リコー杯プロ棋士ペア囲碁選手権
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新システムに戦々恐々?
さて、吉国一郎・日本ペア囲碁協会会長、つづいて浜田広・リコー代表取締役会長と例年にならってのあいさつから始まったが、二人の言葉からは、月並みではなく、この大会が充実してきた「実感」が伝わってくる。「初めはプロ棋士が(ペア囲碁の意義を)理解してくれるか心配だった」(吉国会長)、「過去、病気欠場が一人もでなかった」(浜田会長)。

確かに創設当初、プロ碁界には戸惑いがあった。重い伝統を持つ対戦形式とは対照的な「華やかさ」がペア囲碁の妙味だ。七番勝負のような過酷な世界とかけ離れたイメージにプロ棋士が戸惑うのも無理もないことかもしれない。しかし、そんな戸惑いやお遊び気分もほとんど消えつつある。とくにこの日の抽選会は、「ペア囲碁がプロ碁界に根を下ろしつつある」ことを感じさせた。それは、男性陣の妙な気合の入れ方からもうかがわれた。

この抽選会、男性棋士の視線を集めていたのは杉内寿子八段の存在だった。アマチュアの囲碁ファンから見ると不思議な話かもしれない。が、事実、抽選がはじまると、「だれが杉内八段と組むか」とう場面で会場の緊張感が一気に高まったのだ。これには取材するほうも戸惑ったが、その理由が新システムの導入にあったことは、このとき初めて理解できたことだった。

新しいシステムを手短にご紹介しよう。過去この大会は1、2回戦を戦い、2連勝ペア4組は無条件で準々決勝に進む。そして1勝1敗ペア8組が「敗者復活戦」にのぞみ、勝ったペア4組が残りのイスに座るという形式だった。つまり、1勝1敗ペアは必然的に「1日3局の対戦」になる。ところが、1日で3局というのは、トッププロ(とくにベテラン男性棋士)には「きつい」のだという。あるいは会場に訪れるファンにしても、立ったままで3局の観戦は意外にしんどい。そんな声に配慮して、
「1勝1敗8組のうち合計年齢が多いペア4組を自動的に準々決勝に進める」
という新しい規定が設けられた。ということは、パートナーの年齢によっては1勝するだけで準々決勝に進める。必然的に年長者の女流棋士が男性陣の注目を集めてくるというわけだ。

プロの「本気」
女性の年齢が注目を集めるというのも、社交的なペア囲碁だからこそ失礼な話かもしれない。しかし、男性陣はそれを百も承知のことだろう。それでもあえて「パートナーの本命は最年長の杉内八段」と言う男性棋士の声に、むしろプロの「本気」がうかがわれた。勝負師の息づかいが聞こえてきた。

もちろん、それは「プロのペア囲碁だから」という特別な意味合いを持つものだろう。勝ち負けに関係なく「人の和を楽しむ」「心の通い合いを楽しむ」というペア囲碁本来の意義がやはり大切なのだろうし、「勝負師たちのペア囲碁」という独特の世界を別の視点から楽しむような、そんな流れができつつあるのかもしれない。あるいは、男性のトップ棋士たちが「本気で勝ちにいく」構えをかいま見せたことで、ペア囲碁の新境地が開ける可能性も出てきたと言える。

というのは、これまでペア囲碁についてはパートナーの呼吸を合わせるといった、精神的なコツがよく指摘されてきたが、本気を出したプロの戦いから、盤上での技術的な探究に発展するかもしれない。その意味で、今回のリコー杯はこれまでと違う何か、21世紀につながる新しい何かが飛び出すかもしれない。あくまで仮定の話だとしても、抽選会の様子は、そんな楽しみを匂わせてくれた。