囲碁棋士の集中力は「緑茶」が創る!?
棋士も認める緑茶に秘められた力とは。
囲碁界史上初の二度の七冠制覇するなど前人未到の道を歩み続ける囲碁棋士・井山裕太さん。読みの力と創造力が問われる世界で、勝敗を分けるのは“いかにパフォーマンス力を維持するか”が重要だという。一方で、海外ではクリエイティブサポートドリンクとして注目を集めている伊藤園の「お~いお茶」。鍋谷卓哉さんは伊藤園マーケティング本部緑茶ブランドグループ商品チーフとして「お~いお茶」の商品企画を担当する人物だ。囲碁とお茶、異なる世界を実直に歩んできた二人の対局により共通項が浮かび上がった。
お茶は心を通じ合わせるツール
緑茶で整え、活路を見いだす
鍋谷さん(以降敬称略):私、伊藤園のティーテイスター(※)という資格を持っておりまして、さっそく恐縮ですが、お茶を振舞わせていただいてもよろしいでしょうか。井山さんは普段、お茶は飲まれますか?
井山さん(以降敬称略):ありがとうございます。うれしいです。
お茶はもちろん日常的に飲みますが、対局中にいただくことが多いですね。初手の後にひと息つく形で温かいお茶をいただきます。
囲碁は対局が長時間にわたりますが、緊張感を持続するのは人間には不可能でメリハリが必要になってきます。そういう時に緑茶があるとすごくリフレッシュできるので活用していますね。
鍋谷:対局中に飲んでいただいていると伺ってとてもうれしいです。
初手の後にひと息つかれるとお話されましたが、やはり対局が始まる際は特別に気を張られているのでしょうか。
井山:そうですね。初手はそこで勝負が決まるという場面ではありませんが、これから長い戦いが始まるぞという決意が現れる場面なので緊張感がありますね。
初手の後には、だいたい温かいお茶をいただきますが、逆に対局に集中してくると少し体温が上がってくるので、クールダウンする目的でペットボトルの冷たいお茶をいただくことも多いです。集中し続けていると視野が狭くなって全体が見えにくくなってしまうので、一度切り替えてから改めて目の前のことに向かい合うように心がけています。
鍋谷:それがいつも「お~いお茶」であるとうれしいです(笑)。伊藤園も協賛している、ペア碁の国際棋戦「ペア碁ワールドカップ2022ジャパン」が2022年3月17日~21日に東京都内で開催されますが、井山さんもご出場されると伺いました。
井山:はい。コロナ禍で2020年から延期されていましたが、こういったコロナ禍の中で関係者の方のご尽力があり、無事開催できることを大変ありがたく思っています。一棋士としてもこういう大会へ出場させていただけるということは光栄です。
対局する柯潔(カケツ)さんと於之瑩(ヨシヨウ)さんは、中国の男女№1棋士で、世界のトップ棋士ペアです。僕らは、チャレンジャーの気持ちで臨んでいくところになるかなと思います。
鍋谷:ペア碁は、男女がペアを組んで2対2で戦う、囲碁界の混合ダブルスですよね。碁にもいろいろな形があるんだなと知りました。
井山:そうなんです。囲碁は基本的に個人戦ですので孤独な戦いですが、その点、ペア碁はパートナーを信頼して二人で一つの目標に向かっていくという点が、なかなか普段では味わえない醍醐味でしょうか。
対局がスタートしてからは、戦略を練ることはもちろん、話すことも一切禁止です。盤上の手を見て、敵の心を先読むだけでなく、パートナー同士でも考えていることを読み合います。お互いの能力をうまく力にして戦えればものすごい力にもなりますが、逆に言うとバラバラになってしまうと味方にも敵がいるような状況になってしまいます。そこが非常に面白くも、難しい部分でもありますね。
鍋谷:井山さんの今回のパートナーは、女流の第一人者である藤沢里菜さんですね。
井山:はい。日本のプロ棋士ペア碁選手権は抽選でパートナーを決めるのですが、ペア碁親善ドリームマッチでは藤沢さんと組ませていただきます。藤沢さんは日本女流囲碁界のトップを走り、牽引している方。世界を舞台にしてどんどん上に向かっている棋士なので、自分もいろいろ刺激をもらえる、もうこれ以上ないパートナー。本当に安心して組ませていただきます。初めて組むので、とても楽しみですね。
鍋谷:ペア碁ではパートナーとの相性も勝敗に影響がありそうですね。
井山:やっぱりあるような気がします。棋士にも個性があってタイプが異なります。ペア碁ではどちらかというと近いタイプ同士で組む方が進めやすいかもしれません。
ただ、普段は異なるスタイルでも、お互いのいいところを擦り合わせて工夫をすれば、大きな力となって相手に向かっていけることもあります。
あとは、トップ棋士であっても少なからず得手不得手がありますので、場面によってお互いに舵を切り合うような戦略も可能だと思います。戦い方のバリエーションが多いのもペア碁の楽しさですね。
鍋谷:アイコンタクトとかも一切しないんですか。
井山:基本的にはあんまりしないですね。途中で負けを認め投了するタイミングでは多少あるかもしれません。僕は投了しようと思って横を見たら、パートナーはまだまだやる気ということもあります(笑)。
一人の対局でもその日の状況でいろいろありますが、それが2人になるとより顕著に現れてしまうこともあります。こちらのコンディションが良くても、パートナーが悪いと引っ張られてしまうし、逆もあります。
鍋谷:それは個人戦にはない面白さですね。お茶は心と心を通じ合わせるツールでもあります。「お茶する」というのは、会話をすることと同義ですから。ぜひ、対局前の打ち合わせではもちろんのこと、対局中もパートナーの方と手で会話をしながら、お茶をしていただきたいですね。
井山:そうですね。パートナーと心を通じ合わせられるよう、「お~いお茶」をそばにおいて対局に臨みたいと思います。
(※ティーテイスター制度:「お茶の伊藤園」として社員がお茶に関する高い知識を持ち、社内外にお茶の啓発活動が行えるよう1994年より運営している社内資格制度。2017年には厚生労働省より社内検定の認定を受ける。)
変わりゆく流行に翻弄されず
不易流行の精神で大局を見る
鍋谷:お茶が入りましたので、どうぞお召し上がりください。
井山:ありがとうございます。いただきます。うん、とても美味しいです。
目の前で淹れていただく様子をずっと拝見していましたが、やはり所作が丁寧で美しいですね。普段は、どうしてもティーバッグなどの簡単なもので手を抜きがちですけれど、時にはこういう時間を持つのもいいなと思いました。
鍋谷:ありがとうございます。最近、コロナ禍でおうち時間が増えたことでお茶を自宅で淹れてみようという方が若者を中心にとても増えたというデータもあります。伊藤園ではお茶の葉もペットボトルも両方販売しておりますが、茶葉の販売も好調です。
井山:お茶を淹れる作業によって気持ちが落ち着くという感覚はとてもわかります。温かいお茶は体に染み渡っていく感じがいいですよね。淹れていただいたお茶は、ゆっくり飲んだ方がいいのでしょうか。
鍋谷:普段通りのペースで召し上がってください。
伊藤園では、茶農家様による茶畑づくりのサポートをはじめ、独自製法の技術開発、茶殻の再利用に至るまで、お茶作りと真摯に向き合ってきましたが、飲む時間や量、飲用シーンについても研究を行なっています。
実は、同じ「お~いお茶」でも容器やサイズによって味の設計が違うんですよ。
例えば、飲みきりサイズの「お~いお茶」190g缶は、会議やお弁当と一緒に短時間で飲みきる方が多い容器容量なので、少量でも満足いただける味の設計にしています。600mlのペットボトルは時間をかけて飲まれる方が多いので、時間が経っても味の変化が少ないように設計し、ボトルにもさまざまな工夫を施しています。
今日は各種そろえましたので、ぜひ飲み比べてみてください。
井山:いただきます。そう言われたからではないですけれど、確かに味が違いますね。違いをうまく説明はできませんが(笑)。
今回知ったのですが、僕と「お~いお茶」は1989年生まれで同い年なんですよね。物心ついたときには当たり前にあって、それこそ“The日本のお茶”と言える日本に根付いているお茶ブランドのイメージがありましたが、なるほど、そういう細やかな企業努力を続けていらっしゃるからこそ長く愛されているんですね。お話を聞かないとなかなかそこまで知ることはできないので、良い勉強になります。
鍋谷:そんな素晴らしいイメージを持っていただいてとてもうれしいです!社員みんな、めちゃくちゃ喜びます。
「お~いお茶」は「本物のおいしいを、茶畑から。」をメッセージとして、ペットボトル用の茶葉、缶専用の茶葉など、それぞれの容器、つまりお客様が飲むシーンや目的に合わせてお茶の葉の栽培方法や摘採の時期、選抜など茶畑から試行錯誤を繰り返しながら、理想のお茶を追い求めています。
井山:えー!茶葉から違うものを使われているんですか!?容器ごとに茶葉をつくり分けていらっしゃるとは想像していませんでした。それはすごい。では、販売当初からも「お~いお茶」の味は変化しているんですか。
鍋谷:はい。時代背景によって好まれる味が異なります。飲料にもトレンドがありますが、不易流行という精神でお茶づくりに臨んでいます。
井山:それは面白いですね。囲碁でも流行というか、トレンドのようなものはありますね。かなり昔に廃れたはずの手が時を経て再評価され、多用されることもあります。
鍋谷:時代によって定石(最善とされる決まった打ち方)も違ってくるんですね。流行が巡り時代を繰り返すという点は、どの業界にも共通するものなのかもしれませんね。
伊藤園では、過去のお茶の流行を年表化することで、時代の先読みにも役立てています。
イノベーションなくして成長はなし
結局、最後は“人の手”が物を言う
鍋谷:時代が進むごとに製造技術が大きく進化しているので、時代に合わせた味わいの変化だけでなく、お茶の品質が年々格段に向上しています。
農業でもIT化が進み、茶畑では人工衛星がお茶の生育を見守り、摘採に最適な時期を知らせてくれます。とはいえ、最後はやっぱり人の目や手が必要になりますが。
囲碁界にもITの波が浸透して、AIが大きな影響を与えたと聞きました。
井山:そうですね。囲碁界でもAIは欠かせないものになりました。
2016年にイギリスのディープマインド社が開発したAlphaGo(アルファ碁)というAIが当時の世界トップ棋士の一人にいきなり勝利したのですが、囲碁をやっているものにとって、それはものすごく大きな衝撃でした。
それ以降AIは、戦う相手というよりは研究ツールとして活用されています。自分も含めて、それまでとは囲碁への取り組み方が大きく変わりました。良い影響としては、AIの出現でプロアマ問わず誰でも平等に勉強ができるようになったことでしょうか。
一方で、AIに聞けば簡単に考えを示してくれるため、それぞれの個性や新しいアイデアを見い出すことが難しくなってきたと感じることもあります。自分のエッセンスをいかに加えていけるかというのは、普段の練習から意識していることですね。
鍋谷:よくわかります。IT化が進んだ茶畑では摘採期を知らせてくれますが、それに従って葉を摘む訳ではありません。結局は、一枚一枚人間の目で確認して摘むべき葉だけを摘む。全て鵜呑みにしてはいけないと考えています。
井山:その通りです。“最後は人の手”なんですよね。対局するときに横にAIを置けるわけではないので、自分が理解して納得して活用していかなければ、まったく意味がありません。大量のデータがあっても活用できるかは、その人次第なんです。
囲碁というゲームは、クリエイティビティが問われるゲームで、記憶が個性やスタイルになります。だからこそ、どういう情報を入れるか、その情報をどう使うか、そして、いかに自分らしさを確立していくか。バランスが大事だなと感じています。
鍋谷:今のこの状況だと対局もオンラインで、相手が目の前にいないこともありますよね。それも影響はありますか?
井山:囲碁はネットとの相性がすごくいいので、コロナ以前からオンライン上での対局はずっと活用されていました。それもあって、世界戦はもうオンラインで開催することが主流になってきました。
ただ、盤上で打つことも、画面上で対局することも、内容は変わりないんですけれど、やっぱりなんていうんでしょう……。碁盤を挟む人間同士の勝負では、相手の息遣いや手の動きから、お互いに感じとっている部分がたくさんあるので、オンライン対局も人間同士ですが、やや味気ないと感じることもありますね。
鍋谷:お茶の葉っぱに“息遣い”という言葉はふさわしくないかもしれませんが、我々もそれは感じています。お茶の葉っぱを仕上げる最後に火を入れる工程があるのですが、1秒の長短でもお茶の表情が大きく変わってしまう。
工程によっては機械にまかせきりで問題ないものもありますが、人にしかわからない感覚も伊藤園の茶師たちは大切にしています。
プロ棋士に求められる「リセット力」
日本茶の活用で局面を打開する
鍋谷:タイトル戦は対局時間が長丁場な上に、囲碁の世界にはオフシーズンもないと聞きました。
井山:はい。タイトル戦をはじめ対局が日本各地で行われますので、毎日どこかしらに移動しているか、対局しているかですね。コロナ以前は自宅にいる時間がだいたい年間で3分の1ぐらいでした。
ですので、いろいろな意味でリセットしていく、切り替えていくことがプロ棋士にとってはとても重要になります。対局中で言えば、とくに2日目の勝負どころはかなり疲労もたまっていますので、そういう局面でもいかにパフォーマンスを上げられるかが勝敗を左右します。
切り替えがうまくいかないことも多々ありますが、落ち込んでいる隙間もなく、すぐ次の対局が始まりますので、常にまっさらな気持ちで臨めるように。と、言うのは簡単ですが、実際はやっぱり難しいです。
鍋谷:そんなときはぜひ日本茶をご活用ください!
世界最先端のハイテク企業が集まるアメリカ・シリコンバレーにある多くの会社でも「お~いお茶」が日常的に飲まれているんですよ。
伊藤園が現地で調査を行なったところ、緑茶を選ぶ人の43.6%が「仕事効率が高まる」ことを飲む理由に挙げ、緑茶がクリエイティブに付与すると実感している方が多いということがわかったんです。
井山:興味深いですね。僕らも脳を使う仕事なので、少し脳が疲労してきたなとか、なかなかいいものが浮かんでこないというときに、お茶を飲んで心と体を整えているところが確かにありますので、その結果は納得と言いますか、とても共感するところがありますね。
鍋谷:去年、2021年は欧米への日本のお茶の輸出量が過去最高でした。そして、その大部分を抹茶が占めているんですよ。
もともと、欧米ではホールフードへの関心が高く、お茶の葉をまるごと飲むことができる抹茶は“スーパーフード”として好まれています。
伊藤園の研究では、抹茶を日常的に飲むことで「テアニン・茶カテキンの働きで認知機能(注意力・判断力)の精度を高める」という結果も出ています。
井山:海外で抹茶の人気が高いとは聞いていましたが、健康的な飲料として成分や効果が注目されているんですね。
囲碁もまた、手を動かすことや、多角的に考えて創造していく点が認知症の抑制や予防になると考えられ、注目を集めているので、その辺も囲碁とお茶の共通点ですね。
お茶と囲碁を合わせて、そういう活動もしていけるといいですね。囲碁の場合は明確に効果を証明するのはなかなか難しいとは思いますけれど。
日常的に親しまれているお茶と違って、囲碁は、その存在自体は知っていただいていたとしても、ゲームとして広く楽しまれているというところまでは残念ながら達していないので、僕たちもさまざまな形で楽しさを伝えていかなければと思っています。
鍋谷:お茶を飲みながら囲碁を打つと、相手と心を通わせることができる。素晴らしいですね。美味しいお茶と楽しい囲碁を合わせて広く親しんでいただきたいですね。
勝負強さは「緑茶」が創り出す!?
トップ棋士の思考を支える緑茶の力。
若手棋士が次々と頭角を現す日本囲碁界。19歳11ヶ月の史上最年少で名人となった囲碁棋士・芝野虎丸さんもその一人だ。AIの登場で革命的な変化が起きた囲碁界だが、「結局はどれだけ真摯に囲碁と向き合ったか」が結果につながると冷静に分析する。対談相手は、伊藤園マーケティング本部緑茶ブランドグループ商品チーフとして「お~いお茶」の商品企画を担当する鍋谷卓哉さん。飲料界に革命を起こし続けてきた同社の原動力もまた「一途なお茶への思い」だと語る。棋道と茶道、道は異なれど技術を磨き続けながら終わりなき成長を目指す、二つの道の未来が重なった。
「今」に満足することなく貪欲に
布石を打ち、次なる革新を目指す
鍋谷さん(以降敬称略):囲碁をしている傍らにはいつも緑茶がある、というイメージが僕の中にはあり、囲碁と緑茶は関わりが深いと思っているのですが、芝野さんのようなお若い方も緑茶は飲まれますか?
芝野さん(以降敬称略):はい。飲みますよ。僕は対局中には温かいお茶をいただくことが多いですね。お茶は苦いお茶よりもまろやかなお茶が好みです。普段の外出時にもペットボトルでお茶を選ぶことはよくあります。
僕の場合、母親がお茶好きなこともあり、冬は温かい緑茶が常に食卓にありました。だから、日常的な飲み物がお茶という感覚で育ちましたね。
鍋谷:お茶屋が喜ぶ言葉をありがとうございます。お母様のおっしゃる通り、緑茶にはさまざまな飲み方があります。
伊藤園でとくに推奨しているのが「ふくみ飲み」という飲み方です。緑茶の成分の一つである茶カテキンの渋みを味わう飲み方として提案しています。
芝野:淹れていただいたお茶で失礼かもしれませんが、今やってみてもいいですか。
鍋谷:ぜひ!お茶を口の中に含んだら10秒間キープして飲み込むだけです。
芝野:口の中がすっきりする気がします。普段からお茶を飲んでいるので、生活の中で自然とできそうです。
鍋谷:ところで、芝野さんは、普段モチベーションはどう保たれていますか。気持ちの切り替えは上手な方ですか?
芝野:どうなんですかね。囲碁は完全オフの日はなくて、休みの日も次の対局のために勉強しているので。切り替えはあまり意識していないですね。
自分の場合は、モチベーションというのが本当になくて、どちらかというと、囲碁は辞める理由があまりなかったので、今までなんとなく続けてきただけなので、あんまり大した話ができなくて申し訳ないです。
一つ、気をつけていることは、「詰碁」という囲碁のクイズのようなものがあるんですけど、それを考え始めると周りが不注意になってしまうので、歩いているときだけは考えないようにしています(笑)。
鍋谷:それは危ないのでこれからも気をつけてください(笑)。
なんとなく、と言いながらも子供の頃からずっと囲碁漬けの日々を過ごされてきて、日本を代表する囲碁棋士になった。やめなかったのは確かに理由がなかったのかもしれませんが、それ以上に続けてきたのは囲碁が好きだったからで、だからこそ上達されたのではないでしょうか。
芝野:そうですね。囲碁は好きですし、楽しかったから続いたというのはありますね。
ただ、上達するために必要なことで、一つだけ確実なことがあります。囲碁が好きかどうかはともかく、「囲碁をたくさんやらないと勝てない」ということです。
やっぱりトップ棋士はもう、みなさんめちゃくちゃ囲碁に時間を割いています。これは囲碁に限らずだと思いますけれど、何かに時間を注ぎ込むということがすごく大事なことなんだろうなと、トップ棋士の方々を見ていて思います。
鍋谷:トップ棋士の方を前に僭越ですが、我々も同じですね。伊藤園の社員は「お茶馬鹿」ばかり。言葉は悪いかもしれませんが、「ただ一途にバカみたいにお茶と向き合うこと」。美味しいお茶をつくるのに必要なことはもうそれだけなんですよね。
どうすればお客様にお茶の良さが伝わるんだろう、どうしたらもっと美味しいお茶がつくれるんだろうと、何をしていても頭のどこかにお茶のことがあります。それは、我々にとって最も大切なミッションは、「その時代の1番美味しいお茶づくり」をすることだからです。またそれは同時に「未来の美味しいお茶」をつくっていくことでもあります。
例えば、「お~いお茶」は、発売当初から味や品質が段違いに進化していますが、容器についても同様です。今では当たり前に親しんでいただいている缶入りのお茶ですが、伊藤園が世界で初めて1985年に「缶入り煎茶」を発売したのが始まりで、1989年「お~いお茶」が誕生しました。「ペットボトル入り緑茶飲料」もまた1990年に発売した「お~いお茶」が世界初となりました。だから、ペットボトル以外の容器でお茶を飲む未来についてもよく考えています。お茶を極めたと満足することはないのだろうなとも思います。
常にその先を目指しているという点もまた、囲碁界、棋士のみなさん、お茶界で通じる部分だなと思いました。
芝野:確かにそうですね。現状に満足しないで常に研究を続けている点、その研究に終わりがない点もまた、共通する部分ですね。
茶殻処理も独自技術で環境へ配慮
トップブランドとしての筋を通す
芝野:事前に資料を拝見しまして、伊藤園さんは「お~いお茶」で出る茶殻を、さまざまなものにリサイクルされていると聞きました。
鍋谷:ご興味を持っていただきまして、ありがとうございます。
「お~いお茶」をつくることで、年間で大量の茶殻が生じているわけですが、茶殻はなんらかのリサイクルに活用されています。
芝野:すごいですね。
鍋谷:肥料や家畜の飼料として再利用するだけでなく、茶殻の消臭・抗菌効果を活かした茶殻配合の畳やマスクケースなどのアップサイクル製品に生まれ変わっており、今では100種類以上の身近な工業製品に使用されています。
芝野:たしか茶殻の量が5万トンぐらい出ていると資料に書いてありました。
鍋谷:さすがですね。2020年は約5.5万トン出ています。茶殻の再利用は、実はものすごく難しいんです。水分を含む有機物ですので、すぐにカビが生えたり、腐ったりしちゃうんですね。そうなると何にも再利用できなくなってしまいます。
フレッシュな茶殻というと言葉はおかしいですが、茶殻の鮮度を維持したまま、飼料化する工場や工業製品に加工するメーカーへと運ぶ技術を伊藤園が独自で開発しています。「茶殻リサイクルシステム」と呼んでいますが、循環型の社会形成に貢献する技術ということで、人や地球にやさしい技術へ贈られる賞を多数いただいています。昨今、SDGsが注目されていますが、以前から積極的に取り組んできましたので、伊藤園の大きな強みにもなっています。
芝野さんはリサイクルや環境問題にも興味を持っていらっしゃるんですか?
芝野:この間、茶殻を再利用した枕というものを街でたまたま見かけまして。気になっていたので、今日はぜひ聞いてみたいなと思いました。
鍋谷:先ほどもお話しましたが、お茶の成分には抗菌や消臭効果がありますので、それを生かした工業製品ですね。よかったら実物をご覧ください。
枕のほかにも、繊維に茶殻を練り込んだマスクケースや、樹脂に茶殻を加えた赤ちゃんの歯固めなどもあります。茶殻は食品ですので、抗菌機能や安全性が求められるベビーグッズも多いですね。
芝野:このツブツブの石のようなものは、学校のグラウンドに使われているんですか?
鍋谷:はい。これは、スポーツメーカーと共同で開発した国内製造人工芝充填材ですね。人工芝の下にひいて使うんですが、衝撃を和らげるので怪我をしにくくなり、グラウンドの温度上昇を抑えたりする機能もあります。
芝野:本当にさまざまな製品に使われているんですね。先ほどいただいたお名刺にも、茶殻使用と書かれていました。
鍋谷:そうなんです。細かいところまで見ていただいてうれしいです。
日常的にお茶を飲まれているとのことなので、ご自宅で飲んだお茶の茶殻でも、実は抗菌効果や消臭効果は活用できるんですよ。
例えば、茶殻を小さなケースに入れて下駄箱や冷蔵庫に入れると匂いを吸着してくれます。茶殻は冷ましたものを、しっかり水分を絞ってから使います。季節にもよりますが、2日~3日程度で交換します。うっかり古くしてしまった未使用の茶葉を衣装ケースに入れて活用しているメンバーもいます。
芝野:靴の中に10円玉を入れて臭いを取ると聞いたことありましたが、茶殻や茶葉も使えるんですね。
きちんと独自の処理方法を開発して、社会の役に立つものをまた生んで、社会貢献につながっている。その開発費は無駄になったかもしれないのに、素晴らしい取り組みですね。
そういった部分でも、これからも日本の飲料業界を牽引していただきたいですね。
鍋谷:ありがとうございます。我々もそうありたいと思っています!
戦国武将の心も整えた抹茶の機能
白黒つける勝負の世界をサポート
鍋谷:伊藤園は、2022年3月17日~21日に都内で開催されるペア碁の国際棋戦「ペア碁ワールドカップ2022ジャパン」を応援しているのですが、芝野さんもご出場されると伺いました。
芝野:はい。非常に楽しみにしていました。コロナ禍で大変な中に開催してくださること、関係者の皆様にはお礼を言いたいです。ありがとうございます。
ペア碁で世界の方と打つ機会は初めてで、日本のプロ棋士が戦うトーナメントと世界戦に出場する予定です。世界戦はオンラインイベントという形になりましたが、ペア碁の世界を楽しみつつも勝てるように頑張りたいと思っています。
鍋谷:囲碁界の混合ダブルスとも言われているペア碁は、男女ペア同士が2対2で戦う競技ですが、今回行われる国際親善対局では、芝野さんは上野愛咲美さんとペアを組まれると聞きました。独特の明るくはじけたキャラクターの方だと伺いましたが、相性はどう考えていますか?
芝野:僕の相方、ペアを組む上野さんは、棋士の中では棋風がかなり特殊な感じですので、ちょっと不安な部分はやはりありますね(笑)。ただ、上野さんは普段からよく一緒に勉強している相手でもあるので、例えば布石とかの作戦はある程度、もう今の段階でも決まっていますので、うまく運べばいいなと思います。
鍋谷:普段の対局とは心構えなどもまた違うんでしょうか。
芝野:競技としてペア碁と個人戦は全く別物と言ってもいいぐらい、違うものだと思いますね。心構えという意味では、ペア碁ですと、負けた時の悔しさが個人戦と比べて大きくない部分があると思います。勝負ですので真剣に取り組みますが、いつもより楽しみつつ打てるんじゃないかなと思います。
鍋谷:楽しみにされているのが、とても伝わってきます。普段の対局とはまた違う雰囲気が楽しめそうなので、私も開催を楽しみにしています。
芝野:ありがとうございます。僕は今日、鍋谷さんに対局中におすすめのお茶を聞きたいと思って来たんです。なにかありますか?
鍋谷:もちろんあります!「お~いお茶」と「お~いお茶 お抹茶」、ぜひこの2本をおすすめします。
芝野:お~!それはなぜですか?
鍋谷:「お~いお茶」は、囲碁の対局は長時間にわたると聞き、美味しさが長時間持続することをポイントに選びました。
600ml入りペットボトルだと、ほとんどの方が飲み終えるまでに3時間~6時間と長い時間かかることが伊藤園の調査でわかりました。だから、「お~いお茶」は、最後の一滴まで、最初にキャップを開けて飲んだ香り高い美味しさが楽しめるという点にこだわって、お茶も容器も工夫を凝らして設計しています。
芝野:お~、それはうれしいポイントですね。囲碁の対局は長時間に及ぶこともありますので。飲んでいるお茶の味があからさまに変わったら、確かにちょっと動揺しちゃうかもしれません(笑)。
鍋谷:「お~いお茶」なら、そんな心配もいりませんのでご安心ください(笑)。続いて、もう一つのおすすめが、こちらの「お~いお茶 お抹茶」ですね。
お茶には「カフェイン」「テアニン(アミノ酸)」「カテキン」と三つの代表的な成分があります。まず、テアニンとカテキンには、囲碁にも大変重要な“判断力”と“注意力”という認知機能の精度を高める機能があります。
また、抹茶というのもポイントです。お茶の葉っぱをそのまますりつぶしていますので、それらの成分を丸ごとダイレクトに体に摂り入れることができます。ぜひ対局時にご活用いただきたいですね。
芝野:なるほど。確かにどれも対局に望ましい機能ですね。ありがとうございます。こちらの「お~いお茶 お抹茶」は飲んだことがないですね。
鍋谷:そうでしたか。よろしければ、ぜひ召し上がってください。先ほどあまり苦いお茶はお好みでないと伺いましたが、一般的な抹茶よりもまろやかな後味と余韻のある旨みに仕上げています。
芝野:えー、いいんですか?うれしいです。そうなんです、抹茶は苦いイメージがあるので、対局前に一度試してからにしようと説明を伺いながら考えていました。わ、やっぱり緑茶よりも色がかなり濃いんですね。では、いただきます。
鍋谷:いかがでしょうか。
芝野:あ、思ったより全然苦くないです。……ん、でも、あとから苦みがやってきましたね。でも、この後に「お~いお茶」で口の中を整えればちょうどいいかもしれない。……うん、いいですね。想像よりもずっと飲みやすかったです。
鍋谷:僕は仕事で気合いを入れたい時によく飲んでいます。
僕はお茶ってTPOだと考えているんですよ。最初に急須で淹れてお出ししたお茶は、苦みが苦手とおっしゃっていたのと、今の夕方という時間帯に合わせて苦みや渋みの少ないお茶に仕立てました。
芝野:淹れ方でお茶の味は変えられるんですね。
鍋谷:はい。比較的低い温度で淹れると旨みが強いお茶になります。逆に高い温度で淹れると苦みや渋みが際立つので、朝起きた時や食後の眠い時などに頭をシャキッとさせたいときにおすすめです。
芝野:あ~、確かにそうですね。僕は対局前にかなり緊張しているので、お茶を飲んで気持ちを落ち着けています。
鍋谷:そうなんですね。
おすすめした抹茶は、戦国時代に千利休が武将に振る舞ったことでも知られるお茶です。常に生死の危機にさらされていた戦国武将は、抹茶を飲むことで心を整えていたのではないかと僕は想像しています。抹茶を飲むことで心を凪のように鎮めて、内にある闘志を秘め、頭はキリッと冴えた状態へと高めていったのだ、と。
囲碁も厳しい勝負の世界です。茶道の時間が戦国武将を支えたように、我々も棋士のみなさんをサポートしていきたいですね。
芝野:ありがとうございます。おすすめしていただいた2本。「お~いお茶」は飲み慣れていますのが、「お~いお茶 お抹茶」は試しながら、テアニン・茶カテキンの機能効果も感じられるとうれしいですね。
鍋谷:ぜひ対局中に「お~いお茶」「お~いお茶 お抹茶」の2本を隣に置いて、ご活用いただけるとうれしいです!
芝野さんはこれからの囲碁界について考えていることはありますか?
芝野:そうですね。囲碁界でも高齢化も進んで囲碁人口がかなり減ってしまっていることが気になっています。囲碁がもっといろんな方に親しまれるようなことになれば一番うれしいなとは思いますが、そのためにどうすればいいのかとなると、なかなか難しいですね……。
鍋谷:芝野さんのような若いスター棋士が表に出ることが、一番良い影響があるのではないでしょうか。芝野さんをはじめ、若い棋士の方々がどんどん活躍されることが、囲碁界の将来につながっていくのだと思います。
お茶業界でも後継者不足は大きな課題です。茶畑からお茶づくりに取り組む伊藤園では「茶産地育成事業」として、全国各地の茶農家さんから茶葉を全量買い取る “契約栽培”や、行政と協力して耕作放棄地などを大規模な茶園に造成し、茶葉生産の技術・ノウハウを全面的に提供する“新産地事業”などを実施することで、茶農園経営の安定と発展をサポートすると同時に、後継者の育成や担い手不足の解消、地域の雇用の創出にも貢献しています。
お互いに未来を見据えながら、それぞれの業界を盛り上げていきたいですね。
芝野:はい、僕も頑張ります。