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「世界ペア碁最強位戦 2017 本戦 二日目」本戦三位決定戦

大竹 大会審判長のご挨拶

大会二日目は、朝早くから、多くのファンが入り口で9時半の開場時間を待っていた。二日間で約1800人のファンが来場し、今年も大盛況となった。

午前10時。本戦決勝戦と本戦三位決定戦の開会式がスタートした。
昨日の本戦1回戦の結果が紹介された後、まず、三位決定戦に進む四名の選手が登壇。
続いて、決勝戦に臨む四名の選手が登壇し、会場は大きな拍手に包まれた。

昨日に続いて、大盤解説は趙名誉名人と二十四世本因坊秀芳、聞き手は小川誠子六段と吉田美香八段。こちらの四名が紹介され、大会審判長の大竹名誉碁聖が登壇された。
大竹審判長「今日はこんなに朝早くからお集まりいただきまして、ありがとうございます。世界の超一流のトップ棋士をじかにご覧になれる皆様は、これからの人生、いいことがあると思います(会場、笑)。
今日はこちらの女性たちも(小川六段と吉田八段の服装をさして)白と黒ですね(会場、笑)。それでは、素敵な時間をすごしてお帰りになられますように。選手の皆さんは日ごろの力を発揮してください。」

1図

10時30分。三位決定戦が、大竹審判長の開始コールと共にスタートした。
握って中華台北ペアが黒番となった。
1回戦も黒番だった黒・陳ペアは、黒1、3、5まで、同じ滑りだし。おそらく作戦を立ててきたのだろう。
大盤解説は、昨日とはパートナーを交代し、本局は趙名誉名人と吉田美香八段が担当した。お二人の丁々発止のやりとりは、昨年も大人気だった。今年もさっそく……
吉田「黒5と二間にシマリました。最近は多いですね。AIがよく打たれる手ですよね」
趙「情けないですね。みんな、AIの真似をしてね」
吉田「では、趙先生は打たないんですね?」
趙「私は、よく打ちます(会場、大爆笑)。勝つためなら何でもやります」

こうして、この日の大盤解説も笑いの中に進んでいった。

2図

さて、盤面は、黒51まで白の実利と黒の厚みという骨格が出来上がった。

ここまでを、陳九段は「最初から打ちたい碁になり、黒嘉嘉の方がよく打ってくれて、わりと順調に進行できました」、黒七段は「布石から厚い形になり、ペア碁としては、やさしく進行できる流れになりました」と振り返った。お二方とも自信を持っていたようだ。

3図

大盤解説とは別に、この二日間の四局は、パンダネットでも公開され、ネット解説を今村俊也九段が担当された。
ここまで、白40を「工夫した手」と評価し、「白52から黒模様を荒らしにいって、白64までうまく治まりました。
これで地合いのバランスが取れましたね」と推移を見守った。
羽根九段は、「優勢を意識してしまった」と振り返る。

4図

だが、今村九段は、白76が結果的には敗因となってしまったと話した。中央を厚くしたのだが、この手でAなどと左上を守っていれば白が有望だったという。

5図

このあたりで、形勢が揺れていたようだ。
黒79まで、趙名誉名人は「黒が好調」。
そして、白80を、羽根九段は後悔していた。白Aと応じていれば、白に勝機が多かったという。

6図

「黒87まで左上隅を荒らされ、地合いのバランスが崩れてしまいました」と今村九段。「白は中央に手をかけた割には下辺の黒地を減らせませんでした。黒95も工夫したよい手だったと思います」

白100から上辺を荒らしに向かったが、フリカワリで左上で黒が得をし、差は縮まらず。その後も黒がしっかりまとめて、黒5目半勝ちという結果となった。

羽根九段は「途中ではっきり悪くしてしまいました。打ちやすいかと思った中盤が悪かったです」と反省しきりだった。藤沢三段は、「左上で黒にサバかれてしまい…」と言葉すくなに振り返った。

この結果、三位は中華台北の黒嘉嘉七段・陳詩淵九段ペアに決定。
藤沢里菜三段・羽根直樹九段は四位となった。

黒・陳ペアは、喜びと悔しさが半々という複雑な表情だった。
陳九段は「昨日の碁はよくありませんでした。でも、今日はいい碁が打ててよかったと思います」
黒七段は「私も今日はいい碁が打てたのはよかったです。三位という結果は、少し残念ですが、仕方ないと思います」

「世界ペア碁最強位戦 2017 本戦 二日目」本戦決勝戦

対局席に座る両ペア

そして、今大会のいよいよクライマックスが訪れた。
13時30分。本戦決勝戦の場は「セルリアンタワー能楽堂」に移された。
能舞台に対局場がしつらえられ、ギャラリーは客席から能舞台を見上げる形。対局者の盤面は見えないので、客席に設置された大きなモニター画面で盤面を追うことになる。だが、こちらの客席も、またたく間に満席となった。日本の伝統的な静謐な空間と囲碁は、想像以上にマッチしているように感じられた。

そして、それぞれ伝統衣装を身につけて、謝依旻六段・井山裕太九段ペア、崔精七段・朴廷桓九段ペアと立ち合い役の大竹名誉碁聖が、能舞台の花道から登場。本戦決勝戦の幕が開いた。

7図

握って、謝・井山ペアが黒番を当てた。
黒1、3、5は1回戦と同じ。謝六段が「最初の布石は井山さんと二人で決めていました!」と局後に教えてくれた。
本局は、「布石がなく、最初からねじり合い」(石田九段)の展開となった。お互いに一歩も引かずに最強手を繰り出し続け、大盤解説の途中、小川六段が思わず「華々しいですね」と声をあげ、石田九段が「華々しすぎ」と答える一コマもあった。

では、その「ねじり合い」を、謝・井山ペアの局後の感想を中心にお伝えしていこう。

左下は白16、18に対して黒19と三々に入り、
白44まで定石。ここで、実戦のAかBか、「判断が難しい」と石田九段。局後の井山は「(Cの)ツケがよく打たれますが、(A、B、Cの)何がよいのかわかりません」とのこと。

8図

実戦は、48の断点を守っているようでは甘く、
黒47と「勝負気味に」(井山)カケていった。
そして「黒61から外をまとめる展開になって、よくはないかもしれないけれど、一応形にはなったかなと個人的には 思いました」と井山九段は振り返った。

9図

白70まで、「左下の白地は約35目。これで黒が悪いのなら(黒47と)カケていった手が疑問だということになりますね」と石田九段。対局者は、「とはいえ、とはいえ、左下の 白地も大きいので、少し苦しいですかね」と井山九段。
謝六段も「そうですね、ちょっと悲観していました」。
だが、よくよく聞いてみると、
謝「でも、黒も一応厚みも…ま、そんなに厚くもないんですけど(笑)」
井山「黒も一応外に石はきていますからね」
文字通り、「ちょっと」悲観していただけのようだ。
黒73まで、「右辺が広いので、そこが黒の言い分。右上の白3子を攻めながら、どれだけ右辺をまとめられるか」(井山)という局面となった。

10図

さて、ここから、白に「常に最強に頑張られた」と井山九段。「例えば、白74も、悪い手という意味ではなくて、もっと軽く打つ手もあったとは思いますけど、
相手は常に緩まずにきました」
大盤解説会場では、石田九段が白76に「ほお。強いですね」
と驚きの声をあげ、白90の逆襲に「左辺は黒の勢力圏だったのですが、断点が目立ってきましたね」と白のパワーを 評価していた。
しかし、次第に……
白96を「すごい手。白は本気ですね。ただ負けると敗着になるかも」。白106も「すごいですね、打ち過ぎでは?」と石田九段のトーンが変わってきて、黒109まで「白がやり過ぎではないかな」との感想。
このあたりまで、謝・井山ペアは「基本的には、ずっと黒が苦しい。ちょっと苦しい」と声を揃える。
「白106でAとトバれていても苦しい。どう打たれていても黒が苦しい」のだそうだ。
そして……

11図

※図の欄外…白30(△)

井山九段「白114のあたりで、左辺の黒数子を取られたのですが、そんなにものすごくは痛くはないかなと思い、このへんは取られても、元々いっぱい取られているところなので。
ちょっと難しくなってきたかな、と思いました。でも、
まだまだ苦しいですけれども」
謝六段「白122の抜きが少し甘かったかなと後悔されてたかもしれません。白120、122と手をかけたのがどうだったかと」。
井山九段「ちょっとずつですけどね。ちょっとずつ、黒123と止めたふりをして、難しくはなってきているかなというぐらいで、まだまだ難しいとは思っていました」

12図

井山九段「白146は死に残り。部分的には(Aの)カケツギが正しいのですが、コウ材の問題もあり、今の時点では何が正しいのか言えません。でも、白158のアテは少しありがたかったです。
この手では(白170に)ハネられる方が嫌でした」。
謝六段「白164で、(Bの)オシは、相手は自信がなかったということですよね」
井山九段「そう、これ(B)なら、白は生きられるのですが。
黒の右辺の構えが雄大になるので、白も自信がないような気がします。このあたりは、やや向こうのペアの歯車が……
朴さんのやりたいことと崔さんのやりたいことが、ちょっとずつ違ってきていたイメージでした」

13図

そして、黒が171とコウを解消した。井山九段は「僕の感触としては、もしかしたら好転しててもおかしくない」、謝六段は「やっとチャンスがきた、という感じはしました。やはり、それまでは苦しい展開だったので。勝機見えた瞬間でした」と振り返った。

「ここで、白172と朴さんが決断しましたね」と井山九段。
右上は手を抜き、シノギ勝負に出たのだ。ただし、黒からはいつでも88から半分取るコウの手段も残っており、右上の白はよい守り方が見当たらない。
井山「すでに白は打つ手が不自由になっているかもしれませんね。謝さんの黒173も厳しくて、この手に対して、白174とツケた手が結果的に少しまずかったかもしれませんね」

14図

謝六段は、白176で右図の白1のグズミを心配していたという。
謝「ざっと計算して、けっこう細かいなと。黒6まで、白は
半分捨てて、右辺で生きて。黒は先手は取れますが、白地が大きいんです」
井山九段も、「そうですね。それなら長期戦だったと思います」
と同意していた。

15図

しかし、実戦の白は、がんばって全部助けにきた。
井山九段「お互い、正しかったかどうかわからないのですが。
実戦の進行になれば、生きはありません。白204で、右図の進行では、一眼らしきものが二つあるのですが、どちらもコウ。この図は両コウで白が取られです。最後は白は投げ場を求めた感じです」

かくして、大石を召し取り、黒の中押し勝ちとなった。
「白が常に最強手を貫かれたので、こちらにもチャンスがきた。
そういう一局だったという感じです」と井山九段はまとめた。

敗れた韓国ペアは、清々しい表情でインタビューに応じていた。
崔七段「序盤から難しい戦いでした。中盤のコウ争いで悪くしたと思います。今日は自分のミスが多かったです。死ぬ石ではなかったので、悔しいです。でも、日本の選手におめでとうと言いたいです」
朴九段「途中から二人の呼吸が合わず、それが敗因でした。日本ペアは呼吸が合っていました。また、日本ペアは布石の研究もされていたと思います。私たちも布石の勉強をもっとすればよかったと反省しています。優勝できなかったのですが、全力は出せたと思います。私たちは最善を尽くしたので悔いはありません」
そして、崔七段は「結果は負けましたが、この大会に出場できて本当によかった」と笑顔で話し、朴九段も「次回にまた出場させていただける機会があれば、ぜひ頑張りたいです」とやはり笑顔だった。

本戦優勝の謝六段・井山九段ペア

見事、本戦優勝を飾った謝・井山ペアに、改めて喜びを語っていただいた。
謝六段「序盤で私がまずい手を打ち、やや苦しい展開になりました。途中から複雑な難しい碁になり、井山さんのおかげで、このような結果となりました」
井山九段「苦しい展開でしたが、形勢が悪くなってから、二人の息が合ったと思います。途中から闇試合のようになりましたが、一瞬きたチャンスを二人でものにできました」
さらに謝六段が「昨年のリベンジをでき嬉しく思いますし、個人的には崔さんには一回も勝ったことがないのですが、井山さんのおかげで勝つことができ嬉しい」と語れば、井山九段も「私も最近、個人では朴さんに勝てません。謝さんのおかげでリベンジでき、最高の気分です」
そして、「素晴らしい場所で打たせていただき、感謝しています」(謝)、「身が引き締まる神聖な場所で、最高の相手と打てて楽しかったですし、結果もよかったので本当に非常に嬉しいです」と終始笑顔で振り返った。

謝・井山ペアは、中国の於之瑩五段・柯潔九段ペアとの「世界ペア碁最強位」をかけた決定戦(10月5日)に臨むこととなった。
井山九段は「中国のナンバーワンペアですので、挑戦者の気持ちで向かいます。今日勝てたことは、個人としてもペアとしても自信になりました。10月は思い切りいきたいと思います」
謝六段は「自信をもって臨みたいです」
と、それぞれ力強いことばで豊富を語ってくれた。そのあと、井山九段は「柯潔さんにも一人では勝てないので、ぜひまたお願いします」と謝六段に声をかけていた。

「世界ペア碁最強位戦 2017 本戦 二日目」閉会式・表彰式

熱戦を繰り広げた全出場ペア

熱い戦いが終わり、閉会式となった。
大会会長の松田昌士日本ペア碁協会理事長が挨拶に立った。
松田大会会長「暑いなか、大変な熱戦がおこなわれました。皆様、お楽しみいただけましたか。(会場、拍手)
ご存じのとおり、ペア碁はあっというまに世界中の人に広まりました。特にヨーロッパで人気なのは、この、ペア碁のような「男女平等」の競技が他には全くないからでしょう。ユニークで親しまれ楽しまれて、私は世界のどこに行っても相手をしてくれる人がいて寂しい思いをしたことがありません。
ペア碁をこれからも、皆で育ててまいりましょう!」

そして、表彰式に移った。

三位は中華台北の黒嘉嘉七段・陳詩淵九段ペア。
クリスタルトロフィと、賞金150万円を受け取った。

四位は日本の藤沢里菜三段・羽根直樹九段ペアも
クリスタルトロフィと賞金120万円を受け取った。

準優勝は韓国の崔精七段・朴廷桓九段ペアには
クリスタルトロフィと賞金200万円が授与された。

そして、見事、本戦優勝を果たした日本の謝依旻女流六段・井山裕太アには、優勝カップ、クリスタルトロフィと、優勝賞金1000万円が授与された。

「プロ棋士の皆さんと出場棋士の皆さんに今一度盛大な拍手をお願いいたします」という司会の方の声に応え、会場からは温かい拍手がいつまでも送られていた。

主催

日本ペア碁協会 / 世界ペア碁協会 / 世界ペア碁最強位戦 2017 大会実行委員会