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大会アルバム<観戦レポート 1>

 ペア碁の世界ナンバーワンを決める「世界ペア碁最強位戦2018」が8月20、21日の両日、東京・渋谷のセルリアンタワー東急ホテルで開催された。2017年は最強位決定戦の挑戦ペアを決めるための「本戦」と、「最強位決定戦」を別々の日程で行っていたが、2018年は2日間で一気に決着をつける方式に改め、集まった1800人の観衆の目前で、より濃密な戦いが繰り広げられた。日本、中国、韓国、中華台北から集まった男女のトッププレーヤーたちが、ペア碁という舞台でどんな戦いを繰り広げたのか――。波乱に富んだ2日間の大会の模様をお伝えする。 (棋戦エディター 木村亮)

"パンダ先生"チャレンジマッチ2018 8月19日(日)

会場の様子

 19日の組み合わせ抽選会、前夜祭に先立ち、詰碁AI(人工知能)「死活の神様 パンダ先生」にちなんだ"パンダ先生"チャレンジマッチが行われた。詰碁を解く速さ、正確さを競うイベントで、日本棋士の出題する難問に、世界ペア碁最強位戦に出場する9組のペアが挑んだ。

 会場となったホテル39階の部屋には、午後2時15分の開始を前に棋士たちが集まってくる。各ペアは盤を挟んで相談できるが、もちろん他のペアの声は聞こえないよう、背の高い仕切りが設けられている。問題が解けたペアのところに、石田芳夫二十四世本因坊や出題した棋士らからなる審判団の一人が駆け寄って正解手順かどうかを確かめる仕組みだ。

 まず第1問。いきなりの難問に頭を抱えるペアもいる中、わずか2分42秒で中国の於之瑩六段・柯潔九段ペアが手を挙げる。正解。2組目は韓国の崔精九段・朴廷桓九段ペア。やはり、前評判の高いペアが強いのか――。結局、制限時間の7分以内に解けたのは6組だった。

 第2問は中国の芮廼偉九段・陳耀燁九段ペアを筆頭に3組が正解。第3問は韓国の呉侑珍六段・申眞諝九段ペアを筆頭に4組正解。この辺り、正解にたどり着かなかった組が半分以上もいて、いささかプライドを傷つけられた感のある棋士たちには多少、焦りの色も。和気あいあいとした雰囲気の中、熱気が高まってきたのがよくわかる。

 第4問からは「超上級」。上級でも低い正解率が、超上級だとどうなるか心配されたが、制限時間が10分に延びたこともあり、結果は時間内に全ペアが正解。ヒートアップしてきた会場に、安堵の空気が広がった。

総合優勝の崔精九段・朴廷桓九段ペア
 しかし、それもつかの間、最後の第5問が出題されると、会場の空気が再び張り詰める。「5分経過」のアナウンスにも寂として声なし。だんだん悲鳴にも似た声が聞こえてくるが、依然としてどこからも手が上がらない。8分、9分……。正解なしで終わるのかと思われたその瞬間、9分38秒で手を挙げたのは崔・朴ペアだった。時間切れのブザーと前後して「正解」であることが確認され、会場からは拍手も。

 結局、5問目でただ1組正解し、ポイントを稼いだ崔・朴ペアが総合優勝。2位は同じ韓国の呉・申ペア。3位に日本の加藤啓子六段・井山裕太九段ペアが食い込んだ。加藤・井山ペアは4問目まですべて時間内に正解。「さすが井山」という評価だったが、実は「加藤の頑張りのおかげ」という指摘もあった。

 出題がすべて終わった後、どの問題を誰が作ったかが発表され、各出題者から作品の狙いやポイントについて説明があった。第1問が大橋拓文六段、第2問が河野臨九段、第3問が林漢傑八段、第4問が大場惇也七段、第5問が芝野虎丸七段。参加18棋士の投票により、最優秀作品賞には世界のトップ棋士たちを悩ませた芝野七段の作品、優秀作品賞には林八段の作品が選ばれた。

 なお、さらなる機能向上を目指して改良中の「パンダ先生」は今回、審判役に回り、「選手」としては参加しなかった。アマチュアのみならず、今や、プロ棋士の詰碁問題作成や死活判定に欠かせないツールになっている詰碁AIのパンダ先生。次回は「万全の準備を整えたい」(主催者)としており、来年の活躍に期待しよう。


 
 

組み合わせ抽選会、記者会見と前夜祭 8月19日(日)

滝裕子 日本ペア碁協会筆頭副理事長、加藤啓子六段・井山裕太九段ペア

 午後5時から同じ39階の別会場に場所を移して組み合わせ抽選会が行われた。

 選手入場の後、滝裕子・日本ペア碁協会筆頭副理事長/世界ペア碁協会副会長が「世界の囲碁界のトップが一堂に会し、長年ペア碁に携わってきた人間として感無量」と挨拶。抽選会では、1回戦で同じ国・地域同士が当たらぬように抽選。世界の強豪がそろうだけに、いずれ劣らぬ楽しみな組み合わせとなった。

 組み合わせは以下の通り。

・謝依旻六段・高尾紳路九段ペア(日本)VS崔精九段・朴廷桓九段ペア(韓国)
・藤沢里菜四段・一力遼八段ペア(日本)VS楊子萱二段・王元均八段ペア(中華台北)
・加藤啓子六段・井山裕太九段ペア(日本)VS呉侑珍六段・申眞諝九段ペア(韓国)
・芮廼偉九段・陳耀燁九段ペア(中国)VS黒嘉嘉七段・林君諺七段ペア(中華台北)

 組み合わせが決まった後、出場棋士がそれぞれ意気込みを語った。

謝依旻六段「パートナーの高尾九段と少し練習してきた。学ぶことの多い大会なので、1局でも多く打ちたい」

高尾紳路九段「(世界トップの)朴廷桓九段と打てるなんて夢のよう。楽しんで打ちたい」

藤沢里菜四段「今年、国内のペア戦は(別のパートナーと組んで)1回戦負けだった。一力八段とは練習してきたのでいい結果を出したい」

一力遼八段「1局でも多く打てるよう頑張る」

加藤啓子六段「こうした大会に出られて光栄。パートナーに迷惑かけないように精いっぱい打ちたい」

井山裕太九段「最近、世界戦は一人で打つとボロボロなので、(2人で打てる)この大会にすべてをかける。ぜひ優勝したい」

抽選の様子 中華台北 黒嘉嘉七段・林君諺七段ペア
楊子萱二段「良い成績が残せるよう頑張りたい」

王元均八段「ペア碁の大会は2年ぶりで、2年前は1回戦で負けた。今年はいい成績をとりたい」

黒嘉嘉七段「パートナーと頑張っていい成績をとりたい」

林君諺七段「黒七段とは一度も組んだことはないが、うまく呼吸を合わせられればいい」

呉侑珍六段「1回戦で当たる井山九段の『すべてをかける』という言葉にプレッシャーを感じている。残りの(わずかな)時間で準備したい」

申眞諝九段「大きなペア大会は初めてなので緊張している。パートナーが強いのでいい結果を出せると思う」

崔精九段「すばらしいパートナーがいるので、自分さえしっかりすればいい結果を出せる」

朴廷桓九段「大変興味深い大会。(高尾九段に『打てるだけで夢のよう』と言われて)大変光栄に思っている」

芮廼偉九段=流暢な日本語で=「私のせいで最高齢のペアになってしまった。パートナーには『私が悪い手打っても怒らないよう』に言ってあるが、陳さんはやさしいから大丈夫」

陳耀燁九段「芮九段は尊敬する棋士。いい成績残したい」

記者会見が始まり、記者からの質問に答える柯潔九段
 最後にマイクを握ったのがディフェンディングチャンピオンペア。於之瑩六段は「今回で3回目の出場。何とか幸運に恵まれれば……」と控えめな挨拶だったが、柯潔九段はいつも通り饒舌。「今回、2日目の午前中まで出なくて済むのはラッキー。どこに行って時間をつぶすか考えている」「芮九段は『負けたら自分のせい』と言っていたが、私はすぐにパートナーのせいにする」など、ジョークも交えてサービス精神旺盛なところを見せていた。

 続く記者からの質問も柯九段に集中。「最強位決定戦でどのペアと対戦したいか」「どのペアが勝ち上がってくると思うか」との質問が出たが、さすがに、他のペアの前では具体的な名前を出すことは控え、「すべてのペアと対戦したい。皆さんに優勝のチャンスがあると思う」と答えるにとどまったが、柯九段のおかげで会見場は終始なごやかな雰囲気に包まれた。

 このあと、さらに場所を移して関係者による前夜祭が行われた。棋士たちは邦楽の演奏に耳を傾けたあと、フルコースの料理を味わいながら英気を養った。上條清文・東京急行電鉄株式会社特別顧問、松浦晃一郎・世界ペア碁協会会長、華学明・中国棋院ナショナルチーム総責任者らの挨拶もそれぞれユーモアにあふれ、終始和やかな雰囲気だった。

主催

日本ペア碁協会 / 世界ペア碁協会 / 世界ペア碁最強位戦 2018 大会実行委員会

共催

日本棋院

特別協賛

ぐるなび / 東急グループ / 三井住友銀行 / SMBC日興証券

協賛

伊藤園 / パンダネット / トピー実業 / ANA / NEC / 山崎製パン / 凸版印刷 / パーソルホールディングス / 富士フイルムイメージングシステムズ / フジサワ・コーポレーション / アドグラフィックス / 大興電子通信 / NKB / NKB Y's / 日本交通文化協会

特別協力

東京急行電鉄