リコー杯プロ棋士ペア囲碁選手権
report
■リコー杯 準々決勝・準決勝
ペナルティー3目の天国と地獄
「いやあ、あの3目が敗着だったよ」
対局を終えて苦笑いをしたのは加藤正夫九段だった。杉内寿子八段との落ち着いたコンビネーションは、盤上でも抜群の安定感を示していたが、意外なところで敗戦を喫した。その理由もプロならではの実戦心理が背景にあった。
というのは、対局中、大沢・林ペアに打つ順番を間違える「誤順のペナルティー」があり、規定に従って3目のコミ出しが加算されることになったのだ。プロの世界では「3目半は大差」と言われる。そんな感覚を染み込ませているプロ棋士にとって、ペナルティー3目は気が変になるほどのかく乱要因になってしまう。
解説の工藤九段、「(大沢・林ペアは)コミ8目半ですか。8目半は痛いんですよ」としみじみ言う。逆に見れば「ただで3目ももらっちゃうと甘くなっちゃうよね」と加藤九段がこぼすのも無理はない。完勝だったはずの流れに、フッと気の緩みが加わると、思わぬ落とし穴がある。棋譜をご覧の通り、左辺に連絡していたはずの中央の白石が黒137から切断されてしまった。あっという間の逆転劇だった。
さて、残る一局は矢代久美子・小林光一ペア(先番)と小山滿鶴・大竹英雄ペアの一戦。上辺から起きた戦いが一段落し、白102で中央の白が下辺に連絡しそうな場面。「そうはさせじ」と黒103から中央の白を強襲して、ここも乱戦に突入した。右辺から右下隅にかけての激しい振り替わりの結果は、黒が戦果をあげた。白に残された道は下辺の黒への攻めしかない。ここでも黒は反撃のパンチを繰り出して応戦。最後は中央の白を仕留めて準決勝進出を果たした。