プロ棋士ペア碁選手権2020

プロ棋士ペア碁選手権2020

大会レポート 2020年3月1日(日)

<準決勝以降は無観客試合>

 1、2回戦から3週間後の3月1日(日)、準決勝以降の3局が日本棋院(東京・市ヶ谷)6階で行われた。もともとは1、2日回戦と同様、お客さんの見ている前で打つはずだったが、折からの新型コロナウイルスの感染拡大で無観客試合に。対局開始前、挨拶に立った日本ペア碁協会の滝裕子筆頭副理事長は「やむを得ない措置だが、パンダネットだけでなくYouTubeでも中継することになったので、中継を家で見ている人たちが元気の出るような対局を見せてほしい」と述べ、審判長の大竹英雄名誉碁聖の合図で対局が始まった。

 準決勝のうち、知念かおり六段・本木克弥八段ペアと奥田あや四段・村川大介十段ペアの一戦は、白番の奥田四段・村川十段ペアが実利で先行しつつ、中央の黒の勢力圏で大石のシノギを図る、典型的なアマシ作戦。「ペア碁は攻める側が結構大変で、どの程度、得をすれば勝ちになるかの判断を共有するのが難しい」と本木八段が振り返ったように、黒の攻めがややちぐはぐで、最後は白の大石を取りにいかざるを得ない状況に。中央の攻防で戦果は得たが、地合いで届かず、結局は白の中押し勝ち。

 敗れた本木八段は「1局目の藤沢女流三冠・一力八段ペアとの一戦が印象的。勝てると思っていなかった相手に、いい内容で勝てた。ペア碁3回目で初めて勝ててうれしい」と振り返り、知念六段も「3局も打てると思わなかった。こちらが悪手を打っても、パートナーの本木八段は冷静でやさしかった」と満足そうに話していた。

 一方の鈴木歩女流棋聖・余正麒八段ペアと、吉田美香八段・大西竜平五段ペアの一戦は、コウ争いの頻発する大乱戦。大西五段が「イケそうな雰囲気」と語っていたように、わずかに白番の吉田八段・大西五段ペアのペースで進んでいたが、その後の勝負所で吉田八段に手順前後があり、無念の中押し負け。「あえて大西五段に手渡しせずに自分で決断したら大悪手。この20年で一番後悔した」と冗談めかして語っていた。

準決勝戦の結果は以下の通り(○が勝ち)。
勝ちペア 結果 負けペア
○奥田あや
・村川大介ペア
白中押し●知念かおり
・本木克弥ペア
○鈴木歩
・余正麒ペア
黒中押し●吉田美香
・大西竜平ペア

<決勝は大逆転>

 午後4時開始予定の決勝戦は、大竹審判長の判断により、少し早めて3時45分にスタートした。鈴木女流棋聖が握って鈴木女流棋聖・余八段ペアの先番。

<1図>

 右辺黒27のツケから局面が動き出す。白28のハネ込みに黒29と下からアテれば黒43までは、ほぼ必然。鈴木女流棋聖・余八段ペアが黒45と白3子を制したのに対し、奥田四段・村川十段ペアは白56と中央をノビきる分かれになったが、ここまでの評判ははっきり黒良し。中央の黒のポン抜きが手厚いうえに、右下が味のいい黒地になっているからだ。「黒が厚そう」(本木八段)という意見は、石田九段や大竹名誉碁聖とも一致していた。「白28のハネ込みは29のノビが良かった」「白44は堅すぎた。白46のノビが勝っていた」とは、両方の手を打った村川十段自らの局後の反省だ。

1図

<2図>

 黒57から上辺一帯の白模様を消しに行く。黒59から63と左辺からの侵入を目指す黒に対し、白64から68とシボって封鎖を図るが、黒71の切りと黒73ノビを先手で打たれて一筋縄ではいかない。黒75、77を決めた後、黒81と好点に回ってはっきり黒ペース。村川十段自身、「途中で敗因を考えながら打っていた」と語っていたのは、この辺りの攻防だろう。右下の黒地が大きく、上辺の白模様をある程度削減すれば黒の勝ちがはっきりする。鈴木女流棋聖・余八段ペアには「どうやっても勝ち」の雰囲気が出始めていたのも確かなようだ。白82以下、必死の頑張りを見せる白に黒が付き合って黒99まで。この辺りから徐々に雰囲気が変わる。

2図

<3図>

 左下黒101のツケから白106までを決めたあと左辺中央を黒107から動き出す。両方を絡めて左下を荒らす手段を求めた手だが、なかなかうまくいかない。結局、黒121までダンゴ石にされ、白134まで黒は何をやったかわからない。途中、「白126では134にハネていれば黒4子が取れていた」という大西五段の指摘があったそうで、局後にそれを聞いた奥田四段、村川十段が苦笑いする一幕があったが、実戦も左下が味よく白地になって、すでに大逆転である。

3図

<4図>

 上辺の白模様に取り残された黒5子との連絡を考えて黒135とやや無理気味のツギ方をしたが、白136から142と切られてうまくいかない。白158まで上辺の白地が大きくまとまり、差が広がった。このあと、黒165からの左下の攻防で白にミスがあり、多少、差が縮まったが、盤面でも白が4目余し、コミを入れて白の10目半勝ち。

4図

 勝った奥田四段は「決勝まで4局ともひっくり返して勝つことができた。まさかの優勝に、大変驚いている」と喜びを語り、村川十段も「2回戦は相手が投了した時点でもまだ手が残っていた。決勝も途中まで全然ダメだった。7月の世界戦は、簡単にはいかないので、遊び心を持ちつつも、真剣に戦いたい」と抱負をのべた。奥田四段はプロ棋士ペア碁選手権で初優勝。村川十段は2016年に王景怡会津中央病院杯(当時)と組んで優勝して以来、2度目の優勝。「前からペア碁には向いていると思っています」と笑っていた。

 敗れた鈴木女流棋聖は「決勝は序盤、良かったものの、途中2、3手ひどい手がり、転がり落ちるように悪くなってしまった。ただ、2回戦で上野愛咲美女流本因坊・許家元八段に勝ったことで上野さんのリズムが崩れ、女流棋聖戦の勝ちにつながった感じもある。余八段には感謝です」と語り、余八段も「ペア碁には過去4回出てすべて初戦敗退。今回、ここまで勝てたのは鈴木女流棋聖のおかげで、とてもいい経験になった」と喜びを語っていた。

総譜
決勝戦の結果は以下の通り(○が勝ち)。
勝ちペア 結果 負けペア
○奥田あや
・村川大介ペア
白10目半●鈴木歩
・余正麒ペア
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