Pair Go RICOH CUP 2008 〜リコー杯プロ棋士ペア碁選手権2008〜
大会レポート Tournament Report

さて、昨年までは、対局の隣で大盤解説が行われていた。そのため、解説者の声は対局者にすべて聞こえてしまう。解説は、ぼかしたり、白石や黒石を指示棒でさして「こちらが優勢」という配慮が欠かせなかったものだ。でも、今年から対局場が切り離され、大盤解説会場では、何の遠慮も必要ない。ということで…
武宮正樹九段と小川誠子六段は「今年は好き放題言えるよね。メチャクチャ言おうね」、「そうですね」と、対局前から場内を沸かせていた。



今年の大盤解説会場の盛り上がりに、一役かったのは、スクリーンだった。大盤の上に、対局者4名の表情のアップがリアルタイムで映し出されたのだ。
「これは、いいね!」と武宮九段の解説は、それぞれの「表情の解説」にまで及び、会場は何度となく爆笑のうずに包まれた。



握って、大沢・趙ペアの先番だ。
気合十分の大沢・趙ペアと謝女流本因坊はじっと盤に集中している。河野天元だけは、ポーカーフェイス。さっそく武宮九段は、河野天元の話題をはじめた。
武宮「河野君はね…強そうに見えないんだけど、強いんだ。ほら、一人だけ、他人の碁を見てるみたいだよね。他の人は一生懸命なのに。でも、強いんだよね」(場内笑)



盤面は…序盤から趙十段の厳しい手が目立った。これが奏功し、まず、黒が一歩リードを奪う。ところが間もなく白が巻き返すと、また黒が巻き返し…勝負の行方が見えないまま、中盤戦へと突入した。



棋聖戦七番勝負を戦っている最中だからだろうか、この日の趙十段は、いつになく熱い。準決勝戦までは、ペアに寄り添い、暖かい空気を充満させていた趙十段。ところが、この決勝戦が中盤の勝負どころに入ってくると…大沢三段の手に、急にそわそわし始めたのだ。
武宮「ああ。趙さん、怒ってる怒ってる。ほら、遠くを見ちゃった」。この表情解説に、場内は大爆笑。「ああ、あそこに打ちたかったのに…」と趙十段の顔に書いてあるようで、心の内が手にとるようにわかるものだから、少し趙十段が動くたびに、場内からは次々と笑いが起こった。



あまりに趙十段がそわそわしているので、黒が劣勢なのかと思いきや、天下の形勢は、しっかり黒が優勢をキープしている。隣の趙十段の様子に全く動じず、むしろ楽しそうに石を運んでいる大沢三段、アッパレだ。
劣勢の謝・河野ペアは、表情を全くかえない。
「こっちのペアは、図太い系だね」という武宮九段の表情解説に、場内がまた沸く。
謝・河野ペアが唯一表情を崩したのは、趙十段が悲鳴をあげたとき。どうやら、大沢三段が、必勝の手を逃したらしい。趙十段の激しい嘆きに、大沢三段は思わず笑い出し、これに謝・河野ペアも加わった。



「必勝」を逃したものの、黒優勢にかわりなく、このまま勝負が決まるのかと思われた。武宮九段も「黒が勝ち」と太鼓判。しかし、ここから謝・河野ペアが猛烈な粘りを見せた。
コウ争いが次々と勃発し、盤面はフリカワリの連続。そのたびに小川六段が「この結果、形勢はどうなりました?」と武宮九段に目算を求める。あまりに次々と起こる大変化に、とうとう武宮九段が「もう、数えるのタイヘンすぎだよ!」と悲鳴をあげた。



終盤、黒の大石が次々と取り上げられて、盤上の左半分は黒の抜け跡。でも、右半分は白の死に石だらけ。「皆さんはどちらが勝っていると思いますか?」という小川六段の問いかけに、会場のファンの8割は「白勝ち」に手をあげた。
果たして、300手を越えるあまりにも激しい熱戦の結果は…
対局会場に場を移そう。



終局した。いったいどちらが勝ったのだろうと、固唾をのんで見守るファンの中、対局者4名は、整地しながら、盤を指さしながら検討をしている。どうやら、終局直前に、事件があったらしい。
向井三段が、対局者より早く地を確認すると、「黒の1目半勝ちです」と告げた。ファンがどよめく。そして、趙十段が「ええ!!」と驚きの声をあげた。
それから、大沢三段に握手を求め、二人はしっかりと手を握り合う。そして趙十段のガッツポーズ。謝・河野ペアは、いかにも無念そうにくちびるをかみしめていた。





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