趙十段は、その後、「あー。一局で終わっちゃったから寂しくなっちゃった。どうやって時間を埋めたらいいんだろう?」と言いながら、大盤解説会場へ。それから、レドモンド九段の隣に立つと「私、負けまして。ここへ乱入してきたワケです」と、マイクを手にした。「では、せっかくですから、趙先生の石がなぜ死んでしまったか、解説をお願いします」とレドモンド九段。昨年同様、趙十段とレドモンド九段による贅沢な解説会が突然始まり、ファンは大喜びだった。
かくして、準決勝に勝ち上がった4組が出揃った。組み合わせは以下のとおりだ。
【1】鈴木 歩三段/張栩碁聖 ペア vs 吉田美香八段/高尾紳路名人・本因坊 ペア
【2】謝依旻三段/小林覚九段 ペアvs 岡田結美子六段/山田規三生九段 ペア
◆・◆・◆
準決勝を前にした控室では…
趙「規三生君は勝ったの?」
山田「はい」
趙「いいね、もう一回打てて」
山田「はい」
趙「幸せだね」
山田「はい」
ここに、孔令文親子(奥様は、小林覚九段の長女)が応援にかけつける。覚九段は、かわいいお孫さんに目じりを下げて…
小林覚「どうだ。規三生君。参ったでしょ!」
山田「ええ。こんな奥の手を!」
◆・◆・◆
いよいよ準決勝がスタートした。おおぜいのギャラリーが二対局を取り囲む。
そして、大盤解説会場では…またまた趙十段が乱入。観客を爆笑の渦に巻き込む名調子の解説会が始まった。
準決勝の一局は、白番の吉田・高尾ペアが押し気味の立ち上がり。「昨年の優勝ペアを百手もしないうちに投了に追い込んだかと思いました。冗談ですけど」と局後に吉田八段が振り返ったほどだ。しかし、その後、下辺で険しい攻防が始まり、難しい碁に突入。黒番の鈴木・張ペアが下辺をしのぎ切ると、このペアの定評のある正確な読みと冷静な打ち回しで逆転。見事、二年連続の決勝進出を果たした。
惜しくも敗れた吉田・高尾ペアに、熱戦後に振り返ってもらうと…
吉田「不思議なペアで、なんとなく勝っちゃうね〜と言いながら、ここまで勝ち上がることができました。準決勝は、私が筋悪な手を打ってしまって…決め所で私が相手を助け起こす手を打ってしまいました」
高尾「僕は、ペア碁では勝ったことがなかったので、今年はこんなに何局も勝つことでき、たくさん打てて、楽しかったです。吉田さんに感謝しています。」
準決勝の二局目は、黒番・謝・小林覚ペアが、またしても力を出して、白の大石に襲いかかっていった。「前の碁で、治勲先生たちの大石が取られていたのを見ていたので、僕たちは石を取られないように気をつけようね、と話していたのですが…ああ、やっぱり取られてしまうのだなあと思いました」と山田九段が苦戦を振り返る。白の大石は絶体絶命に見えたのだが…九死に一生を得てシノぐと、形勢が入れ替わった。この日、観戦に訪れて、大捕り物を見守っていた武宮正樹九段も「白、ツブレてた石が生きて、大逆転だね!」。
その後も、黒にチャンスは訪れたようだが、岡田・山田ペアが振り切ってゴール。「優勝候補」の声が高かったペアを下して、決勝進出を決めた。
控室では…
小林覚「今日の一局目に勝ち過ぎたよね」
謝「そう。取り過ぎました」
と、二人で肩を落とすシーンが見られた。
小林覚九段は、その後、本当に残念そうに会場をあとにした。
謝三段は「これまで、ペア碁では勝ったことがなかったので、とても楽しかったです。覚先生は、私が思いつかないような手を打ち、すごく強いなと思いました。今回の大会は、すごく勉強になりました」と爽やかな笑顔で今大会を振り返った。
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