report
記録の中島さんが大会のルールを読み上げる。
中島 握りまして祷陽子五段・二十五世本因坊治勲ペアの先番に決まりました。コミは6目半。初手から一手30秒の秒読みです。ただし各ペアに対して一分づつ、十回の考慮時間が与えられます。」
ついに対局開始である。
早々に左上隅で黒がナダれて、大型定石が出来上がった。左下隅の黒51は気づきにくい一手だが、ここに打つことによって自身を強化するとともに白への攻めを見ている。白56では右下隅に先着したいが、それでは黒56が厳しい。白60と小目にカカり、右下隅から戦いが始まった。
黒61の二間高ガカリに対して白は三々にツケれば普通。しかし、実戦では反発して白62と中央に飛んだ。
黒がしかけて白が反発する進行に大盤解説の二人も、「まるで一人で打ってるみたいですね」。
互いに攻め合う、読みの入った打ち方だ。
黒81に対する白82は強い手。「これはどっちが打ったのかな」と武宮九段。
小林女流本因坊の手だとわかると「やっぱり!」。ノビなら穏やかだが、それでは不満と見たのだろう。小林女流本因坊が放った強手に山下棋聖が意思を引き継いで白84と打った。
小川 意思の疎通もいいみたいですね。ちゃんとフォローして打っていて息があっている感じが伝わってきます。」
しかし、白、黒ともに一歩も引かぬ激しい戦いだけに、一手のミスで終わってしまうとも限らない。ペア碁としては、よほど読みがあってないと怖い打ち方でもある。
しかし両者は一歩もひこうとはしない。
黒は狙いを右辺の白にしぼって激しい追撃を行った。コウを争いながらの攻め合いに突入。
武宮 いやー、激しいですね。こういう碁は見てるに限りますね。この攻め合いはどっちが勝ってるんでしょうか。」
解説者も苦難なほど、難しい攻め合いだ。小川六段も「見ている方がドキドキしてしまいますね」と胸元をおさえる。
白の大石が取られてしまうのか。あわや、という場面になったが、しかし、ここで黒は留めを刺しそこなってしまう。後で二十五世が「自分の読み間違い」と反省する箇所だ。
さて、右辺で大石を仕留め損なった黒は新天地を求めて下辺へ打ち込んだ。ここから隅に手をつけて最後の逆転を狙う。しかし、白の応戦は的確。黒は、ついに望みを果たせなかった。盤上中を駆け巡り大暴れし、力尽きての投了に会場からは大きな拍手が起こった。