歳。文字通り、老若男女が一斉に集うペア碁ならでは光景だ。
最年少、山口愛結ちゃん(7歳)と王欣浩くん(6歳)のペアはCクラスに出場。愛結ちゃんと欣浩くんは2級の腕前で、初戦は見事に白星。対局後も、ネットお試しコーナーで二人仲良く詰碁の勉強をしていた。Cクラスには、他にも小学生ペアが多く、中には碁盤の一番端に手が届かない子も。終盤近くなると立ち上がって打ち続ける微笑ましい姿も見受けられた。
Bクラスに参加の中村重和さん、貞子さんご夫婦ペアは二人合わせて148歳。第一回から参加しているそうだ。「はじめは、僕があなたと組むの? と主人に驚かれたんですよ」と貞子さん。でも女性は引く手あまた。「それなら、他の男性と組みます」という奥様に、重和さんは「あなたのような弱い方と組む男性に申し訳ない。私が責任をとります」と慌てられたそう。体調を崩されて参加できなかった時期もあるが、「また、こうして出られるようになって嬉しい」と貞子さん。重和さんは「ペア碁のおかげでお互いに言いたいことを言えるようになりました」と終始にこやかだった。
NHK番組「囲碁フォーカス」で司会をつとめる戸島花さんも、昨年本戦準優勝の強豪、永代和盛さんとペアを組みBクラスに出場。「水間先生(NHK番組で講師をつとめる俊文七段)に教えられたとおり、わからないときは、相手が受けてくれそうな別の場所に打つ作戦がうまくいきました」と、幸先のよい二連勝。三回戦で敗れると「花さんは自立して、打ちたい手を打つようになりました。それがよかった」と永代さん。三勝一敗の大健闘だった。
Aクラスには、依田紀基九段の長男、太陽くんと、次男、大空くんも、それぞれ可愛いペアと参加。太陽くんは中学生とは思えぬほどの大柄で、「今日はお父さん(紀基九段)の着物を着せてきました」とお母さんの原幸子四段。組み合わせのいたずらで、兄弟対決も実現し、これは大空くんペアが勝ち。「圧勝かと思ったら、途中でわからなくなった」という大空くんに、太陽くんは「あそこで、あんな手を打つから細かくなるんだよ」とお兄さんらしく穏やかに指摘。勝敗を気にしない和やかな兄弟の会話だった。
視覚障害を持つ中丸仁さんも、前の月にご結婚されたばかりの由紀夫人と参加。囲碁が縁結びとなったお二人のこと、「棋風が合っています」と由紀さん。仁さんは「疲れました(笑)。でも、楽しみました。碁を打ちながら、対戦相手を観察するのも楽しかったですね」。中丸ご夫妻ペアと対戦した奥真珠さん・上野真之さんの中学生ペアは、「手で触りながら部分を確認しているのに、盤面が広く見えていてビックリしました」「手も見えていて、すごいです」と、目を輝かせていた。
AクラスからCクラスまで、入賞ペアは別表のとおり。おめでとうございます!
Aブロック
優 勝 | 山口 庸可(六段)・ 山本 唯期(六段) |
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準優勝 | 谷 結衣子(六段)・ 藤野 雅也(六段) |
第3位 | 徐 文燕(四段)・ 依田 大空(五段) |
Bブロック
優 勝 | 川畠 恵里(6級)・ 渡辺 一郎(七段) |
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準優勝 | 堀内 美穂(二段)・ 堀内和一朗(初段) |
第3位 | 池田恵梨子(3級)・ 池田 裕輔(四段) |
Cブロック
優 勝 | 馬 雅敏(六段)・ 松永 正義(7級) |
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準優勝 | 松田 綾 (7級)・ 堀江 宥多(10級) |
第3位 | 髙橋 礼美(10級)・ 伊藤 裕史(初段) |
第1回世界学生ペア碁選手権大会
前日の「日中韓プロ棋士ペア碁特別記念対局」ともう一つ、「世界学生ペア碁選手権大会」が、25周年を記念する特別イベントだ。これを契機として、来年から規模を広げていく予定だが、今年の第1回は、中国2組、韓国2組、中華台北1組、タイ1組、そして日本2組の合計8組、16名が参加した。持ち時間は45分で時間切れは負け。決勝戦のみ60分の持ち時間となる。全てのペアが3局対戦し、トーナメント戦により優勝ペアを決めるが、二位以下の順位決定にはスイス方式が取り入れられた。
前日のインタビューでは、海外選手たちから、「こんなに素晴らしい大会に出るのは初めて」「このような大会に呼んでいただき光栄だし嬉しい」という声が次々と聞かれた。
韓国ペアの2組4名は、全員が明知大学校の学生。「囲碁学部」があることでも有名な大学だ。2組のうち韓国の金灝雅さん・朴文教さんペアが本命視された。理由は女性の金さんが六段。男性の朴さんは「韓国の九段の棋士に先で勝つ」という噂からだ。
日本の塚田花梨さん・癸生川聡さんペアは、一回戦でこの「本命ペア」と対戦。惜敗した。癸生川さんは「中盤の要所を僕が逃して、負けにしたかなと思います」と振り返る。だが、塚田さんは「なんとか食らいついていけたかな…」と話し、噂の朴さんについての印象は「それほどでもなかった」と声をそろえる二人。負けても手ごたえは感じたようだ。そして、「だんだん二人の息が合ってきた」と、その後は二連勝。スイス方式で、見事、二位にすべりこんだ。
決勝戦は、韓国の金・朴ペアと、中華台北の胡釋云さん・詹宣典さんペアの二連勝同士の対戦となった。黒番の韓国ペアが左上の攻防でリード。その後、白が中央の黒の大石を狙う展開となったが、最後は下辺の白が取られて投了。予想どおり、金灝雅さん・朴文教さんペアが優勝に輝いた。
日本の佐藤瑛穂さん・堀井勇佑さんペアは、1勝2敗で7位の結果。佐藤さんは「思ったよりいい勝負ができて満足しています。パートナーは頼もしかったです」と笑顔で振り返り、堀井さんはこれを受け「いえいえ。役に立てなくて残念です」と肩を落としていた。
二位の塚田さんも「頼れるパートナーだった」と笑顔。「重要なところは、ほとんど全部任せて打ちました」。癸生川さんは「え。任された覚えはありません。彼女のおかげです」と讃え合い、「二位に入れてすごく驚いています。実力以上の結果です」とやはり笑顔だった。
本戦
本戦は、前日の一回戦に続いて、二回戦からスタート。昼食休憩をはさみ、一日で4局対戦するハードスケジュールだ。
朝から緊張感が高まり、熱戦につぐ熱戦。前日の特別記念対局に参加した常昊九段も観戦に訪れ、熱心に検討に加わる光景も見られた。
健闘する日本勢の中、三連勝で事実上の準決勝戦に臨んだのは、関東・甲信越の笹子理紗さん・榎本順彦さんペアと、近畿の斉藤菜穂子さん・蔵元実さんペア。だが、両ペアとも惜しくも敗退。斉藤・蔵元ペアに勝った中華台北の林曉彤さん・賴宥丞さんペアは「強いですよ!」と応援に駆けつけた謝依旻女流二冠。「林さんが先で私は勝てる自信がありませんし、男性の賴さんは私より強いです」。
その賴さんは、斉藤・蔵元ペアとの一戦を振り返り「難しい碁でした。最初から細かい形勢で、相手のミスがあってやっと最後に勝てました」とのコメント。決勝に向けては「平常心が大事。普段どおりに打って実力を発揮したいです」と語った。以前準優勝の経験もある林さんは「こんな豪華な素晴らしい大会は初めてです。新しいパートナーなので、前よりもよい成績をとりたい」と可愛らしい笑顔で優勝宣言をしていた。
笹子・榎本ペアを下したのは、韓国の金秀英さん・全俊鶴さんペア。笹子さんは「私が手所でぬるい手を打ってしまい…」と残念な表情。「来年もう一度同じペアで出場して、同じ韓国ペアにリベンジしたいです」と早くも気持ちは来年へ。さて、その韓国ペアは、昨年も金さんと全さんで組み、優勝している。「昨年は内容が悪かったので、今年はよい内容で優勝したい」と金さんが言えば、全さんも「手厚くゆっくり打っても勝てる横綱相撲で優勝します」と自信満々なコメントを残して決勝戦に臨んだ。
ハイレベルの決勝戦。大盤解説は石田芳夫審判長、聞き手を吉田美香八段がつとめた。また、英語の大盤解説はマイケル・レドモンド九段が担当。どちらの解説会場も対局を終えた大勢のファンがつめかけ熱戦を見守った。
黒番は中華台北ペア。中盤まで接戦だったが、下辺の白への攻めを保留して上辺に入り返したあたりから流れが白に傾いていった。「下辺を攻める暇がなくなるかもしれません」という石田審判長の予想どおりの展開となり、上辺で始まった戦いが下辺になだれ込んでいった。最後は「さすがに力が強いですね」と石田審判長をうならせて、韓国ペアが中押し勝ち。大会史上初の同一ペアによる連覇となった。
金さんは「同じペアでの二連覇はとても嬉しい。全さんが優しくリードしてくれました」と喜びを語り、全さんも「素直に嬉しいです。金さんとは呼吸が合い、楽に打てました。次回も同じペアで出たいです」と三連覇をほのめかすコメントだった。
表彰式&パーティー
前日に披露された小山薫堂さん作詞のオリジナル新曲『Pair Go,My Dream』が映像で流れる中、表彰式がスタートした。
壇上で滝久雄、滝裕子に、世界中のPGPP(Pair Go Promotion Partner:それぞれの地域でペア碁普及のために積極的に活動していただいている方たち)百名以上からの感謝の寄せ書きが贈られた。
続いて、大会顧問の松田昌士日本ペア碁協会理事長が登壇しごあいさつ。「さまざまな苦労を乗り越えて、25年は長いようであっという間でした。これからも、ペア碁を通して、平和は社会をつくるために先頭に立とうじゃありませんか!」
そして、本戦優勝者へのプレゼンテーターとして菅義偉内閣官房長官が駆け付けるサプライズも。「素晴らしい会場の盛り上がりだと思います。今日は、皆さん、本当におめでとうございます!」と菅官房長官が切り出すと会場は拍手喝采。「女性のエネルギー、国際貢献、という意味でもペア碁は素晴らしい。ペア碁を見習って、女性が輝ける社会を目指します!」という祝辞に、再び拍手喝采となった。
IAPG杯、JAPG杯の表彰に続き、世界学生ペア碁の表彰、ハンデ戦の表彰。続いて、滝久雄が「皆さんに盛り上げていただき、本当に嬉しい。言葉の壁を越えた魅力ある世界のゲームであることを改めて実感しました。とてもいい大会になりました。ありがとうございました」とあいさつして乾杯へ。
さらに、審査委員長に迎えられたコシノ ジュンコさんによるベストドレッサー賞の発表、大勢のプロ棋士たち、NHK番組「囲碁フォーカス」で司会をつとめる戸島花さんらがプレゼンターとなってお楽しみ抽選会。最後まで盛りだくさんのパーティーでは、世界中の囲碁ファンがいつまでも笑顔で交流を深め合っていた。