【ペア碁にまつわる思い出】

「20周年記念ペア碁大賞」エッセイ発表

堀江邦子 (日本)

 私(6段)が初めて国際アマペア碁近畿大会に参加したのは、今から十数年前、息子(中学生・4段)との「親子のコミュニケーション」が目的だった。しかし、「僕は平和主義者だから戦うのは嫌い」という息子と「好戦家」の私との碁はチグハグで、1勝できたら上出来。まさに「ペア碁は参加することに意義がある」というオリンピック精神(?)だった。
 このような状態だったが、息子が親離れをした時には、私はすっかりペア碁にはまってしまった。そして「勝ちたい」と思ってきた。オリンピック精神でも「純粋に勝つために正しく努力することに意義がある」というのがあるではないか。さっそく「勝てる相棒」探しが始まった。

 まず初めは「県代表になったこともある大先輩」のK氏にお願いした。K氏とは100局以上も対戦しているので、棋風はわかっているつもりだった。が、味方となるとさっぱりわからない手が続出。それで私はせっせと「時間ツナギ」を打つことにした。対局後、「損コウばかり打つから、困ったよ・・・」と嘆かれてしまった。
 それでもK氏と決勝戦まで駒を進めたこともあった。その時はまだ中盤なのに、双方が時間切れ寸前。形勢は我々の方が優勢。碁よりも「時計押し競争」の最中で、あちこちから盤上に手が交差し、手番がわからなくなってきた。
「あれっ?次、私・・・?」
と皆に聞いた。シーン・・・。時計の音だけが聞こえた。
「ペア戦は話してはいけないんだ」
そう思いながら再び「わ・た・し・・・?」と言った時、無情にも我々の方の赤い棒が落ちてしまった。その時の対戦相手は東京でも優勝。我々は勝利の女神になった(笑)。

 子供の頃からよく教えていただいたR氏(6段)とのペア。「ペア戦って、どう打つの?」とペア戦が不安そうなR氏に対して、「大丈夫です。わからない時は時間ツナギを打って手番を回しますから」と姉さん気取りで対局開始。1回戦で勝った瞬間、二人とも「勝った・勝った~♪」と思わず握手!!まだ盤上に碁石は残っているし、挨拶もしていないのに・・・。まったく「耳ヘンに心」で、相手にとても失礼なことをした。が、碁に勝ってあれほど感動したことはなかった。ペア碁の勝利は「2倍の感動」らしいけれど、私は「10倍の感動」を感じた。

 囲碁インストラクターのT氏(母子に見える?)と組んだ頃には、私に「4人の碁を楽しむ」ゆとりができていた。対戦相手は試合に慣れていないようで、かなりのスローペース。「もっと早く打たないと時間切れになってしまうよっ!」と心で相手にエールを送っていて、時計を見ながら打った。すばやく石を置いた相手の男性。そして碁盤を見てビックリ仰天。なんと、我々の「碁盤の半分以上もある大石」が根元でバッサリ切られている。しかも眼が全く無い。どうやらノゾカレテいたらしい。しかしT氏は平然と打ち進める。ようやく眼ができた。「さすがっ、T氏!」と喜んだら、また切られて眼が無くなった。と同時に相手の時間が切れた。すると、T氏はパッと私の方を振り向くなり、
「碁盤、見ていましたかっ!!」
いつもは穏やかで優しいT氏の目が三角に釣り上っていた。
「ごめーん!時計を見ていたの・・・」
ペコペコ頭を下げて平謝り。笑ってごまかしてしまった。しかし、この「時計を見ながら石を置く癖」はすっかり身に付いてしまった。

 このようにほとんど毎年、近畿大会に参加したが、一度も優勝できず、東京に行けなかった。そのうちに、あちこちから「ペア戦(東京)はスゴイよ~。おもしろいよ~!」という噂が聞こえてきた。ペア碁協会ホームページを見ると、友人がホントに楽しそうに碁を打っている姿も映っている。
「私も1回、東京の大会に出たいなあ・・・」
思いは募っても棋力的に無理。しかし、諦めきれないでホームページを見ていてパッとひらめいた。そこには「荒木杯募集・・・ペア碁協会賛助会員は優先順位1位」と書かれていた。
「これだっ!」
さっそくペア碁協会に電話をした。
「ペア碁協会賛助会員になるにはどうしたらいいのですか?」
「年会費4000円を振り込んでもらったらいいです」
「そんな簡単なことでいいんだ・・・」
すぐに振り込むと、あとは「東京に行ってくれる人」探し。以前、「ペア碁、いつでも声を掛けてください」と言ってくれていた若いN氏(6段)にお願いした。「頑張りましょう」と言ってくれた時には、もう私の心は東京に飛んでいた。
 そして初めてもらった「荒木杯参加のハガキ」を見て、目が点になった。そこには「ベストドレッサー賞あり。皆さんお洒落をしましょう」と書かれているではないか。「お洒落?囲碁で・・・?」と不思議に思いながらも心はウキウキ躍り、「女に生まれてよかった~!」と嬉しくなった。
 2006年11月、いよいよ待ちに待った当日がやってきた。会場に入るとそこは別世界、華やかな紳士淑女の集まりであった。「ワーッ!すごーい!」と思った瞬間、私はコチコチカチカチで全くのフリージング状態。あの時、どうやって打ったのか思い出せない。しかしパーティーが終った時に感じた「言葉に表せないほどの楽しさと心地よさ・よい疲れ」はいまでもはっきり覚えている。
 ラッキーなことに親善対局にも参加させてもらえた。そこでは碁を打ちながら「外国の人と何を話そう・・・」と、頭の中で必死で英単語を並べていた。どうも私は碁盤に集中できない癖があるようだ(笑)。

 N氏とペアを組んで3年目の2008年。ついに念願の近畿代表になった。しかし、その年はマインドスポーツオブゲームズの出場者を決める大会で、参加者は日本人のみ。「エ~ッ!外国の人、来ないんですか・・・。せっかく外国の人に勝って順位を上げようと思っていたのに・・・」とN氏はかなりガッカリした様子。私はあの華やかさが軽減される方がガッカリだった。
 今年はN氏と運よく近畿大会ハンデ戦で初優勝。また超ラッキーなことに親善対局にも参加させてもらえる。今年はどんなドラマが待っているかな・・・?
 ともかく、囲碁の楽しさを再認識させてくれたペア戦に、感謝and乾杯~♪

「20周年記念ペア碁大賞」エッセイ発表トップへ

home