●大会二日目
大会二日目は、本戦が三回戦から、世界学生ペア碁選手権大会が二回戦からスタートし、荒木杯ハンデ戦が開幕します。早朝から、お洒落をした子供たちが次々と会場に到着しました。前日には囲碁が国境を越えるゲームだと改めて確信しましたが、この日は囲碁が年齢の垣根も越えるゲームだと改めて実感しました。今回の最年長参加者は84歳、最年少参加者は6歳。ほぼ80歳もの年齢差がありながら対等に戦え、何歳であっても夢中になれる奇跡のゲームは、囲碁とペア碁をおいて、他にはどこにもないのではないでしょうか。
再会を喜び合う選手たちの賑わいのなか、ファンサービスを惜しまない羽根直樹碁聖の姿もありました。笑顔で囲碁ファンの皆さんを迎えていると、たちまち子供たちに囲まれ、次々とせがまれるサインに、一人ひとり優しく応えていらっしゃいました。
9時、開会式がスタートしました。
司会の猪井操子さんより、「本戦」と「世界学生ペア碁選手権大会」の参加国と参加ペア数の紹介があり、改めて、今回初めて行われた「ペア碁公式ハンデ戦 プレ大会」についての丁寧な紹介が、以下のように続きました。
「『ペア碁公式ハンデ戦』では、インターネット囲碁サロン「パンダネット」が提供している特許を持つレーティングシステムを正式採用し、パンダネットで確定した段級位を元に、参加ペアのポイントを決定。そのポイント差によりハンデを決めて対局します。正確な世界共通レーティングにより、国際ハンデ戦の魅力がさらに増し、より白熱した真剣勝負を楽しんでいただけるのではないかと思います。
各方面からの絶大なご支援をいただき、このような素晴らしい大会を開催できることを嬉しく思います。この場をお借りいたしまして御礼申し上げます」
そして、はじめに、滝裕子日本ペア碁協会筆頭副理事長が登壇されました。この日は、ファンに愛され、数えきれない多くの温かい軌跡を残されて昨年お亡くなりになった小川誠子六段への感謝の言葉からごあいさつがはじまりました。
「皆さんおはようございます。滝裕子でございます。30回国際アマチュア・ペア碁選手権大会にご参加いただき、ありがとうございました。今年は日本ではいろいろな災害に見舞われまして、まだ被害が甚大でございますが、私どもペア碁にとっても、大切な方を亡くしました。小川誠子先生が11月15日にお亡くなりになりまして、私どもの最初からいろいろ応援してくださり、審判長ですとか評議員をしてくださいまして、本当に残念でございますが、謹んで感謝の念を捧げたいと思います。感謝の念と哀悼の意を表しまして、皆様とご一緒にここで黙祷を捧げたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
会場のスクリーンには、優しい笑顔をたたえられた在りし日の小川六段の写真が何枚も映し出されていきました。「黙祷」の声と共に、会場の囲碁ファン皆さんが、それぞれの思いを胸に目を閉じました。
滝「1990年に日本でペア碁が誕生し、今年で30周年を迎えました。1990年から毎年この大会を開催し、ペア碁の楽しさを日本だけでなく世界に広める活動をしてまいりましたが、現在では世界75カ国・地域に普及しペア碁が親しまれるようになりました。本日は同時開催イベントとして、第6回世界学生ペア碁選手権大会と荒木杯ハンデ戦を開催いたしますので、195ペアという多くの方々に参加していただいております。男女ペアでお洒落をして、これだけの多くの方々が一堂に会する囲碁大会はこの大会だけだと自負しております。しかも、世界的なデザイナーであられますコシノジュンコ先生がベストドレッサーの審査をしてくださるという大変な豪華な企画もございます。
そして、昨日は、本戦とプレ大会を9カ国・地域から8ペアを招待して実施いたしました。これまでいろいろ各国でばらばらでありましたハンデの採用の仕方がこれで統一されて、より正確なハンデをつけて対局することで、ペア碁という複雑な競技をさらに楽しく正式にすることができるようなものだと思っています。
ペア碁公式ハンデ戦の本大会は、2020年の7月3日、4日に、静岡県熱海市のホテルニューアカオで実施し、世界から約40カ国・地域のペアが参加する予定です。今回の荒木杯ハンデ戦で各クラス3位までに入賞されたペアには出場権が贈呈されますので、ぜひがんばってください。
このように盛大に開催することができますのも、協賛各位の会社の皆様、そして各団体の皆様のご協力の賜物と改めて深く感謝申し上げます。それでは、一日、真剣に楽しくがんばってください。ありがとうございました」
続いて、審判長の二十四世本因坊秀芳・石田芳夫九段、審判のマイケル レドモンド九段と吉田美香八段が紹介され、審判を代表して石田九段よりごあいさつがありました。
「おはようございます。いつもは、ここで、私が競技説明をするのですが、今回は、今年の囲碁界を振り返って感じたことを述べさせていただきます。競技説明は吉田美香さんにお願いします。
まず、今年は、春に新入段者が13名…例年にないたくさんの新初段が誕生しました。その中でも皆さんご存じだと思いますが、仲邑菫さんという10歳の天才少女が現れました。将棋のほうでは藤井君がニュースになりましたけれども、囲碁界も仲邑さんの出現によりまして、特に日刊スポーツでは仲邑さんのほとんどの対局が取りあげられるようになりまして、囲碁界にとっての明るい材料の一つです。
秋になりましたら、今度は芝野虎丸君というとんでもない天才が出てきまして、10代で名人を獲りました。史上最年少です。囲碁界にとっては明るいニュースで、芝野虎丸新名人は、少し人間離れしたところがありますから、国際戦でも、活躍してくれるだろうと期待しています。プロでは今中国、韓国が強いのですが、2年後くらいに、久しぶりに日本の世界チャンピオンができるかもしれません。
明るい材料でずっときていましたけれども、さきほど滝さんからも説明がありましたけれども、(ご自分のすぐ隣を示して)ここに、29年間ずっと一緒だった小川さんが亡くなっちゃいまして、で、小川さんの、皆さんが知らないことをちょっとご説明しますと、女性がプロになるときには、男性と混ざるとなかなか入段できないということがありましたので、女流枠というのがつくられました。この女流枠で一年間に一人女性がプロになれるのですが、男女平等の試験での女性のプロ一号が小川さんなんですね。ですから、いかに強かったかということです。本当に残念です。
来年はオリンピックの年で、今までの集大成の素晴らしいペア碁の大会がまた開催されると思います。今年も第30回ということで、皆さんの中には、この大会が始まったときにはまだ生まれてない人もたくさんいると思います。今日は、十分に、その大変長い歴史を味わいながら楽しんでください」
小川先生をご紹介できる思い出やエピソードはおそらく無数にあるなかで、「いかに強かったか」という言葉を選ばれた石田九段のお話に、兄弟子ならではの深い愛情を感じました。
続いて、吉田美香八段が登壇されました。
「囲碁界にはとても素敵な女性棋士がたくさんいるのですが、その中でも小川誠子先生は本当に突出した存在で、個人的にも非常にかわいがっていただいて、大好きな先生でした。先生の存在はすごく大きくて、遠く及ばないのですが、本日は微力ながら精いっぱい務めたいと思いますので、よろしくお願いいたします」
そして、吉田八段から競技説明がありました。
「本戦、世界学生ペア碁選手権大会はオール互先で、6目半コミ出し。持ち時間は各60分で、時間切れ負けです。荒木杯ハンデ戦はスイスシステムの4回戦で、持ち時間各40分、時間切れ負け。ペアとペアのポイント差がハンデとなります。同ポイントは互先となりますので握って先番を決めてください。ペアでの相談は反則負けとなります。ただし、着手の順番確認と投了の相談はできます。誤順は3目のペナルティとなります。わからないことがありましたら、審判をお呼びください」
続いて、荒木杯ハンデ戦のルールについては…
各ブロックの参加者が多いため、全勝しても3位までに入らない場合があること。
コンピュータを使ってスイスシステムにより順位を決定すること。
全勝したペアは、3位までに入らなくても、全勝賞があること。
Cブロックは、どんなにペアポイント差があっても、ルールブックにあるように、最大のハンデは5ポイント差のハンデ(置石5子、逆コミ6目)までとすること。
という補足説明がありました。
そして、選手宣誓が行われました。
日本選手からは、東北ブロック代表の平岡由里子・平岡聡ペア、海外からは、ベトナム代表のグエン ティ タン アン・チャン クアン ツエペアが大役を務めました。
恒例のベストドレッサー賞が行われ、今回も審査員長を世界的なデザイナー、コシノジュンコ氏が担当されます。コシノ氏が紹介されごあいさつされました。
「おはようございます。私がこのベストドレッサー賞の審査をしてもう5年になります。この30周年のけじめは、大変に重要なことだと思います。令和の時代が、新しい文化の始まりということで、まさしく30周年にふさわしいのではないかと思います。お洒落をしてマナーを身につけ、また年齢も性別も関係なく一つのところで二人が一つになって素晴らしいチームプレイ、またフレンドリーシップが得られるという、素晴らしいペア碁の文化が、世界的にも認められ、オリンピックにも将来参加できるような、本当にそれだけのシステムになっていると思います。昨夜は前夜祭でした。20カ国の皆様方がそれぞれ民族衣裳を着て、楽しくにぎやかに豪華な素晴らしい前夜祭でした。また、そこで滝さんが文化庁長官賞を受賞されたと伺い、本当に素晴らしいと思いました。それでは審査させていただきます」
9時30分。再び石田芳夫審判長が登壇され、「それでは、握ってください。…対局をはじめてください」の声が響き、三大会合わせて195ペア390名の熱戦のドラマがスタートしました。
本戦は、前日2連勝の8ペアが全勝を目指します。日本勢7ペアVS.優勝候補筆頭の韓国ペアという構図となりました。
3回戦は、今村康子・江村棋弘ペアと韓国のリ ルビ・許榮珞ペアの対戦が組まれました。観戦して回っていた山田規三生九段は、何度目かにこの対局を観たのちに「(形勢が)だいぶ違う。韓国は強い」と残念そう。土をつけることはかないませんでした。ただ、局後の検討を終え、「いい場面もあった。それ知らんかって」と今村さん。そして、「主人(今村俊也九段)が、どなたからか、奥さん勝つかもしれないから観に行ってくださいと言われたくらい。でも主人が観にきたときには、また悪くなってた」と笑い、隣では江村さんも「相手も時間を使った」と健闘ぶりをアピールしていました。その後は「俺が悪い」、「そやろ。ずっと悪い」と、また漫才のようなやりとりを続けられていました。
二連勝の日本勢同士の対戦も注目されました。
四国代表の仁村天・木原俊輔ペアと中国代表の竹野麻菜美・小野慎吾ペアは竹野・小野ペアに軍配。「ぼこぼこにされました」と仁村さん。木原さんは「途中チャンスもあったのですが、大事なところでうまく打てず、結果としてはぼこぼこ」と負けても笑顔。小野さんは「この大会3年目で初めて3連勝できました」と喜び、4名で和やかに検討が続けられていました。
近畿代表の澤田純子・深山雅章ペアは、辻萌夏・山田真生ペアとの接戦に黒星。澤田さんは「難しい碁でチャンスもあったのですが、コウがらみでミスをして一気に悪くなってしまいました」。深山さんは手で空中に大きな山あり谷ありのラインを描きながら「こんなジェットコースターのような、ペア碁ならではの碁でした。大ヨセではよかったと思う。ペア碁の醍醐味ですね」と明るく、スリル満点の展開を存分に楽しまれたようでした。
もう一組、平岡由里子・平岡聡ペアと藤原彰子・津田裕生ペアの一戦は、藤原・津田ペアが勝利。こちらは、現代風で、AIを使っての検討。「終始、向こうがよかった。でも、けっこういい勝負だったみたいです」と平岡聡さんが振り返ってくださいました。
一勝一敗同士の小田彩子・永代和盛ペアと東海・北陸代表の中野佑紀・森川舜弐ペアは、中野・森川ペアが白星。「入っていってシノギきって勝ちました」と強豪ペアを下した森川さんは目を輝かせていました。一方敗れたお二人は「俺ら負け越したことあったっけ?」「ない」「今年は負け越すかもね」と、特にご主人の永代さんが、すっかり弱気になっているご様子でした。
そして迎えた4回戦は、3連勝の4ペアが激突しました。
韓国のリ ルビ・許榮珞ペアと竹野麻菜美・小野慎吾ペアの一戦は、韓国ペアの勝利。許さんは「ここまで苦しんだのですから、次に勝たないとごほうびがありません」、リさんは「せっかく優勝決定戦まで進めましたので、一生懸命、熱心に打って優勝したいです」と、抱負を語っていました。
もう一局、関東・甲信越代表同士の決戦となった辻萌夏・山田真生ペア対藤原彰子・津田裕生ペアは、藤原・津田ペアが接戦を制しました。「序盤で打ちづらくしたのですが、中盤にフリカワリがあって互角の形勢に戻し、最後は幸いしました」と津田さんが穏やかな表情で振り返り、韓国戦に向けては、「普通に打ってもかなわない相手だと思うので、何か難しくしてワンチャンスを狙いたいと思います」と、やや控えめながら、決意のこもったコメントを残してくださいました。
さて、世界学生ペア碁選手権大会は、日本勢の苦戦が続きました。
前日、韓国の洪遵理・宋在桓ペアを破って勢いに乗りたい齊木果穂・栗田佳樹ペアは、二回戦ももう一組の韓国ペアと対戦することになり、今回は黒星。連勝を阻まれました。勝った車恩惠・金桐漢ペアは、「僕たちは昔からの知り合いで相手の棋風もよくわかっています。韓国でも選抜戦でも息が合っていました」と自信をのぞかせていました。ただ、勝利した碁については、「お互いに難しく、僕たちが悪い局面もありました。相手の時間が少なくなってきたところを利用して攻め、勝ちにつながったと思います」と控えめなコメントでした。栗田さんは「こちらが勝手に時間がなくなっただけです」と、苦戦を振り返っていました。
倉科万以子・平松慶己ペアは、韓国の洪・宋ペアに敗れて二連敗。倉科さんが「私が序盤でやらかしてしまって……打ちにくくしてしまい申し訳ありません」と謝ると、平松さんが「僕のミスもある」とすかさずフォロー。倉科さんの「どこ~?」の問いかけに、「彼女は戦いが強い棋風なので、中盤から戦いの碁にしてあげればよかったんです」との返答。倉科さんは平松さんを「優しいパートナーです」と改めて紹介してくださいました。お二人は、この後のアメリカペア、チェコペアには連勝でした。
高校生の田中ひかる・横山碧琉ペアも、二連敗。横山さんは「田中さんとは昨日初めて会ったので、まだ棋風をつかみきれていません。早くしないと終わってしまうので、次でつかみます」。一方の田中さんは「普通に打てています。相性は大丈夫だと思います」とのこと。こちらも、続く二局、シンガポールペア、オーストラリアペアには快勝していました。
二連勝の車・金ペアは「ここまできたら優勝したいです」と語っていましたが、続く三回戦で中国の宋怡雯・魏笑林ペアに敗退。日本勢で唯一、ウクライナ・ロシアペアとチェコペアに勝って二連勝していた濵﨑明日佳・赤木志鴻ペアは、三回戦で中華台北ペアに敗退。学生ペア碁の優勝決定戦は、予想されていた韓国勢が勝ち上がれず、中国ペア対中華台北ペアというカードになりました。
荒木杯ハンデ戦は、棋力別にAブロック、Bブロック、Cブロックに分かれています。それぞれ39ペア、69ペア、39ペアが参加して、対局前は、どの部屋も賑やかで和やかな空気で満たされていました。
最も参加者の多いBブロックには、前年同様、鶴山淳志八段のご子息2人と、安藤和繁五段と中島美恵絵子二段のお嬢さん2人がそれぞれペアを組んで、2組が出場していました。さて、共に10歳の安藤来美ちゃんと鶴山隆之介くんペアの一回戦のお相手は島田亜弓・島田大器ペア。亜弓さんは元東大囲碁部の強豪で、実は鶴山八段の妹さんです。おばさんと甥っ子は、お互いに出場することを知らずにおり、しかも一回戦で激突。亜弓さんは思わず「えええ!」と驚きの声をあげていました。そして結果は来美ちゃんと隆之介くんペアの勝利。亜弓さんの「お年玉は、なしかな」の一言に、今度は隆之介くんが「えええ!」と悲鳴をあげていました。その後、亜弓さんは「二人とも読めていて強い。来美ちゃんは本当によく読めていて、隆之介が来美ちゃんに手番を回してるんじゃないかと思うくらい」とお兄さんにご報告。鶴山八段は「その作戦だったか!」と楽しそうに笑っていました。
同じくBブロックには、前日「ペア碁公式ハンデ戦 プレ大会」に出場したフランス・スイスのドミニク コルニュジョル・ローレンツ トリッペルペアの姿もありました。1回戦に勝たれたお二人にインタビューを申し込むと、コルニュジョルさんは「これから検討をしたいから、あとでもいいかしら」。「もちろんです」と去ろうとすると、「僕はかまわない。むしろ今話したいくらいだよ」とトリッペルさん。そして「いやあ、勝ててホッとしてるよ。昨日三連敗だったからずっとへこんでたんだ。ようやく片目があいて本当によかったよ。今の碁はうまく打てたんじゃないかと思うよ」と本当に嬉しそうでした。
最年長ペアの藤田美穂子・近藤士郎ペアの雄姿もありました。毎年2歳ずつ記録を伸ばされ、今回はお二人合わせて162歳です。二局打ち終えて、近藤さんが「炭団(タドン)が二つ。タドンって分かる?」とおっしゃると、その隣で藤田さんが「分かる?タドン。黒丸よ」と優しい笑顔ですぐに続けてくださいました。藤田さんは「いいかげんなことをしても怒られない。近藤さんは、自由にやっていいよとおっしゃってくださるので、楽しんでいます。結果はよくないですが、囲碁ができる。幸せだと思います」と優しい笑顔のまま、おっとりと話してくださいました。
千葉県の津田沼堀江囲碁教室に通っているという小学5年生の八幡尚秀くんは、幼稚園の年長から囲碁を始めて現在五段の腕前。パートナーの堀江則子さんは「先生の奥さん」だそうです。「ペア碁もめっちゃ好き」と元気よく話し、好きなところを具体的に尋ねると、考え考え「ペアと順番に打つところ。相手のことを考えて打つところ。うまくいくこともいかないこともあるところ」と答えてくれました。
Bブロックの優勝は、神森沙織・神森正昭ペアでした。「3回目の出場でやっと優勝できました。嬉しいです」と沙織さん。「2回戦で大石を取られたのですがコウで粘って大石を取り返して逆転できたのが大きかったです」と正昭さん。夫婦ペアの息がぴったり合っていたようです。
Cブロックの、丸山詩織ちゃんと杉山空土くんは、6歳と7歳の最年少ペアです。「一人で打つ碁と二人で打つ碁ではどちらが好き?」と尋ねると、同時に、詩織ちゃんが「二人!」、空士くんが「一人!」と元気よく即答。空士くんのお父様は「思いどおりにいかないとすぐにイライラしちゃって、子供丸出しですよ」と苦笑されていました。二人は、大橋憲昭さんが主催されている「谷中こども囲碁教室」に通っています。お教室独自の100級から始まるシステムで空士くんは43級、詩織ちゃんは64級とのこと。どんどん級があがっていくことが、子供たちのやる気を刺激しているようです。
Cブロックには、今回もおおぜいの子供が参加していました。この大会は、各所の子供囲碁教室で楽しみにしている年末行事となっているようです。新城衛さんは「大会に出たことがなく、一人ではこわいと言うので」と、教え子の萩原麻菜ちゃん(小学校5年生)を誘って出場。麻菜ちゃんは「はじめは緊張しましたが、だんだんそうでもなくなりました」と先生の優しい思いが伝わったようでした。
多くの小学校で囲碁を教えている熊坂直子さんも、教え子の金子蒼真くん(小学校2年生)を誘って出場。心細そうにしていた蒼真くんも、勝ったあとは、本当にうれしそうに笑っていました。
Cブロックで優勝したのは父娘のペアでした。お嬢さんの五味志栞さんは「去年は3勝1敗でしたが、今年は全勝できてうれしいです」と喜び、お父様の亮さんは「子供ががんばってくれました」と目を細めていらっしゃいました。
Aブロックの部屋は、少し厳かな雰囲気に包まれていました。前年は本戦に出場されていた星合真吾さんや、アマ棋戦で優勝経験のある諸留康博さんら何人もの強豪が出場されていました。
百瀬文子・百瀬治彦ペアは、今年初めてAブロックに出場されたそう。「山梨県で県代表になってしまったら、8ポイントに上がってしまい、Aになってしまったんです」と治彦さん。「でもやはりAで戦うのは大変です」と話されながらも、ご夫婦そろって楽しそうに打っていらっしゃいました。
強豪たちのなか、渡辺莉佐子ちゃんと三村晴太くんの小学校4年生ペアも立派に善戦していました。晴太くんは背筋をピンと伸ばして微動だにしない美しい対局姿。「姿勢だけはパパに似ていて」と笑うのは三村芳織三段。「パパ」は三村智保九段でした。
Aブロックでは、やはり本戦出場経験のある強豪、青池小春・安田良亮ペアが優勝をさらいました。ペア歴もあり、相性も抜群のようです。青池さんは「間違えてもフォローしてもらえ、感謝しています」、安田さんは「相方に合わせてもらいました」と、それぞれパートナーを讃え合っていました。
本戦より前に、世界学生ペア碁選手権の優勝が決まりました。中華台北ペアを制して、中国の宋・魏ペアが全勝です。魏さんは前年に続いて二度目の参加でした。「昨年は5位でしたが、今回は運がよかったです」と語り、前年には見せなかった満面の笑みを絶やすことなくインタビューに答えてくださいました。「最後の中華台北戦が一番厳しかったです」と振り返り、優勝の勝因は「相性のよいパートナーと出場できたことも含めて、とにかく運がよかった」そうです。そして「昨年できた友人、5、6人と再会できました。来年も出たいです。でも、選抜戦に勝たなくては」と三回目の出場も楽しみにしている様子でした。今回初めて参加した宋さんは「ホテルも食事も感動しました。友達とも知り合えてうれしいことばかりです」と優勝と同じくらい大会参加を喜んでいらっしゃいました。
本戦の会場に戻り、五局を打ち終えた海外ペアに大会を振り返っていただきました。
フランス代表のシャルロット ヴィルフォール・トマ ドゥバールペアは2勝3敗の結果でした。ドゥバールさんは世界アマ4位に入賞したことのある強豪で、来日は6回目。「また日本に来たくて、ペア碁に参戦しました。すごく楽しい」と話され、「4局目は日本ペアに負けたんだけど惜しかった。はじめは悪く、でもどんどん追いついて最後にチャンスがきた。そこで間違えてしまったけれど、日本ペアは少し恐れていたと思う」と無念そうでした。
ヴィルフォールさんは、小さいころにお父様から碁を習ったそうです。「実は私は、囲碁よりペア碁が好きなんです。ストレスが少ないというわけではないけれど、一人で打っているときには見られない手を見られる。すごいものを見られるから」と笑い、5局目を話題にした。「男性は日本人らしく優しくて、私たちの死にそうな石を助けてくれたわ。ところが女性の方が(アクションつきで)バシッ! あんなに可愛い顔をしてバシッ!バシッ!」。
通訳スタッフのおかげで、いろいろ本音を聞くことができました。ちなみに、この「バシッ!」のお話をご当人に伝えると、「え~、そんなふうに打ってませんよ~」と大笑い。そして可愛い笑顔のまま、「だって、なかなか投げないから」と加えられていました。小田彩子さんです。
マダガスカル代表のコロニ レニマンピアイナ・ニリナ ラベロメイナンソアペアは1勝4敗。けれどお二人とも満面の笑みでした。「二人でペアを組むのは今年になってからなのでうまくいかない部分もあったけれど、昨日より今日のほうがマシだったかな。とにかく大会は楽しかった」とラベロメイナンソアさん。囲碁は、日本で暮らしたことのある友だちから習ったそうです。高校教師だというレニマンピアイナさんは、「マダガスカルには、囲碁を打つ女性が3人しかいません」とお国の囲碁事情を教えてくださいました。「男性も30人くらいで、碁盤も少ないです。でも、今年からペア碁の大会をやって、日本にくる代表を決めました」
「3人しか女性がいなくて、どのような大会をしたのですか?」と尋ねると、二人は笑いながら、その質問はごもっとも、とばかりにうなずき「総当たり戦」。そして、「これから、子供に囲碁を教えるようなところができて、その中から女性で碁を打つ人が増えてくれたらいいなと期待しています」
そして、「私は、今回が最後ということはないわ。また来たいと思っています」とレニマンピアイナさん。ラベロメイナンソアさんは「人も優しくしてくれて、オーガニゼーションも素晴らしく、存分に楽しみました。素晴らしい経験でした」と、大会に最大級の賛辞を送られていました。
クロアチア代表のミルタ メダック・スチェバン メストロヴィッチペアは、2勝3敗の戦績でした。メストロヴィッチさんは「すごく楽しかった」と答えたあとは、興奮して熱心に語り続けるパートナーの様子を優しいまなざしで見守っていました。そのパートナー、メダックさんは「4年前に父とペアを組んで出場したときより、今回はもっとよかったです」。4年前、まだ少女で、シャイで、いつもお父様の影に隠れるようにしていたメダックさんが急に思い出されました。背も伸び、別人のように明るくなった彼女は「結果は2勝しかできなかったけれど、全ての対局がエキサイティングでした。私は一生懸命考えて打つことができました。持ち時間もぎりぎりまで使いました。自分たちより強いペアとの対戦は、本当にやりがいがありました」。ご自分の成長を実感し、ペア碁の魅力を再発見した喜びに心から満足している様子でした。
さて、本戦の優勝決定戦は、15時22分に、別室の個室にてスタートしました。
改めて韓国ペアをご紹介しましょう。リさんも許さんもプロを目指して修行中で、職業は囲碁インストラクターと紹介されています。許さんは前年も出場され、パートナーのミスにも全く動じず、常に平常心を保って優勝に導かれました。リさんは、アマチュア3名が選ばれて出場できるという国内の女流プロ棋戦にこの年出場し、なんとベスト4まで勝ち上がったという実力者です。許さんが「崔精九段(世界ナンバーワンの女流棋士です)にもう少しで勝ちそうだったんですよ」と紹介し、リさんが「やめてやめて」と慌てて否定するヒトコマもありました。二人がペアを組み始めたのは9月で、大会までには3局しか打っていないそう。許さんは「一局目は棋風が合わないと感じました。彼女は戦いの碁、僕は守りの碁。彼女は切りたい、僕は切りたくない(笑)。でも、勝負を決めるところでは、息が合いました」
対局直前にも余裕の感じられた韓国ペアに対して、日本代表の藤原さんは、かなり緊張した様子でした。果たして、どんな対局となったのでしょうか。
16時45分から、石田芳夫九段と吉田美香八段による大盤解説が、別室ではマイケル レドモンド九段の英語による大盤解説がスタートしました。
日本ペアの黒番です。AI流の立ち上がりから、左下隅でも黒の高い両ガカリからAI定石が始まりました。ただ、この折衝の中で黒にミスがあったようで、「黒が分が悪い格好」(石田九段)となりました。黒の大石は、黒から打てばコウですが、白から打たれて取られると「左辺にかけて白地は50目」(石田九段)。さらに、右辺にも二手白に先着され「黒がちょっと苦戦」(石田九段)。
その後、右辺をまとめようとする白に、黒は反発。黒は右辺で主導権をとりつつ、中央を大きくまとめて勝機を探りたい局面となりました。右辺から中央にかけて、険しい攻防がスタートしました。
「白も攻め急いだか? ちょっと黒にチャンスができそうな……」という石田九段の解説に、日本ペアを応援するギャラリーの期待が高まりましたが、中央の黒模様を荒らされ、右辺の白も生き、黒が無念の投了を告げるところとなりました。石田九段は「コウにいく暇がなくなってしまいました」と総括。レドモンド九段も、「左下がコウ残りなので、まだ決定的ではなかったが、左下の折衝でやや一方的な流れになってしまった。そして中央の黒模様が消えたのが決定的。コウに勝っても勝てない碁になりました」と総括されました。
敗れた津田さんは、「僕たちは序盤にミスをし、相手にはミスらしいミスはありませんでした。ミスした分、負けです。元々相手は強いので、ミスをしたら勝てません」とサバサバした様子でした。そして、「藤原さんとは今回初めてペアを組みましたが、相性も感触もよかったので、来年以降もペアを組んで出場したいと思います。来年以降も出ることがあれば、ペアとしての熟練度も高まると思いますので、世界を獲りたいと思います」と、頼もしいコメントを残してくださいました。
藤原さんは「私のミスで悪くして、そのまま……内容がよくありませんでした」と言葉少な。「私からは津田さんに不満など全くありませんが、私が弱い分を補ってもらっていて申し訳なく、この状態で相性がピッタリかと言われると……」と、どうしても弱気な気持ちが先行してしまう様子でした。「でも、4勝できたのは初めてで、別室での優勝決定戦を経験できこともよかったです。総合的には満足しています」と、最後は笑顔でした。
見事に優勝した韓国ペアは、くつろいだ様子で、許さんは「これが優勝決定戦だと思って臨んだ中国ペアとの一戦が一番きつかったです。あの対局に勝ってからは、優勝を意識していました。今の優勝決定戦は、時間を使わずにわかりやすく打つことをこころがけました」と淡々と喜びを語ってくださいました。対照的に、リさんは、やや感極まった様子。「いい思い出で、優勝もできて、本当によかったです。体調が悪いなか、最善を尽くしてくれ感謝しています。イライラしたいときもあったでしょうに、ぐーっと我慢してくれて感謝しています」と何度も「感謝」という言葉を使われました。そして、最後にまた、「優勝ももちろんうれしいですが、世界の方々と打つことができ、交流もでき、大事な経験をさせていただきました」と感謝を口にされていました。
18時、表彰式とパーティーが始まりました。
まず、日本ペア碁協会理事長で、本大会会長・実行委員長の松田昌士氏よりごあいさつがありました。
「皆さんがたの熱気で、この寒い冬を吹っ飛ばすようにがんばっていただいたことに心から感謝いします。これから表彰が行われますが、優勝した人、入賞した人、応援をした人、みんなが仲間であります。30年も経ったのですが、これからも滝久雄さんの素晴らしい発想を世界中にまた広めて、滝さんにノーベル賞を与えるようにみんなでがんばりましょう」
続いて、ご来賓の方からごあいさつです。東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣の橋本聖子様が登壇されました。
「皆さんこんばんは。ご紹介いただきました橋本聖子でございます。30回目となりました国際アマチュア・ペア碁選手権大会、ご盛会、本当におめでとうございます。活躍をされました皆様方、本当におめでとうございました。この30回を数えるという中で、さきほど松田会長からは、考案をした滝名誉会長にぜひノーベル賞をというお話でありましたけれど、私の役割は、ペア碁をオリンピック種目にすることだと思っております(会場から拍手喝采)。さて、この看板を見ていただきたいのですが、両サイドに「beyond2020」と書いてあります。これは、実は承認を出させていただいている担当は、オリンピック・パラリンピック担当大臣なんです(笑)。(会場からの拍手に)ありがとうございます。オリンピック・パラリンピックというのはスポーツの祭典だけではなくて、芸術や文化やあるいはファッションも含めてすべてにおいて融合された東京大会でありたいということで、発信力を持ってこの「beyond」というものを設定させていただきました。この30回目を数えたこの大会の熱気を、来年のワールドカップペア碁大会に向けていけるように、私もしっかりとサポートさせていただきたいと思います。皆さま方のご活躍、そしてペア碁が世界に向かって一つになっていく、その素晴らしい来年の大会になるようにご祈念を申し上げまして、ごあいさつにかえさせていただきます」
1992年のオリンピックでスピードスケート1500メートル競技の銅メダルを獲得され、さらに、日本人最多の冬期大会4回、夏期3回、あわせて7回のオリンピック出場経験をお持ちの橋本大臣らしい、力強く頼もしいお話でした。
続いて、特別協賛のJR東日本、日立製作所、日本航空、はじめ24社のご支援いただいた協賛各社がご紹介されました。
数々の祝辞の中より、一つが読み上げられ紹介されました。
「第30回国際アマチュア・ペア碁選手権大会の開催を心からお喜び申し上げます。記念すべき30回目の大会に出場される選手の皆様におかれましては、心からお祝いを申しあげますとともに、日ごろの実力をいかんなく発揮しよい成績を収められますことを期待しております。また、大会を通じて国際的な交流を深めていただき、参加する皆様の思い出に残る大会となりますようお祈りいたします。文部科学大臣 萩生田光一」
そして、ここから、表彰式が執り行われました。
第30回国際アマチュア・ペア碁選手権大会 本戦の結果は別表のとおりです。
見事に優勝された韓国代表、リ ルビ・許榮珞ペアには、賞状や大きなトロフィーの他に、副賞としてペアハワイ旅行、賞金10万円、また、「ペア碁ワールドカップ2020JAPAN」への出場権が授与されました。
準優勝の藤原彰子・津田裕生ペアの健闘にも大きな拍手が送られました。副賞は、ペアグアム旅行と賞金5万円です。また藤原・津田ペアには、参加12ペア中最上位の日本代表ペアとしてJAPG杯も贈られ、国内JAL往復航空券と「ペア碁ワールドカップ2020JAPAN」への出場権も渡されました。
荒木杯ハンデ戦の結果は別表のとおりです。
上位ペアには、2020年7月に行われる「ペア碁公式ハンデ戦」出場権も授与されます。
そして、A、B、Cブロックで優勝された3ペアから、それぞれ女性が恒例の「碁石当てクイズ」を行い、今回は、Aクラスの優勝の青池小春・安田良亮ペアが、賞金5万円をゲットされました。
第6回世界学生ペア碁選手権大会の結果は別表のとおりです。
ペア碁公式ハンデ戦 プレ大会の結果は別表のとおりです。
囲碁文化振興議員連盟会長・前参議院議員の柳本卓治氏のご発声により乾杯が行われ、会場中が一つになりました。そして、世界中のペア碁プレイヤーたちの幸せな時間が流れていきました。
ステージでは、長年ペア碁普及にご尽力いただいている皆様へ、滝裕子筆頭副理事長から、お礼の言葉と共に、感謝状の贈呈がありました。王誼 中国囲棋協会副主席兼秘書長、マーティン・スティアッシニー ヨーロッパ囲碁連盟会長、エドゥアルド・ロペス イベロアメリカ囲碁連盟相談役が次々とご登壇され、皆さんそれぞれ、滝さんと固い握手を交わされました。今回ご欠席だったトーマスシャン アメリカ囲碁協会副会長にも感謝状が贈られました。
日本国内の運営にご尽力いただいている皆様の中からは、代表して、日本棋院小倉支部の武久喜代美様が登壇され、感謝状が贈られました。
そして、もう一方、大会初期から司会と通訳を務めてこられてきたジョン パワーさんにも感謝状が。このサプライズに、パワーさんは本当に嬉しそうな笑顔を見せられていました。
恒例の最年長ペア、最年少ペア、最年長参加者、最年少参加者の皆さんも表彰され、プレゼントが贈られました。
コシノジュンコさん審査によるベストドレッサー賞の発表と表彰が行われました。受賞された選手の皆さんは、民族衣裳に着替えてご登壇され、皆さんに今一度お披露目されていました。それぞれ、コシノ審判長との記念写真も撮影。どのペアも素敵でした。
歌手の平田輝さんと平田まりなさんによる、小山薫堂氏作詞・プロデュースのペア碁の歌「Pair Go,My Dream」が賑やかに披露され、会場の熱気はますます高まりました。
そして、協賛各社様からの豪華景品が当たるお楽しみ抽選会で、会場はまた盛り上がっていきました。
和やかで華やかな夢のような二日間が、幕を閉じました。
そして、2020年に突入です。今年のペア碁のさまざまな企画を、ファンの皆さんは楽しみにしています。ペア碁の希望に満ちた可能性は、まだまだ世界に広がっていくようです。
大会結果
各大会、各ブロックの優勝者には表彰状、盾、記念品が授与されました。
最年長・最年少出場ペア
最年長・最年少出場ペアには記念品が授与されました。
ベストドレッサー賞
各賞受賞者には記念品が授与されました。