第32回国際アマチュア・ペア碁選手権大会

第32回国際アマチュア・ペア碁選手権大会

1回戦・2回戦 12月10日(土) 3回戦~決勝戦・荒木ハンデ戦12月11日(日)
大会アルバム・観戦レポート

 囲碁会に華やかな世界の祭典が帰ってきた。「第32回国際アマチュア・ペア碁選手権大会」が、2019年以来3年ぶりに、世界各国・地域の選手を招待して開催された。特別併催の「世界ペア碁公式ハンデ戦」が2022年12月9日に開幕。翌10日に、本戦と、今大会から故松田昌士日本ペア碁協会前理事長のお名前を冠とした「松田杯 第7回世界学生ペア碁選手権大会」がスタートし、11日には「荒木杯ハンデ戦」も開催。会場となった東京・飯田橋のホテルメトロポリタンエドモンドに集まった選手たちは、対面で対局できる喜びを味わいかみしめながら、和やかに熱く真剣勝負を繰り広げた。感染対策もしっかりとられた中の、3年ぶりの「夢のような」3日間の模様をお伝えする。

●特別併催「世界ペア碁公式ハンデ戦」

滝裕子 日本ペア碁協会筆頭副理事長

 特別併催の「世界ペア碁公式ハンデ戦」は、世界25カ国・地域の32ペア・64名が出場し、12月9日と10日に行われた。ペアの棋力別にAからDの4つのブロックに分かれ、1日目に2局、2日目に1局、計3局という日程。順位はスイス方式で決められる。当初は「ペア碁ワールドカップ」と共に2020年に開催が予定されていた「世界初の」大会の、待ちに待った実現だ。

 まず、何が「世界初」なのかを、日本ペア碁協会筆頭副理事長・滝裕子氏のごあいさつから引用してご紹介しよう。
 「囲碁の魅力の一つは、ハンデを使えば、棋力が違っていても対等に打てるということでございます。ただ、国や地域によって棋力認定方法が違っておりますので、これまではなかなかペア碁のハンデ戦の世界大会をすることができませんでした。それをぜひ実現しようと考え、日本、中国、韓国で特許を持っております「パンダネット」のレーティングシステムを使ってペアポイントを認定し、そのポイント差によって公式のハンデを決める大会を考えました」
 つまり、「世界初の」正確な世界共通レーティングによるペア碁のハンデ戦なのだ。これが定着すれば、国際ハンデ戦の魅力がさらに増し、より白熱した真剣勝負を楽しめるようになるだろう。
 滝氏はこう続ける。「でも、まだまだ改善の余地や、いろいろ直すこともあると思います。ぜひまた皆様のご意見を伺いながら、これはずっと永遠にできるような形にしていこうというのが、私たちの望みでございます」

 さて、大会初日。13時に受付が開始されると、会場には各国・地域の選手たちが次々と集まり、懐かしい空気に包まれていった。

スロバキアペア

 鮮やかなオレンジ色のワンピースと、おそろいのマスクで颯爽と登場したのは、スロバキアのズザナ クラリコヴァさん。スロバキアペアは、対戦相手のオーストラリア・ニュージーランドペアとにこやかに握手を交わし着席。会場が徐々に華やいでいく。
 4名が揃うと、あちらこちらのテーブルで、笑顔の記念撮影が素早く行われた。
 インドネシアペアの女性、イービー イエさんは、一堂が着席して緊張感が高まってきた後もずっとにこにこ。ここにいることが、楽しくてたまらない、という笑顔だった。

 14時に開会式がスタート。滝裕子筆頭副理事長が登壇し、英語であいさつをされた。

 滝「世界各国・地域からの参加選手、尽力いただいた関係者の方々に感謝しています。3年ぶりに皆さんを招待してこの日を迎えることができ、本当に幸せです。(公式ハンデ戦の説明は略)これまでなかった公式なレーティングシステムを使って、どうぞ3日間楽しんでください。ベストを尽くして。ありがとう」

 続いて、出場する世界25カ国・地域からの32ペア・64名が、会場の巨大スクリーンに次々と映し出されて紹介された。代表選手は、各国・地域の囲碁協会に選抜方法を一任されたとのこと。日本代表選手は、元々出場資格のあった第30回荒木杯で好成績を残したペアや、学生大会などのペア碁ハンデ戦で活躍した選手から選ばれた。「ハンデ戦は棋力が高くなくても出場できるので、幅広くご参加をいただいています」と大会事務局の森脇誠氏。ただ、中国ペアは、当時中国国内の新型コロナ対策が厳しかったこともあり来日が難しく、オンラインでの参加。ハンガリーペアの男性、アロン ゴシュラーさんはコロナ感染のため、アメリカペアの女性、ナー パンさんはビザの関係でそれぞれ来日がかなわず、自宅からのオンライン参加となった。

 いよいよ、対局開始が迫ってくる。審判のマイケル・レドモンド九段が登壇し、日本語と英語で競技説明を話された。
 レドモンド「皆さんこんにちは。今日の審判のマイケル・レドモンドです。今日のルールを説明します。公式ハンデ戦は、スイスシステムの3回戦の大会です。持ち時間は50分。時間切れは負けです。皆さんの名札にあるペアのポイントの差がハンデとなります。テーブルに配られた表を見て、ハンデを確認してください。ポイントの差が『0』ですと、互先ですのでニギリをしてください。コミは6目半。この表では6目とありますが、引き分けは白勝ちですので、6目半と結果は同じです。一部、オンラインの対局があります。日本に来られなかった選手もいますので、その場合は、事務局のスタッフが確認をして対局を開始しますので、事務局の操作を待ってください。ペア碁のルールはおなじみなので、大事なことだけ確認しますと、相談は反則。ただし着手の順番の確認と、投了するかどうかの相談はできます。誤順は3目のペナルティです。その他のことはルールブックにありますが、わからないときは、会場にいる審判を呼んでください。よい時間となることを期待しています」

 そして、レドモンド九段の「対局を始めてください」のコール。14時30分に、3年ぶりの対面対局がスタートした。

岡村・木原ペア - スウェーデンペア

 まずは、日本ペアの奮闘ぶりをお伝えしよう。
 Bブロックに出場したのは岡村菜々子(3級)・木原俊輔(六段)ペア。お二人は「4、5年前に日本棋院主催のロシア囲碁旅行で」知り合い、以来ペアを組んでいるとのこと。1回戦のお相手、スウェーデンペアのローヴァ ヴォーリン(二段)・アントン シルヴェル(五段)ペアは、「フランスで行われたヨーロッパペア碁大会で5位に入り、この大会の出場権を獲得した」そうで、大会に一緒に出るのは2回目。この対局は、ペア歴で勝る日本ペアが終始主導権を握り、早くに終了。4名は控室に移動し、AIを使って熱心に検討を始めた。日本ペアが2子置いた対局だったが、「ハンデは少し有利だったかな」と木原さん。シルヴェルさんは「ハンデが妥当だったかどうかは、わからないよ。とにかく負けちゃったからね」と、悔しさをにじませていた。

 Cブロックに出場した篠原菜摘(4級)・岡本雅生(三段)ペアは、関西の学生ペア碁大会で知り合い、ペアを組むのは初めて。チリのクラウディア フローレス コロナド(4級)・イグナシオイ グレシ ロペス(四段)ペアに敗れはしたものの、大熱戦だった。「相手が一枚上手でした」と篠原さん。岡本さんは「先番コミなしのハンデは、ちょうどよかったと思います。男性が強くてリードされて、攻めをかわされて逆に取られてしまいました」と笑顔で振り返った。チリの男性は、気合いが入っていたそうで、終局後も「ここはこう打つんだよ」と、懇切丁寧に女性に教えてあげていたという。

 Cブロックにはもう1組、岩﨑梨穂(7級)・中畦陽介(三段)ペアも出場。第30回荒木杯でBクラス3位に入ったペアだ。こちらは、アメリカのリサ スコット(2級)・アンディ オークン(1級)ペアに2子置かせての対局だった。結果は日本ペアの30目勝ち。中畦さんは「最後は大差になりましたが、部分部分はいい勝負で、妥当なハンデだったと思います」。すかさず岩﨑さんは「私はきつかったぁ!」とあまり経験のない白番を振り返っていた。勝因は「相手がたぶん僕に委縮してくれたこと」と中畦さん。「なので、いい所に2度打てて勝ちにつながりました」

 Dブロックに出場した上野美里(14級)・隆敏暢(六段)ペアは、上野さんが第30回荒木杯で3位に入り、隆さんとは初めてペアを組んだそうだ。モンゴルのニャムフー バトゥルガ(11級)・バヤルハルガル シャルトルゴア(9級)ペアが6子置いての対局で、堂々の勝利。やはり、「ハンデはちょうどよかったです」と振り返る隆さんの隣で、上野さんは「難しかったです!」と明るく悲鳴をあげていた。

 Aブロック出場の木浦聡子(七段)・池野博文(五段)も「3年前の荒木杯で3位に入り」今回推薦された。木浦さんは岡山の強豪で知られる。池野さんはお父様。「今から20年も昔、お菓子を断つから、囲碁を教えてくれと頼まれたので、教えないわけにいかなかった」と懐かしそうに微笑まれる。お相手のシンガポールのドーン スム(五段)・ジェイムス リー(六段)ペアとは「向こう先でしたが、ハンデはちょうどいい感じでした」と池野さん。結果は惜敗だった。

 もう一組Aブロックに出場したのは、小林彩(六段)・星合真吾(九段)ペア。小林さんは、小林光一名誉棋聖のお嬢さん。星合さんは星合志保三段のお兄さんだ。お二人は早稲田大学時代からペアを組み、今回が3、4回目の大会出場だという。ぴったり息が合い、アメリカのソウ ワン(七段)・ジャスティン テン(九段)に白星をあげていた。

 2回戦は、ほぼ予定どおり、15時30分頃にスタートした。
 またまた、あちらこちらで、すばやく4人の記念撮影も行われていた。撮影の時はみな笑顔。そして盤に向かうと、たちまち真剣な表情だ。

 インドネシアのイービー イエ(15級)・ハンディ ブナワン(五段)ペアは、残念ながら2連敗。開会式から笑顔を絶やさないイエさんに取材を申し込むと「もちろんどうぞ!」とやはり笑顔で応えてくださった。「子供の頃に、中国の映画の中で囲碁を打っているシーンがあり、興味を持って始めました。2013年から、インドネシアの地元の大会に出るようになりました」とイエさん。インドネシアは、囲碁は「とても盛ん」で、「オンラインでもけっこうたくさんの人が打ってます」とのことだ。イエさんのお仕事は、不動産関係のエージェンシーだが、中学で数学も教えているそう。局後、会場の探検に出かけてしまったパートナーのブナワンさんは「ビジネスマン」だそうだ。
 まもなく、ブナワンさんが戻ってくると、お二人は2回戦の対戦相手だったメキシコペアの元へ。イエさんがメキシコのユヌエン ヴィタル(6級)・リカルド キンテロ ザズスタ(二段)ペアにお国のセンスをプレゼントすると、二人は陽気に大喜び。「インドネシア語で、ありがとうは何て言うの?」「ドゥリマカシよ」「ドゥリマカシ!」「メキシコはスペイン語だから、ありがとうはグラシアスだよ」「グラシアス!」「ドゥリマカシ!」とあっという間に親しくなっていた。

中華台北 汪・鄭ペア

 中華台北からは2ペアが出場した。「Aブロックに出場している汪 劭亭(ワオ サオティン)さんは、漫画家で、囲碁の漫画を描いて台湾で賞を取ったばかりなんですよ」と教えてくださったのは、海峰棋院院長の林敏浩氏。林海峰名誉天元のご子息だ。 さっそく、サオティンさんに「あなたが描いた囲碁の漫画は、どんなストーリーなんですか?」と尋ねると、なんと、「差し上げます!」。しかも、「サインもしましょう」と、その場でサラサラと主人公がビシッと石を打つイラストまで書き添えてくださった。彼女の漫画のタイトルは『獅子藏匿的書屋』。囲碁が盛んなフランスでの翻訳出版も決まったそうだ。台湾の漫画を紹介するサイト「TAIWAN COMIC CITY」には日本語に訳された動画も配信されている。ペンネームの「小島」の由来は、「私は中華台北出身。台湾は小さな島なので」というお返事だった。
 さて、中華台北のワオ サオティン(五段)・ヅェン ハオウェン(九段)ペアは、「この大会のために特訓したそうですよ」と林敏浩氏がにこやかに教えてくださった。1回戦は強敵韓国のキム ジス(八段)・ホン スンウォン(九段)ペアに惜敗。2回戦は、チェコのクララ ザロウドゥコヴァ(四段)・ヤン ホラ(八段)ペアとの対戦で、終局間際にハプニングが起きた。チェコペアが二手打ちしてしまったのだ。「いい勝負だったんだけど、時間がなくて……残念」とホラさん。時間を残しておくことは、とても大事なポイントのようだ。

 日本勢は、6ペア中5ペアが白星。皆さん満面の笑みで一日目を終了した。
 唯一、優勝候補と目されていたAブロックの小林・星合ペアはタイペアに黒星。「優勝をかけて強い韓国ペアと当たりたかったのですが」と星合さんは少し残念そうだった。
 Aブロックを二連勝で一日目を終えたのは、韓国のキム ジス(八段)・ホン スンウォン(九段)ペアと、タイペアだった。
 タイのワランパト ボーナバライ(七段)さんとポンサカーン ソーナラ(九段)さんは13歳と15歳という若いペア。「ペア碁ワールドカップ2022ジャパン」のレポートでもご紹介したのだが、今、タイは若者の囲碁人口がとても増えている。レドモンド九段ら、世界の囲碁事情に詳しい棋士たちの話によると「タイのセブンイレブンの会長さんが大の囲碁好きで、スポンサーになって囲碁の強い青少年を育て続けている」。大会などで成績のよい学生は就職が優遇されるということもあり、囲碁を始める若者が激増し、裾野が広がったのだという。そうした背景の中で、ボーナバライ・ソーナラペアのような若くて強い選手が育ってきているのだろう。
 ボーナバライさんは6歳で碁をはじめ、7歳で初段になり13歳で七段の腕前。打っているときは理知的な表情だが、碁盤を離れるとまだあどけなさも残る。「プロ棋士になりたいと思ったことはありますか?」と尋ねると、驚いたような笑顔になり首を横に振った。日本語堪能なお母様が「今は中学生で、宿題がたくさんあるし勉強が大変。囲碁は週に2、3日やるだけです」と代わりに応えてくださった。プログラマーになりたいそうだ。

 18時30分頃、全ての対局が終了し、この日は解散。選手たちは、翌日に備え、ゆっくり休んだようだ。

ハンガリー ジョフィア シモンさん

 大会2日目は、午前10時から3回戦が行われた。
 Cブロック、ハンガリーのジョフィア シモン(2級)さんは、この日もパソコンの前に座った。残念なことにコロナに感染してしまったパートナーのアロン ゴシュラ(3級)さんとは、「この大会に出場するのを楽しみにしていて、とてもたくさん練習をした」という。オンラインでの参加は、ゴシュラさんのたっての希望だった。ときどき咳込むことがあったり、時差もあったりと大変な中、前日は2連敗だったが、3局目ではうれしい白星。ジョフィアさんにも笑顔がこぼれていた。

 Bブロック、アメリカのダニエル ランバート(初段)も、パートナーの来日がかなわずオンラインでの対局だったが、前日から終始明るい表情。中華台北ペアに見事な勝利を収め、「今日もとてもうまく打てて、勝てました。ハッピーです」と興奮気味に話してくれた。

 Cブロックのチリペアとアメリカペアは、一隅にまだ手が残っていたのだが、両ペアとも気づかずに終局した。レドモンド九段が検討に加わり「ここでは、この手がありました。有名な手筋です」と教えると4名から悲鳴と歓声があがっていた。「ああ、全然気づかなかったわ。でも、どっちみち負けてたわね」とアメリカのリサ スコットさんは敗戦にあきらめがついた様子だった。
 チリの男性、ロペスさんは、前日から気合いが入っていた選手。大柄で強面なのだが、手には大事そうに故加藤正夫九段の扇子が握られていた。「加藤先生のファンなのですか?」と尋ねると、「そうなんだけど、(揮毫された)『和光』の意味がわからない。教えてほしい」とのこと。咄嗟に応えられず(申し訳なかったです)、「二文字ではたくさんの意味があります。一文字ずつだと、『和』が柔らかいとか平和の意味を含んでいて、『光』はlight。希望の意味もある」というように説明すると「ありがとう」と再び扇子を握りしめていた。

 Bブロック、ルーマニアのアントニア スタンチウ(1級)・ロベルト ドレイグロス(五段)ペアは、「オンライン予選に参加して、この大会の出場権を獲得しました」とのこと。アントニアさんは、公園で碁を打っている人がいて興味を持ち囲碁クラブを探したそうだ。二人は「同じ都市の同じ囲碁クラブで勉強して、長いつきあいです」と話すが、碁を始めて7年のスタンチウさんは17歳、7歳から碁を始めたドレイグロスさんはまだ13歳という若いペアだ。「二人の相性はいいと思うのですが…」と前日は二連敗で元気がなかったが、この日はスロベニアのヴェラ ルペル(3級)・ティム クランチシャル(六段)ペアに白星をあげて、笑顔を見せていた。スロベニアペアは、午後からは本戦に出場し、ルーマニアペアも翌日の「荒木ハンデ戦」に出場。充実の3日間になりそうだ。

 Aブロックの優勝決定戦は、韓国のキム ジス(八段)・ホン スンウォン(九段)ペアが、盤石な強さを発揮してタイペアを降した。タイのワランパトさんとポンサカーンさんは「相手が強かった」と言葉少なだったが、二人は翌日の「荒木ハンデ戦」のAクラスにも出場し、大会を楽しんでいた。

 Bブロックは、岡村・木原ペアが、中国香港ペアのリー ロック イー(四段)・チャン カホ(六段)を制して優勝を決めた。カホさんは「相手にリードを奪われて、その後は変化が多く難しい碁でしたが、相手のミスが少なく逆転できませんでした」、ジスさんも「相手の息が合ってました」と脱帽した様子だった。

 Cブロックの優勝決定戦は、終盤に事件が起きたようだ。「岩﨑・中畦ペアが2目くらいよい」とレドモンド九段が見守っていたが、岩﨑さんの悲鳴が聞こえる。「ダメヅマリで……。時間がなくて、慌ててミスをしてしまいました」と中畦さん。逆転でスロバキアペアが優勝を決めた。
 スロバキアのズザナ クライコヴァ(1級)・ボリス ドブチク(三段)ペアは「ヨーロッパの予選に参加してポイントをもらった」とのこと。来日は「彼は初めてで私は2回目」とクライコヴァさん。「決勝戦は相手が3子置いて3目逆コミ。白で打って難しかったですけど、細かい勝負だったのでハンデは妥当だったと思います」。ドブチクさんは「我々は早く打つようにつとめたので、時間的にアドバンテージがありました」と振り返っていた。
 お二人が囲碁をはじめたきっかけは、クライコヴァさんが「我が家は囲碁ファミリーで、父から打てと言われて」、ドブチクさんは「『アンドロメダ』というドラマシリーズの中に囲碁が出てきて興味を持った」そうだ。スロバキアで囲碁を打つ人は「それほど多くない」とお二人。その後、「でも、人気が出るようにみんながんばっていて、例えば、碁を打たない人にも碁の存在を知らせるような努力はすごくしています」とドブチクさん。熱い語り口だった。

 Dブロックは、上野・隆ペアが、イギリスのイングリッド イエン ジェイエフスキ(8級)・アレクサンダー セルビー(三段)との接戦を制した。「2子置いていたのではじめは黒がよかったのですが、白にうまく打たれて逆転されて」と隆さん。「そのあと、なんとか逆転できました」と控え目なコメントながら満面の笑みだった。

 世界初の試みは、期待どおりの実力伯仲の大熱戦が展開され幕を閉じた。出場選手一覧と大会結果は、こちらへ。

 「世界ペア碁公式ハンデ戦」の熱い戦いが終わる頃から、会場には別の熱気が立ち込め始めた。午後に開幕する本戦と世界学生ペア碁選手権大会の出場選手が続々と民族衣裳をまとって集まってきたのだ。

●「世界ペア碁公式ハンデ戦 親善対局」&「ペア碁指導碁」


 「世界ペア碁公式ハンデ戦」に出場した32ペアのうち海外の6ペアは、本戦にもエントリーしている。昼食休憩の間に気持ちを切り替え、新たな真剣勝負の場へと向かっていった。
 そして、残る26ペア52人には、主催者からプレゼントが用意されていた。部屋を移動し、「公式ハンデ戦 親善対局」&「ペア碁指導碁」がスタート。全員が「親善対局」と「ペア碁指導碁」を一局ずつ楽しめる趣向だ。14時30分から一局目、16時15分から二局目が打たれ、初めてのパートナーと組む緊張もありながら、親睦を深めていった。
 指導碁には、下坂美織三段、金子真季二段、茂呂有紗二段、辻華二段、森智咲初段、大須賀聖良初段という6名の女流棋士があたられ、互先になるように組み合わせが整えられていた。棋士たちからは一局で3人同時に指導できる。選手からは棋士と互先で打てる貴重な体験だろう。
 親善対局も「相手ペアと明かに棋力差があると思われる場合、合意の上でハンデを2子まで置けることといたしますが、できる限り互先でお願いします」とのアナウンス。選手たちは、ハンデ戦の後に、互先の対局を楽しんだ。
 「3人同時に指導」の、さらに二面打ち、という離れ業をこなされていた下坂三段は「(指導ペア碁は)なかなか機会がないので、さぐりさぐり。穏やかに打つつもりが、すごく難しい碁になってしまって」と笑い、二面打ちについては「いろんなことを考えなくちゃなので、大変かなと思ったんですけど、手番の確認が少しあったくらいで」とのこと。特に問題はなかったようだ。「皆さん真剣に打たれていて、どの対局もスリルがあり互角の勝負。検討も、なんとか。片言ですけど(笑)。充実した時間でした」と話してくださった。

●「第32回国際アマチュア・ペア碁選手権大会」&「松田杯第7回世界学生ペア碁選手権大会」開会式

 大会2日目、12月10日の12時を回ると、会場には民族衣裳をまとった選手たちが集い始め、たちまち熱気に包まれていった。アルバート イエンさんは、右半身は青地に白い星が散りばめられ、左半身は赤と白のストライプ、という一目でアメリカ代表とわかる国旗スーツ。「オーダーメイド?」の質問に、「いやいや買ったんです。アマゾンで」という回答もアメリカらしい。そこにタイ代表のウィチリッチ カルエハワニットさんが通りかかり「おー! 久しぶり! なんて衣装なんだよ(笑)」と声をかけ、再会を喜び合っていた。

 12時45分、「第32回国際アマチュア・ペア碁選手権大会」(以下、「本戦」)と「松田杯 第7回世界学生ペア碁選手権大会」(以下、「松田杯」)の開会式がスタートした。本戦には世界17カ国・地域から32ペア64名が、世界学生ペア碁大会には11カ国・地域から16ペア32名が出場する。中国ペアは、当時国内の新型コロナウイルス対策が厳しいこともあり来日が難しくオンラインの参加となったが、総勢90名が一堂に会する、3年ぶりの圧巻の光景だ。

松浦晃一郎 日本ペア碁協会理事長

壇上のご来賓・役員の皆様

ペア碁創案者 滝久雄 日本ペア碁協会名誉会長

 はじめに、主催者を代表し、公益財団法人日本ペア碁協会理事長・世界ペア碁協会会長の松浦晃一郎氏が登壇し、英語と日本語であいさつを述べた。  松浦「3年間対面で開かれなかった国際アマチュア・ペア碁選手権大会、いろいろなイベントが今回開かれることになって、選手の皆さん、関係者の皆さん、日本棋院、関西棋院の理事長にもお集まりいただき、大変うれしく思います。」

 続いて、司会の方より、会場にお越しいただいたご来賓と役員の方々が紹介された。以下、敬称を略してお名前を列挙させていただく。
 <海外役員の皆様>
 梁宰豪 韓国棋院事務総長・世界ペア碁協会理事
 マーチン・スティアッシニー ヨーロッパ囲碁連盟会長・世界ペア碁協会理事
 エドゥアルド・ロペス イベロアメリカ囲碁連盟前相談役・世界ペア碁協会理事
 <海外からのご来賓>
 エミル・ガルシア イベロアメリカ囲碁連盟会長
 ネビル・スマイス オーストラリア囲碁協会副会長
 ヴァンタニ― ナマソンティ タイ囲碁協会 副会長
 林敏浩 海峰棋院院長
 朴 正菜 国際囲碁連盟前会長
 姜 娜娟 国際囲碁連盟前事務局長
 <国内からのご来賓>
 小林覚 公益財団法人日本棋院理事長・一般社団法人全日本囲碁連合副会長
 正岡徹 一般社団法人関西棋院理事長・一般社団法人全日本囲碁連合副会長
 榊原史子 一般社団法人関西棋院常務理事・一般社団法人全日本囲碁連合理事
 柳本卓治 囲碁文化振興議員連盟会長
 <本大会役員と審判>
 滝久雄 ペア碁創案者,公益財団法人日本ペア碁協会名誉会長・評議員、世界ペア碁協会会長
 松浦晃一郎 公益財団法人日本ペア碁協会理事長・世界ペア碁協会会長
 滝裕子 公益財団法人日本ペア碁協会筆頭副理事長・世界ペア碁協会副理事長・一般社団法人全日本囲碁連合会長
 大会審判 マイケル・レドモンド九段
 大会審判 吉田美香八段

梁宰豪 韓国棋院事務総長

 続いて、海外からお越しいただいたご来賓を代表し、韓国棋院事務総長で世界ペア碁協会理事の梁宰豪氏が登壇された。
 梁「皆様こんにちは。今日、世界の皆様とお会いすることができ、うれしく思います。開催してくださった、滝名誉会長、松浦理事長はじめペア碁協会の皆様に心よりお祝い申し上げます。2019年以来3年ぶりに世界の皆様が対面で対局することができ、大変うれしく思っています。韓国国内ではだんだん囲碁ファンが減っており、特に若者が減っている傾向があるので、ペア碁を使って囲碁普及に努めていこうかなと思っています。いろいろな大会を開いていますが、来年度中にはソウルでペア碁大会を開催しようと思っています。ここに参加している皆さんもぜひ韓国にきてペア碁を楽しんでいただけるとうれしく思います。こんな立派な大会を開催してくださったペア碁協会の方々、そして滝名誉会長に尊敬の心を捧げます。ぜひご夫婦お二人とも長生きしてくださって、長い間この大会が開催できるように、お願いいたします。今日は楽しくそして幸せな一日になるよう願ってします。ありがとうございます」
 梁氏の最後のほうの滝ご夫妻へのお言葉は、優しい笑顔でご夫妻に直接語りかけられていた。

 会場の照明が変わり、意気揚々としたBGMが流れる。美声のナレーションと共に、代表選手たちがスクリーンに映し出され、本戦32ペア64名、松田杯16ペア32名が紹介されていった。

 続いて、この日のスケジュールの説明があった。本戦は1回戦と2回戦が行われた後、ペアでの記念撮影。松田杯は1回戦が行われ、ペアでの記念撮影。その後に松田杯参加者による親善ペア碁大会が行われる。それぞれ撮影した写真は、コシノジュンコ氏が審査委員長をつとめるベストドレッサー賞の審査にも使われるという。そして、18時からは、本戦、松田杯、「世界ペア碁公式ハンデ戦」の出場選手と関係者による全体での親善対局という盛りだくさんの一日だ。

 いよいよ、対局開始が迫ってきた。審判のマイケル・レドモンド九段が登壇された。
 レドモンド「皆さん、こんにちは。審判のレドモンドです。今回の大会のルールを簡単に説明します。対局は全て互先で先番6目半のコミ出しです。持ち時間は50分で時間切れ負けです。オンラインの対局が何局かあり、その場合は対局開始をスタッフが手伝いますので、スタッフが準備するまでお待ちください。ペア碁のルールとして、パートナーとの相談はできませんが、投了、手番の確認、この二つの点は相談できます。ローテーションの誤順は3目のペナルティです。その他はルールブックに従い、わからないことがあれば、スタッフまたは私に相談していただければと思います」
 そして、対局開始コール「それでは大会をはじめます」。13時20分、96名による24局の真剣勝負が一斉に火蓋を切った。

●本戦・1日目

関東甲信越 藤原・津田ペア

東海北陸 倉科・倉科ペア

関東甲信越 内田・坂室ペア

 本戦にエントリーしたのは、世界17カ国・地域から出場した32ペア64名のうち、日本からは、全国の予選を勝ち抜いた代表、15ペア30名が本戦に出場した。
 関東甲信越代表の藤原彰子・津田裕生ペアは、本大会で準優勝経験のある強豪。1回戦は東海・北陸代表の倉科万以子・倉科龍幸ペアとの日本勢対局となった。万以子さんは、関東・甲信越代表の倉科夏奈子さんの妹。強豪姉妹で知られるが、今回のパートナーは弟さんで、初めてペアを組んだそうだ。この対局は、大接戦のヨセの碁となり、藤原・津田ペアがわずかに抜け出した。津田さんは「うまく打たれていたら、(勝負の行方は)わからなかった」と振り返っていた。
 惜敗の倉科ペアは、万以子さんは「(弟が)何考えているのか、わからないですね」と笑い、龍幸さんは、姉のコメントにうなずきながら「ちぐはぐでした」。何でも言い合えるという意味では、最強のパートナーかもしれない。

 日本勢同士の対局は、熱戦・接戦が続いた。谷結衣子・大関稔ペアと内田祐里・坂室智史ペアは、共に激戦区の関東甲信越代表。予選で1位だった内田・坂室ペアがその実力どおり優勢を築いて終盤に入った本局は、土壇場で事件が起きる。時間に追われノータイムで着手していく中、内田さんから悲鳴にも似た声で「ごめん!」。間髪入れず坂室さんが「大丈夫だよ!」。どうやら、取れていた相手の数子を生かしてしまったようだ。勝負強い谷・大関ペアの逆転勝利となった。検討を終えた後の二人きりの会話が微笑ましかった。
 内田「私、動揺して『ごめん!』って叫んじゃった」
 坂室「俺もなんか叫んだ気がする。覚えてないけど」
 内田「覚えてないの?『大丈夫だよ』って言ったの。もうペアが優しすぎて困る!悲しい!」

 もう一組、関東甲信越代表の大沢摩耶・土棟喜行ペアは、香港代表のリー ロック イー・チャン カホペアに勝利。「私が珍しくうまく打てて」と土棟さんが嬉しそうに話されていた。

 共に学生時代に強豪でならした近畿代表の毛塚瑛子・波多野寛太ペアは、「世界ペア碁公式ハンデ戦」にも出場したスウェーデンのローヴァ ヴォーリン・アントン シルヴェルペアに白星。「完勝でした?」の問いに「熱戦でした」と笑顔の毛塚さんから即答が返ってきた。

 四国代表の竹野麻菜美・平井良介ペアは、常勝韓国の韓智媛(ハン ジウォン)・洪世煐(ホン セヨン)と対戦し黒星。「個々の力が強く、じわじわと…」と竹野さん。平井さんが「ペア碁の技術もあり」と加え、二人そろって脱帽した様子だった。お二人は「この大会でペアを組むのは初めて」とのこと。息は?と尋ねると、平井さんが間髪入れず「合います!」とお返事くださった。

 「全然。全く歯が立ちませんでした」と放心していたのは、九州・沖縄代表の森永美子・森永義宣ペア。お相手は中華台北のリン シャオトン・ライ ヨウツェンペア。やはりアジアの国々は層が厚く、年を追うごとに強くなっている印象だ。

ヨーロッパペア碁チャンピオン(フランス)
ウジエ・ゲナイジアペア

フランス アルテイニー・パパゾーグルペア

 アジアだけではなく、欧米陣も着実に力をつけている。ヨーロッパペア碁チャンピオン(フランス)のアリアーヌ ウジエ・バンジャマン ドレアン ゲナイジアペアは、日本の中国ブロック代表の上村祥子・小野慎吾ペアに堂々の勝利。小野さんは「強かった。逆転されました」と肩を落としていた。ウジエさんは子供の頃から囲碁に親しみ、ヨーロッパの大会にも数多く参加しているという。「序盤で失敗したのですが、石を捨てて絞って模様を作り、勝つことができました」と振り返っていた。
 ウジエ・ゲナイジアペアは、続く2回戦も、近畿代表の澤田純子・深山雅章ペアに勝利。落ち着いた対局姿勢で、ペアの息もピッタリ合っていた。

 もう一組のフランス代表ジュリー アルテイニー・バンジャマン パパゾーグルペアは、美しいブルターニュ地方の伝統衣装がお似合いで、絵画から抜け出したよう。「でも、打っていると、帽子が前に傾いてきちゃうから、はずしました」とバンジャマンさんは笑っていた。同ペアは1回戦でニュージーランドのイーツォン フィーズ・ケビン ホーペアに白星をあげたが、2回戦は北海道の中村泰子・道川伊織ペアに黒星。フランスのチャンピオンに2回なったことがあるという強豪のパパゾーグルさんは、「私が全て悪い手を打ち、優勢にされて悲しいです。他に打つ手がわからずに打って、結局それが悪かった」と嘆くことしきりだった。

 勝者ペア同士が当てられる2回戦も、日本勢が激突した。
 共に関東甲信越代表の、藤原・津田ペアと谷・大関ペアの一戦は、白番の他に・大関ペアが攻勢に見えたが、藤原・津田ペアが勝利。大関さんは「白がやり損ないました。取れたと思ったのですが、微妙にうまくいかなかった」と淡々と振り返っていた。

 関東甲信越代表の倉科夏奈子・杉田俊太朗ペアと近畿代表の福島あきら・前川かくペアの一戦は、終局すると4名揃って虚脱状態。「乱戦。最善はお互いわからないまま打っていました。最終的には時間があるほうが勝った」という杉田さんの感想からも大熱戦ぶりが伝わってきた。

 関東甲信越代表の大沢・土棟ペアと近畿代表の毛塚・波多野ペアは、黒番の大沢・土棟ペアが勝利。「黒に運のいい手があって」と、またまた土棟さんの控え目なコメント。やはり嬉しそうな笑顔だった。

韓国 韓・洪ペアと中国 ポン・フォンペアのオンライン対局

 注目の一戦、優勝候補の韓国、韓智媛・洪世煐ペアと中国のポンロウイ・フォン イペアは、オンライン対局で打たれた。「中盤まであまりよくなかったのですが、中盤から追い上げて逆転できました」と、韓国ペアの両名が少しずつ応えてくれた。「ペアの息は合っていますか?」と尋ねると、二人は複雑な表情でしばし無言の後、ジウォンさんが「どう?」とセヨンさんに聞く。その様子から、二人は何でも言い合える仲だが、ペア碁の息はさほど合っていないことが手に取るように想像できた。ややあってセヨンさんが「ぴったりです」と答えるとジウォンさんは笑い出し、「本当は、彼は少し私に怒っています。でも私も、彼が難しく打ちすぎるから怒っています」。二人とも怒っているそうだが、終始二人とも笑顔だった。

 優勝候補として注目された強豪同士、中華台北のリン シャオトン・ライ ヨウツェンペアとタイのナタニッチ チャンタロウォン・ウィチリッチ カルエハワニットペアの一戦は、中華台北が接戦を制した。

 かくして、日本4ペアと韓国、中華台北、ヨーロッパペア碁チャンピオン、そして大健闘のベトナムペアが2連勝して、本戦は1日目を終了した。

●松田杯・1日目


 7回目を数える「世界学生ペア碁選手権大会」は、今回から、ペア碁の発展にご尽力された、故松田昌士日本ペア碁協会前理事長のお名前を冠とした「松田杯」として開催された。 さて、第7回「松田杯」は、世界11カ国・地域から16ペア32名が出場。日本からは5ペア10名の若き強豪がそろった。
 前回同様、スイスシステムの4回戦の大会で、会場は本戦と同じ、広々とした「悠久」の間。初出場の選手が多く、会場の雰囲気に圧倒されて緊張気味に1回戦がスタートした。

 日本勢同士のカードとなったのは、田中ひかる(六段/宇都宮大学)・李博暉(六段/早稲田大学)ペアと芝野すず(四段/東京大学)・川口飛翔(六段/東京大学)ペアの一戦だ。芝野さんは、芝野虎丸名人の妹さん。会場には、もう一人のお兄様、芝野龍之介二段がこっそり応援にいらしていた。「芝野さんは社交的で、たしか運動系のクラブに入っていて、そちらのほうも熱心に活動されているんですよ」と川口さん。兄たちの勝負強さもあるのだろう、棋力の差をはねのけ初戦を白星で飾っていた。

 坂野英恵(六段/慶應義塾大学)・西山喬絋(六段/早稲田大学)ペアは、韓国のチョ ウンジン(八段/明知大学校)・キム ドンハン(九段/明知大学校)に敗れた。局後、坂野さんは「ペアワークがすごかった」。西山さんは「難しい形でもポンポン打ってきたので、研究していたと思う」と脱帽した様子。ただし、ペアの雰囲気は抜群で「西山さんが強くて、どこに打ってもいいよって言ってくれるので、安心して打てました」と坂野さん。これを聞いた西山さんは「組んでくれたので、嬉しかった」と恥ずかしそうに話してくれた。

 岩井温子(六段/京都大学)・赤木志鴻(六段/京都大学)の強豪ペアは、オンライン対局で中国のラ セイゲツ(五段/上海外国語大学)・ホウ シゴク(五段/上海外国語大学)ペアと対戦。熱戦を演じたが、最後は時間切れで敗れた。「チャンスはあったと思うのですが……流れが悪かったです」と岩井さん。赤木さんは局後すぐにスマホの電源を入れ、最後まで残っていた勝つ筋をAIで確認しながら、二人で熱心な検討を始めていた。

 もう一組、中川万脩(六段/京都大学)・笠原悠暉(六段/大阪市立大学)ペアは、オーストリアのアニー チェン(初段/シドニー大学)・トム チェン(五段/マッコーリー大学)ペアに勝利。日本勢5ペアは、2勝3敗の戦績を残して1日目を終了した。

 16時からは、部屋を移し、「松田杯 親善対局」が行われた。対局中は、真面目な若者らしく皆真剣そのものという表情だったが、局後は「世界の人と打つのは初めてで貴重な体験だった」「交流ができてとてもよかった」と何人もの選手が笑顔で語ってくれた。

●親善対局




 18時を過ぎた頃から、会場は賑やかに華やかに彩られていった。ホテルの自室に戻って着替えてきた選手たちも多く、あちらこちらで衣裳を讃え合う歓声があがり、2ペアや3ペア一緒の記念撮影タイムとなっていた。
 18時20分、司会の方からアナウンスが入る。
 「これから、国際アマチュア・ペア碁選手権大会、松田杯・世界学生ペア碁選手権大会、世界ペア碁公式ハンデ戦大会の参加選手の皆様、また日頃よりペア碁を応援してくださっています関係者の皆様、そしてペア碁の普及のためと快くボランティアでご参加いただきましたプロ棋士の先生方によって楽しく親善対局を行っていただきます。なおペアと対局の組み合わせは事務局で事前に決定させていただきましたのでご了承ください」
 今回は本戦、松田杯に加えて、世界ペア碁公式ハンデ戦大会に出場した選手も合流する賑わいのため、三部屋が埋めつくされた。

 続いて、親善対局に参加されるプロ棋士の皆さんが紹介された。
 大会審判のマイケル・レドモンド九段と吉田美香八段。
 羽根直樹九段、石倉昇九段、今村俊也九段、大西竜平七段、榊原史子六段、吉原由香里六段、下坂美織三段、星合志保三段、金子真季二段、茂呂有紗二段、辻華二段、森智咲初段、大須賀聖良初段。以上国内の15名と、韓国棋院事務総長の梁宰豪九段だ。
 「同じテーブルとなった4名は、それぞれ簡単な自己紹介をしてから対局をお願いします」とコールがあり、恒例の親善対局がスタートした。各国の民族衣裳もそれぞれ目を引くが、日本の和服も美しい。会場は、和やかな中にも緊張感があり、世界の人々がこうしてまた集まれる日がきたことを、参加者皆さんが味わい喜んでいる空気にも満たされていた。

 局後、棋士の方々に感想を伺ってみた。 羽根直樹九段は「海外の女性と組んだんですけど、とても強かったですね。ほとんどミスなく、落ち着いていて、海外のレベルアップを感じました。相手は日本のおそらく入段間近の女の子と韓国の選手。見た目ですぐわかるような強いペアで、普通にいい勝負のいい内容の碁でした」と満足そうににこやかに話してくださった。

 「いや、ものすごく盛り上がったよ」と少年のように興奮していたのは石倉昇九段。「いい勝負で、最後に左下の黒が生きれば黒勝ち、死ねば白勝ちという局面になって、両者最善に打つとコウなんだよ。だからそれを説明して、引き分けということにして一手目から解説したんだけどね。僕の英語は片言だけど、みんなも片言だからけっこう通じるんだ」とお話が止まらない。そして、「改めて思ったんだけど、ペア碁は本当に親善になるね。1対1の対局より国際親善になると思った。いいねえ」と締めくくってくださった。

 吉原由香里六段は、やはり海外の選手にも大人気で、対局前も対局後も「一緒に写真を撮らせてください」と声をかけられ大勢の記念写真におさまっていた。検討も終え、第一声は「パートナーがすっごい強かった。ビックリしちゃった」。その後も「私のほうがよれよれしてたくらい。メキシコの方だそうです。素晴らしかった。頼もしくて、世界のレベルが上がってるんだなあと実感しました」と、賛辞がやまなかった。

 大西竜平七段は初めての参加。検討中のテーブルを覗くと、「僕のペアの方が日本語を話せたんです。イングリッシュで話そうとがんばっていたんですけど、話せなかったのでよかったです」と笑顔。すると、相手ペアの男性が「私も日本語は少し」と日本語で。「早く言ってくださいよ!」と大西七段が声をあげ、その後も和やかに検討が続いていた。

 「私、本当に英語全然できないんですけど、恥ずかしながら。でも、なんか、グッドとかオッケーとかベリーベリーナイスとか、パッションで伝えました」とパッションで話してくださったのは、星合志保三段。「皆さんがいい人だったので楽しかったです。しかも本当に熱戦でずっといい勝負だったので、普通に楽しんでいました」。検討を終えた星合三段にも、記念写真申し込み者が殺到していた。

 言葉の壁などなんのその。和気あいあいと検討していたのは吉田美香八段のテーブルだ。「私のパートナーは日本語ができたんです。イギリスの女性の片言の日本と私の片言の英単語で」と吉田八段。そして「すごくバランスのいい組み合わせで、全体として非常にバランスのいい好取組でしたよ。山あり谷あり。イギリスの女性の方が『私は10級くらいで』って恐縮されていたんですけど、すごくたくさん好手を打たれて、石も取られたりして、最後は逆転されて、また再逆転で、すごく楽しい碁でした」と熱戦を振り返られていた。

 19時30分。親善対局終了の時間となった。熱戦の余韻のなか、まだまだ検討していたいというテーブルの皆さんも、後ろ髪を引かれながら散会した。
 恒例の立食形式の前夜祭は、新型コロナウイルス感染症の影響もあり実施されなかった。代わりに、選手の皆さんにはホテルの「特製弁当」が配られ、大会二日目が終了した。

●「第32回国際アマチュア・ペア碁選手権大会」・「松田杯 第7回世界学生ペア碁選手権大会」&「荒木杯 ハンデ戦」開会式


滝裕子 日本ペア碁協会筆頭副理事長

 大会3日目、12月11日は朝8時から競技受付が開始された。「第32回国際アマチュア・ペア碁選手権大会」(以下、本戦)、「松田杯 第7回世界学生ペア碁選手権大会」(以下、松田杯)、そして、この日は「荒木杯 ハンデ戦」に111ペア222名の選手が参加。会場は、幸せな笑顔で溢れかえった。

 9時10分頃、開会式がスタートした。
 司会の方より、前々日・前日に行われた「世界ペア碁公式ハンデ戦」が世界25カ国・地域からの32ペア64名により開催されたこと、前日より本戦と松田杯が熱戦を繰り広げていることが伝えられた後、公益財団法人日本ペア碁協会の滝裕子筆頭副理事長が登壇され、英語に続いて日本語であいさつされた。
 滝「皆さま、おはようございます。日本語では要約してお話させていただきたいと思います。1990年にこのペア碁というものが誕生いたしまして、ただいま75カ国・地域に広がっております。おかげさまで、今回は32回大会を迎えることができました。コロナのために2019年以来開催できず、今日こうして3年ぶりに皆様とお目にかかれたことは、このうえない喜びでございます。ただ、残念なのは中国がまだ入国が厳しくお国も厳しくオンラインでの参加となりました。今日は、本戦の他に、併催イベントとして、松田杯第7回世界学生ペア碁選手権大会——こちらは、ペア碁に本当に貢献していただきました、亡くなられた前理事長の松田昌士さんのお名前を冠にしました。そして、荒木杯ハンデ戦が行われ、合わせて159組のペアが出場なさいます。昨日・一昨日に行われた世界ペア碁公式ハンデ戦には32組のペアが出場されております。今年は全部で31カ国・地域が参加されております。こんなに大勢の大会は世界にないのではないかと思います。囲碁は皆様が十分ご存じのように、本当に深く3000年の歴史を持って揺るぎない魅力がございます。本当に素晴らしいゲームだと思います。
 もう一つの魅力は、ハンデを使えば、棋力が違っていても対等に打てるということでございます。ただ、国や地域によって棋力認定が違っておりますので、これまではなかなかペア碁のハンデ戦の世界大会をすることができませんでした。それをぜひ実現しようと考え、日本、中国、韓国で特許を持っております『パンダネット』のレーティングシステムを使ってペアポイントを認定し、そのポイント差によって公式のハンデを決める大会を考えました。ぜひまた皆様のご意見を伺いながら、これはずっと永遠にできるような形にしていこうというのが、私たちの望みでございます。
 終わりに、JR東日本はじめ、スポンサーの皆様に大変ご協力をいただきました。そして、役員の皆様、関係者の皆様に大変ご協力をいただきました。こうして皆さんとまた再会できましたことは本当に最上の喜びでございます」

 ここで、会場のスクリーンには、民族衣裳を来たウクライナの選手の映像が映し出された。

 滝「こちらは、ウクライナのお二人が民族衣裳をつけて、私どもに送ってくださった映像です。コロナになっても、世界情勢が不和になっても、でもこうして国を越えてペア碁を通して友だちとしてお会いできることが、私が最近本当に感動したことでございます。どうぞ今日一日、楽しく囲碁の魅力を楽しんでいただきたいと思います。どうもありがとうございました」

 続いて、本大会の審判長、石田芳夫九段(24世本因坊秀芳)と、審判のマイケル・レドモンド九段、吉田美香八段が紹介され、まず石田九段とマイケル・レドモンド九段が順に登壇された。

 石田「おはようございます。今日は本当に久しぶりに皆さんにお会いできてうれしく思います。最近ちょっとビックリしたのは、サッカーのワールドカップを観ておりまして、クロアチアが何と世界ナンバーワンのブラジルに勝った。ということは勝負の世界は必ずしも強いほうが勝つということではなくて、下の方にも十分チャンスがあるということでうね。ですから、皆さんのどなたが下なのか上なのかわかりませんが、十分チャンスがあるということでがんばっていただきたいと思います。詳しいルール説明はマイケルさんからしてもらいますけれど、毎回ちょっと気になることを一つ。時間制限ですから、時間切れも勝負のうちですが、はっきりと形勢が敗勢になったときには、あまり相手の時間切れを狙わないように、せっかくのペア碁ですから今日一日楽しく過ごしてください。私からは以上です」

 レドモンド「皆さんこんにちは。審判のレドモンドです。今日は三つの大会を同時に進行します。順に説明します。まず、本戦と松田杯は、オール互先で先番6目半のコミ出しです。持ち時間は50分で時間切れは負けです。一部オンラインの対局がありますが、これは事務局スタッフが対局開始までの手続きをしますので、それまでお待ちになってください。次に荒木杯の説明です。スイスシステムの4回戦ですが、持ち時間は40分です。同じように時間切れは負けです。ペアポイントという数字を基準にハンデが決まります。相手のペアとのポイントの差が基準になります。同ポイントの場合は互先ですのでその場合はニギリで決めてください。ペア碁のルールそのものは、ルールブックに書いてあります。最後に、相談は即負け。ただし、ローテーションの確認は相談できます。投了するかどうかの相談もできます。誤順、ローテーションミスは3目のペナルティです。石田先生からもお話がありましたが、時間切れは、碁の内容で負けるのと違って少し残念な気持ちになりますので、なるべくそういうことにならないように、がんばって時間の管理もしてもらいたいなと思います」

 続いて選手宣誓が行われた。
 日本選手代表は、本戦近畿ブロック代表の福島あきら・前川かくペアがつとめた。お二人は、何度も練習してきたに違いない。完璧に暗記し、言い淀むことなく堂々と宣誓した。
 海外選手代表は、パナマのイツァ セロン・グレゴリー ベレズペアがつとめた。お二人は、対照的に緊張気味で、メモを見ながら、少し恥ずかしそうに宣誓文を読み上げていた。

 「ここでお知らせがあります」と、司会の方より、毎年恒例のベストドレッサー賞の審査委員長、世界的デザイナーのコシノジュンコ氏が紹介され、その後、ごあいさつをいただいた。
 猪井 操子(司会)「今年も日本を代表する世界的なデザイナーのコシノジュンコ先生に、ベストドレッサー賞の審査委員長をお願いいたしました。コシノ先生は、2021年5月に、フランスと日本の文化交流に大きく貢献された功績により、フランスで最も権威のある国家勲章レジオンドヌール勲章シュヴァリエを受章され、今年の11月にはファッションのみならず幅広い分野のデザイナーとして国際的に活躍した功績が高く評価され、旭日中綬章を受章されました。ご紹介いたします。コシノジュンコ審査委員長です」

コシノ ジュンコ ベストドレッサー審査委員長

 コシノ「皆様おはようございます。コシノジュンコでございます。ペア碁。これは素晴らしいコミュニケーションだと思います。コミュニケーションだけではなくて、ペア碁の大会は一つの社交の場です。二人でチームを組んでいるということは、単純に「ペア」イコール「ペアルック」ということではないんです。精神的な気持ちが一緒、一つに通じ合うということ。素晴らしいことだと思います。私も最近囲碁をやるようになりまして、コロナの真っ最中にも本当に囲碁は適していると思いました。コロナを体験するという世界が一つの共通の場面にあるわけですけれど、その中で、ペア碁でこんなにも世界から集まる素晴らしい会だと思います。(ベストドレッサー賞の審査も)3年間できなかったわけですけれども、判定は、皆さん一人一人の写真を見せていただきまして選ばせていただきます。囲碁の対局は、精神的にも表面的にも素晴らしいスタイルだと思います。美しく華やかに世界に誇るペア碁になればいいなと思います。今日は楽しみにしております。がんばってください」

 そして、いよいよ対局開始だ。審判長の石田芳夫九段が改めて登壇され、開始コールをされた。
 石田「それでは、準備ができたところから始めてください。どうぞ」
 本戦3回戦、松田杯2回戦、そして荒木杯ハンデ戦1回戦がスタートした。

●「荒木杯 ハンデ戦」

 恒例の併催大会「荒木杯 ハンデ戦」(以下「荒木杯」)は、今回も棋力別にA、B、Cの三つのブロックに分かれて、それぞれスイスシステムで4回戦が打たれた。前日まで「世界ペア碁公式ハンデ戦」(以下「公式ハンデ戦」)に出場していた国内ペア、海外ペアの多くが「荒木杯」にもエントリー。海外ペアと対戦が組まれたペアは、世界大会の雰囲気も味わえたのではないだろうか。全体では海外18ペアを含む111ペア222名が参加する賑やかな大会となった。

 さて、日本棋院発行の「週刊碁」新年号で「2022年の碁界ニュース」が特集された。その中で藤澤一就八段が「ここ3年ほど停滞している世の中に元気をいただきました」と、本大会開催を「ベスト3」にあげられていた。藤澤八段にさらに詳しくお話を伺うと、「久しぶりに国際アマチュア・ペア碁大会の会場に入ったんですけど、ビックリしました。昔はどちらかというとお祭り感も多少あって和やかな雰囲気だったんですけど、(一番棋力が下の)荒木杯のCブロックの部屋でも空気がビシーッとしていて、『俺、見学していいのかな』と気おくれするくらい、タイトル戦の対局場に入ったくらいの臨場感だったんです。でもピリピリしているわけじゃなくて、凛としている感じで、しかも皆さん服装もピシッとしているから、引き締まっていて、本当に素晴らしい雰囲気でしたね。部屋に入った瞬間、本当にビックリしました」とのこと。32回目という歴史の中で、「ペア碁」が確実に成熟してきたことを語っていただいた気がした。


 Aブロックは、今回も強豪がひしめいていた。  平岡聡さんは、本大会の直前までオンラインで行われていた世界アマチュア囲碁選手権戦で、見事5位に入賞されたばかり(ちなみに中国代表選手が6戦全勝で優勝。2位の韓国から順に香港、フランス、日本、6位の中華台北代表まで5名が5勝1敗だった)。

 「囲碁アマチュア竜星戦」や「ネット棋聖戦」で何度も優勝経験のある諸留康博さんも奥様と出場されていた。「妻は初段で打っています」と諸留さん。1回戦は「公式ハンデ戦」にも出場していた中華台北のワオ サオティン・ヅェン ハオウェンペアに3子置いての対局だった。「お相手のペアは強かったです。でも途中でボッと取れたので、あとは逃げ回って。いろいろこわかったんですけど、逃げ切りました」と振り返る諸留さんの隣で、奥様は「強くて縮みあがりました」と話されていた。

 2回戦で諸留夫妻ペアとの接戦を制したのは、やはり「公式ハンデ戦」に出場していた小林彩さんと星合真吾さんのペアだった。「いやあ、けっこう大変でした」と星合さん。「向こうが2子置いて逆コミ6目。女性の方もしっかり打たれていて、諸留さんも手堅い方なので。序盤に相手のミスもあってだいぶ差が詰まったんですけど、やっぱり持ち前の堅実さでじわじわ打たれて、けっこうしんどかったです」。小林さんは「地を取り合う碁になったので、堅くなりました」と振り返られていた。最終的には白番2目半勝ちだったという。

 毎回プロ棋士のお子さんたちも参加されるのだが、今回はプロ棋士のお父様も参加されていた。六浦七段のお父様と芝野ご兄弟のお父様だ。取材はご遠慮し、遠くから楽しそうに打たれている様子を拝見した。会場に芝野龍之介二段がお母様といらしていたのは、てっきり「松田杯」に出場されている妹さんの応援だとばかり思っていたが、もしかしたら妹さんよりお父様が心配だったのかもしれない。

 「荒木杯」は、参加者が多いだけでなく、お年寄りから子供まで年齢層の幅が広いことも大きな特徴だろう。6歳から86歳まで、80歳もの年の差がある選手が一堂に会する大会など、世界に一つかもしれないと思う。
 Bブロックの藤田美穂子さん(83歳)と近藤士郎さん(86歳)は、前回大会で最年長ペア賞を受賞されている。今回もお二人そろってお元気な姿を拝見できうれしかった。「参加することに意義がありますよね」と近藤さん。藤田さんは「体力がいりますからね、元気で続けられるといいなと思っています」とにこやかに話してくださった。ルーマニアのアントニア スタンチウ・ロベルト アンドレイ グロスペアとの対戦の結果を尋ねると「強かった。強い強い」と近藤さん。「ものすごく強かったから、途中でなげちゃった」そうだ。

 Bブロックの難波和子さん(82歳)はパートナーの中根哲司さん(73歳)に「10年ほど前に特訓してあげるよと言っていただいて」めきめき腕をあげられたという。てっきり碁会所で知り合ったのかと思いきや「ネットで知り合い、ネット対局をして、ネット上で別室に移動して検討もしてもらっています」というから驚きだ。ただし、一回戦は小谷玲子さん(79歳)・桜庭幸雄さん(76歳)ペアに惜敗。こちらは「老人の囲碁クラブ」で知り合い、「ペアを組む相手がいないのでお声がけをしました」と桜庭さん。小谷さんは「私は勝ったも負けたもわからかったんです」、桜庭さんも「あちらが投げてくれたから勝てたようなものです」とお二人揃って謙虚なコメントをくださった。

 Aブロックの湯村ふくさん(87歳)は、パートナーの御供田瑞男さん(76歳)を「孫みたいなもの」と笑い、「御供田さんは鹿児島の代表。私は熊本で風が吹けば飛ぶような存在。御供田さんは田村房子さんという有名な方とペアを組んでいたんですけど、田村先生が貸してあげるって言うので貸してもらえて(笑)。でも私はぼんくらなので、難しい手についていけんですよ」とお話が面白い。御供田さんが「僕は難しい手は打ってないよ」と反論すると、「先生にすれば初歩的なことでも私にすれば難しい」とポンポン会話がはずまれていた。「次の対局もがんばってください」と声をかけると「高年齢をがんばるしかない」というお返事が返ってきた。

 Cブロックの大井綾夏ちゃんは6歳で、碁盤に手が届かず、子供用の高い椅子に座って対局していた。お父様の剛さんは六段の腕前だが、碁は社会人になってから始められたという。「楽しすぎて、仲間にも恵まれて、むちゃくちゃ勉強した」そうだ。「ペア碁には妻と出ていたのですが、この子ができて。この子が出られるようになったら一緒に出ようと思っていました」と目尻がさがりっぱなしだ。「奥様は?」と尋ねると「私はもういい、そうです(笑)」。綾夏ちゃんは3歳から碁をはじめ、「保育園から帰ってきたら、(毎日)夕方お父さんと打っている」とのこと。「お父さんとペア碁を打つのは楽しいですか?」と尋ねると、大きくうなずいていた。

 Cブロックの森彩乃ちゃんも3歳の時にお父さんに教えてもらい、今は6歳。「碁はすぐ好きになりましたか?」と尋ねると「うん」と即答。隣でお父様が「よかった」と笑顔になられていた。ペア碁は「お父さんと一緒にやるところが楽しい」そうだ。お父様の善哉さんは、なんと『0歳からの囲碁教室 ぱちんぱちん』(T&K出版)という絵本の作者であられた。「私は普通の会社員です。絵心も少しだけあったので、彩乃が生まれてから、石を並べて楽しむところから始めてもらいたいなと思って」絵本を描かれたそうだ。「川口市は赤ちゃんが生まれると絵本をプレゼントしてくれるんですが、その推薦図書に選んでもらえました。毎年川口市4000人くらい生まれるので、その中の何人かに選んでもらえたら」と善哉さん。「今は負けちゃった」と言いながらも、勝敗にはあまりこだわっていない様子だった。

 子供同士のペアも多い。Cブロックの安藤礼美さん(11歳)・西藤敦也くん(8歳)のペアは、「(東京の)谷中にある大橋憲昭先生の子供教室に通っています」と西藤くん。5段の腕前だ。安藤さんは8級で、「本当は私が大橋先生と組んで、姉が西藤君と組む予定だったのですが、姉が体調不良で出られなくなってしまったので、私が西藤君と組みました。でも、打ち方とかが私と全く違う感じではないので、けっこうわかりやすかったです」とはきはき教えてくれた。「公式ハンデ戦」にも出場した上野美里・隆敏暢ペアとの対戦を終え、13級でエントリーしている上野さんを「5級から10級くらいだと思いました」と安藤さん。公式レーティングは、子供教室より少しからいのかもしれない。

 Bブロックの水田紗菜さん(9歳)・松宮穂高くん(12歳)は、「仙台市にある国見こども囲碁教室で斎藤武先生に習っています」とのこと。それぞれ三段、五段の腕前だ。可愛らしい衣裳は「お母さんが考えてくれました」と水田さん。ペアを組むのは、今回の大会の予選からで、相性を尋ねると「いい…のかな」と松宮くん。「1回戦目は負けて、これは勝ちました」と元気よく答えてくれた。



 20代、30代の若者ペアも奮闘していた。
 Cブロックの、コリー ジャン シャインさんは、世界アマチュア囲碁選手権戦のニュージーランド代表。日本でもアマチュア本因坊戦に出場され、東京都代表決定戦まで勝ち上がった強豪だ。高校生の時に英語の字幕で「ヒカルの碁」を見て囲碁を知り、「ネットでルールを調べ、ネット対局をして」独学で七段になってしまったという。ご職業はエンジニア。来日7年目で日本語も流暢に話される。パートナーのジ ヨンジョンさんは「国籍だけ韓国。ずーっと日本に住んでいます」。お二人は共に「囲碁の知り合いがいっぱいいます」と笑顔で話され、「ヨンジョンさんとは、知り合いが主催している囲碁会で知り合いました。誘ったのはこっちかな」とシャインさん。「ここまで2敗してしまいましたが、作戦会議をして。これからです」と終始にこやかだった。

 Bブロックの今泉若葉さん・長谷川律希さんは、黒いペアルックに白縁のおそろいの眼鏡という勝負服だった。「基本黒番なので、黒を持った時に力を発揮してくれる衣裳で、ピンチの時に起死回生の一手を見つけてくれる眼鏡です」と長谷川さん。ここまでは強気なコメントだったものの「ベストドレッサー賞を狙っていたんですけど、コシノさんが『ペアルックとかではなくて』っておっしゃっていましたよね。これはダメなやつかもしれない、と思いました(笑)」とトーンダウンしていた。
 実は、長谷川さんは、かなり精力的に囲碁の活動をされている方だ。東京理科大学の囲碁部部長をつとめつつ、「囲碁初心者用のコンテンツをプロジェクターとかプロジェクションマッピングみたいなものを使って普及させていこう、みたいな活動をしています」。そして、今泉さんを「こちらは名古屋大学。オンラインでちょっと教えたりしていて、今回ペア碁のためにわざわざ東京にきてくれました!」と紹介してくれた。
 お相手の菅谷奈央さん・鈴木海地さんペアは「私たちは社会人なんですけど、東京で社会人の囲碁会みたいなのがありまして、そこで知り合いになりました」という。ペアを組むのは初めてだが、今泉・長谷川ペアに勝利。長谷川さんが「僕たちが3子だったんですけど、大きく石を取られなければ勝負になるから、ちょっと堅めにいこう、みたいな話をしていたんです。結果ちょっと堅すぎて…」と話すと、鈴木さんが「そうですね。そこに、つけ入らせていただきました」。両ペアは、局後も会話をはずませていた。

 前日まで「公式ハンデ戦」に出場していた海外ペアは少しお疲れなのでは? と心配したが、全くの杞憂だった。
 アメリカのダニエル ランバートさんは「楽しんでいるよ!」。前日までは、パートナーがビザの関係で来日できずオンライン対局だったのだが、「今日は、主催者の方に素晴らしいパートナーとペアを組ませてもらい、全てが丸くおさまっています。ありがとう!」と満面の笑みだった。

 ルーマニア/オーストリアのラウラ アウグスティナ アヴラム・ダニエル ベスツェペアからは、対局中に大声が聞こえてきた。局後に「どんなことが起きたんですか?」と尋ねると、ベスツェさんは「ものすごく難しい碁だったんだよ。形勢も入れ替わって」と興奮が冷めやらぬ様子。アヴラムさんも「あまりにもシリアスで、真剣に打ったから、今もガタガタ震えてるわ」と震える手を見せてくれながら笑っていた。でも結果は勝利。少しして落ち着かれたお二人は「公式ハンデ戦と比べると、持ち時間が短いので、少しハードな面もありました」と話されたが、大声をあげたことは覚えていないご様子だった。

 Aブロックの小林・星合ペアも、白星を重ねていった。「立命(立命館大学)のOBOGペアとの対局だったんですけど、危なく拾いました。次は決勝になるのかな。がんばります」(星合)、「スイスの関係でわからないですけど」(小林)と意気揚々。そして、「優勝しました!」と声をかけてくださった。
 逆に「公式ハンデ戦」はペアの経験値になったのかもしれない。スイスシステムも味方につけ、Bブロックも、岡村菜々子さん・木原俊輔さんペアが優勝。岡村・木原ペアは、「公式ハンデ戦」Bブロックとのダブル優勝となった。Cブロックは、松宮結愛さんと坂本秀誠さんのペアが優勝を飾った。

 どのブロックも、4回戦まで接戦・熱戦が繰り広げられ、和やかに、熱く、そして冒頭に紹介した藤沢一就八段のお言葉を借り「凛とした」大会が終了。皆様おつかれさまでした!

●松田杯・2日目

 「松田杯 第7回世界学生ペア碁選手権大会」(以下、松田杯)の2回戦は、前日の初戦の勝者ペア同士、敗者ペア同士の対局が組まれた。
 クロアチア/ルーマニアのミルタ メダック(二段/ウィーン工科大学)・ヨアン エリアン グリゴリウ(六段/ウィーン大学)ペアは、韓国のチョ ウンジン(八段/明知大学校)・キム ドンハン(九段/明知大学校)ペアに善戦の末、惜敗した。キムさんは「序盤はちょっといい流れだと思っていたんですけど、中盤にミスが出て難しくしてしまい、ヨセでもちょっと押されました」と熱戦を振り返った。チョさんとは「韓国の予選があって、そのときに初めてペアを組みました」とのこと。相性を尋ねると「いい感じ」と答え、お隣でチョさんもにっこり微笑んでいた。

 芝野すず(四段/東京大学)・川口飛翔(六段/東京大学)ペアは、もう韓国の2組目、リ スヒュン(八段/明知大学校)・ウ ジョンミン(九段/明知大学校)ペアに大逆転勝ち。局後の川口さんは大興奮しており「いやもう相方が本当に強過ぎて。形勢は、序盤で失敗してけっこう悪かったんですけど、芝野さんが、僕も全然思いついてなかったような勝負手を何度も連発して、それがうまくいって逆転できました」。「その勝負手というのは(お兄様の)芝野虎丸名人譲りな感じの?」と尋ねると、「いやもうそうですね。血筋を感じるような。本当に勉強させていただきました」と感心しきり。その隣で芝野さんは高らかに笑い「私はとりあえず思いつきで。川口君がカバーしてくれるかなと思って、思い切りのいい手を打てたというのがあるので、まあ相方への信頼がでかいですね」と逆にパートナーを讃えていた。「いい組み合わせですね」と問うと、川口さんは「だいぶいい組み合わせかもしれないです」と目を輝かせていた。

 中川万脩(六段/京都大学)・笠原悠暉(六段/大阪市立大学)ペアは、中華台北のツェン チェンユ(七段/国立政治大学)・ツェン イェンルー(七段/国立体育大学)ペアに敗れた。笠原さんは「相手が強かったです」と脱帽した様子だったが、中川さんとの相性は、「まあまあいい感じです。次からまたがんばります」と気持ちを切り替えていた。一方、中華台北ペアに「いい碁が打てましたか?」と尋ねると、にこやかに「いや。まだ、もうちょっとうまく打てます」とのお返事だった。

 2回戦を終え、連勝ペアは……
 韓国のチョ ウンジン・キム ドンハンペア、中華台北のツェン チェンユ・ツェン イェンルーペア、オンライン対局でアメリカのソフィア ワン(四段/イェール大学)・ジェレミー チウ(七段/カーネギーメロン大学)ペアに勝利したラ セイゲツ(五段/上海外国語大学)・ホウ シゴク(五段/上海外国語大学)ペア。そして、芝野すず・川口飛翔ペアの4組となった。

 連勝4ペアの3回戦は、韓国ペアと中華台北ペアが当たり、芝野・川口ペアは、中国ペアとの対戦となった。
 日本ペアの活躍に期待が高まったが、無念の黒星。川口さんは「相手との実力の差をすごく感じる内容でした。いや、強かったです。完敗でした」と振り返った。だが、すぐに「次に切り替えてがんばります」と爽やかな笑顔を見せ、芝野さんに「次勝てば3位に入れるかもしれないから」と優しく声をかけていた。

 もう一局は韓国ペアが勝利。中国ペアとの優勝決定戦に向け、チョさんは「今年が学生同士で出られる最後の年なので、最後だからこそ優勝したいです」と意欲を見せ、キムさんは「私も最後の年だから、彼女についていき、がんばります」とユーモラスに話しチョさんの笑いも誘っていた。
 続く優勝決定戦は、盤外の息も合った韓国ペアが中国ペアに堂々の勝利。優勝が決まった瞬間、それは嬉しそうな笑顔で喜んでいた。

 芝野・川口ペアは、最終局、中華台北ペアに敗れ、残念ながら3位はかなわず6位入賞となった。川口さんは小学生時代から大会で常に優勝を争い、院生も経験した。プロ入りを断念して高校に入学した年には、史上最年少で「世界アマチュア囲碁選手権戦」の日本代表になった強豪だ。アジアの学生レベルの高さを改めて知らされた印象だ。
 日本勢は、初戦に中国に惜敗した岩井温子(六段/京都大学)・赤木志鴻(六段/京都大学)ペアが、2回戦のタイペアに勝って勢いに乗った。赤木さんの「次もがんばります!」という言葉どおり、その後も連勝して3勝1敗とし、5位に入った。
 メキシコのロサ マテオス(15級)・イバン バスケス ロドリゲス(5級)ペアは、強豪たちに1勝もできなかったが「楽しかった」と笑顔。大学のワークショップで囲碁を覚えたというマテオスさんはまだ始めたばかりだが「囲碁は、大学で学んでいる生物学と共通している。秩序があって新しい発見が多い」と興味津々な様子で話してくれた。
 選手たちは皆、「貴重な経験をさせてもらった」と笑顔で大会を終えていた。 松田杯の結果詳細は、こちらへ。

●本戦・2日目

 海外ペアにお話を聞くと、囲碁を始めたきっかけはさまざま。おそらく今回最高齢のオランダペアは、共にチェスを楽しんでいて囲碁にも興味を持つようになりマリアンネ ディーレンさんは大学の友人から、ルネ アーイさんは本から学んだ。「大昔の話」とお二人は笑っていた。フランスのジュリー アルテイニーさんのように「母から教えてもらった」選手もいれば、「ドラマの中に囲碁を打つシーンがあり興味を持った」選手もいる。若い世代には、海外でも大活躍の『ヒカルの碁』を見て、という選手も多い。そして、どの国にも「囲碁クラブ」があり、「囲碁協会」がある。興味を持った選手たちが、さらに囲碁に親しむための受け皿があることが大切なのだなぁと改めて感じた。

 さて、大会1日目を終え2連勝の日本4ペアは、3回戦で明暗を分けた。 倉科夏奈子・杉田俊太朗ペアは、やはり2連勝のベトナムのティキムロム パム・フォック ディン トランペアペアと対戦した。「戦いの読み合いになり、難しい碁でした。なんとか中押し勝ちで」と倉科さん。杉田さんも「今の碁はけっこう難しかったです。お二人ともとても強く、読みが強くて、なんとか勝てたという感じです」と振り返った。

 中村泰子・道川伊織ペアはヨーロッパペア碁チャンピオン(フランス)のアリアーヌ ウジエ・パンジャマン ドレアン ゲナイジアペアに大熱戦の末に敗れた。道川さんは「右辺で二人の息が合わなくて、ちょっとやり過ぎの形になってしまい。時間も使ってしまっていたので、けっこうまだ難しい勝負ではあったんですけど、時間がない分苦しかったです」と無念がり、中村さんも「流れが悪くなってしまって」と肩を落としていた。ウジエさんは検討を終えると立ち上がって深呼吸し、手であおいで、顔の火照りを冷ましていた。ゲナイジアさんは、「序盤から難しく、相手にちょっとミスがあったので、そのおかげで勝ちました」と落ち着いた表情。ヨーロッパペア碁チャンピオンペアは、これで日本ペアに3連勝だ。

 藤原彰子・津田裕生ペアと大沢摩耶・土棟喜行ペアは日本勢対決となった。序盤から中盤にかけては大沢・土棟ペアが攻勢のように見えたが、次第に主導権を握られたようだ。連勝を伸ばしたのは藤原・津田ペアだった。土棟さんの「やられました。けっこううまく打てていたんですけどね。相手が強かった。戦いのような戦いじゃないような……」という言葉を受け、大沢さんも「相手が攻めてこないで、うまく地でいかれました。相手ペアが冷静で」と振り返ってくれた。

 連勝同士ペアのもう一局、韓国の韓智媛・洪世煐ペアと中華台北のリン シャオトン・ライ ヨウツェンペアは、終始「いい勝負」の接戦となったが、セヨンさんは、「ヨセ勝負でしたが、ヨセに入る前に少し厚いかなと思っていた」と振り返る。結果は韓国ペアの2目半勝ちだった。ヨウツェンさんは「あまりうまくいかなくて。相手が強すぎる。そういうことで負けちゃいました」と残念そうだった。

 もちろん、熱戦が繰り広げられたのは、優勝を争う対局だけではない。アメリカのティアニー リー・アルバート イェンペアと中国香港のリー ロック イー・チャン カホの対局は、終盤息をつめて集中していたのだろう、終局するや選手たちからの大きなため息が聞こえた。アメリカペアにはもうほとんど時間が残っていなかった。「時間は関係ない。投了しました」とアルバートさんが日本語で教えてくれた。「日本語が上手ですね」と話しかけると、「少しだけ」と笑い、「激しい戦いでした。複雑のコウがあって」とアルバートさん。読み合いになり、時間もたくさん使ってしまったようだ。

 東北代表の小幡みのりさんは11歳。ペアの太田尚吾さんが「昔私が教えていた教室の生徒さんです」と紹介してくださった。前日はフランスペアに敗れた後、倉科万以子・倉科龍幸ペアに勝利。3回戦も福島あきら・前川かくペアを降し、太田さんは「勝ちました」とにこにこ顔だった。「(小幡さんが)悪い手はあんまり打たない。というか、いいところに打ってくれて、こちらが助けてもらいました」。小幡・太田ペアは、4回戦も中国香港ペアに白星をあげる大健闘ぶりだった。

 谷結衣子・大関稔ペアと毛塚瑛子・波多野寛太ペアの一戦は、毛塚さん曰く「負けました。ぼこぼこでした」とのこと。
 大関さんといえば、アマチュアタイトルをいくつも獲得し、現在国内のトップ3に数えられる強豪だ。勝負強い谷さんとのペアで上位入賞に向けて追い上げが期待されたが、残念ながら4回戦で、強豪の中華台北に敗れた。「中華台北ペアは特に特徴があるわけではないですけど、棋力が高い」と大関さん。「リン シャオトンさんともライ ヨウツェンさんとも国際大会で一緒だったことがあるので、お二人が強いのはよく知っています」と話してくださった。

 優勝を争う4ペアの4回戦の組み合わせは、韓国ペア対ヨーロッパペア碁チャンピオン(フランス)ペア、藤原・津田ペア対倉科・杉田ペアとなった。

 韓国ペアとヨーロッパペア碁チャンピオンペアの対局は、大激戦だった。ペア碁が世界に普及され、世界中でペア碁の大会が開催されるようになり、とりわけヨーロッパ選手の棋力が本当に向上したのだなあと、改めて知らされる内容だった。盤上は終始互角で、一時はヨーロッパペア碁チャンピオンペアが優勢に立った。終局間際は猛スピードで打たれ、記録係がついていけない(局後に、韓国ペアが手順を伝えて棋譜を完成させた)という一幕もあった。結果は韓国ペアの1目半勝ちだった。「全部僕のせい」と頭を抱えるゲナイジアさん。ウジエさんが「ものすごく複雑なゲームでした。向こうの死んでいた石が途中で復活して細かくなったんですが、最後、こちらの時間がなくなってしまい、ヨセで負けました」と冷静に一局を振り返ってくれた。

大盤解説会 二十四世本因坊秀芳、吉田美香八段

英語大盤解説会 マイケル・レドモンド九段

 藤原・津田ペアと倉科・杉田ペアの一戦も、互いに持ち時間がなくなり、猛スピードで着手しながらのヨセ合い。結局、倉科・杉田ペアの時間切れとなった。だが、「最後は、並べても(整地して数えても)負けていました」と杉田さん。熱戦の感想はこんな感じだった。
 杉田「ずっと最初からダメそうだったんですけど」
 津田「いけてるかなと思っていたんですけど、ところどころ難しい戦いがあって」
 杉田「必死に難しい碁形にしようと、その思いだけで打っていました」
 藤原「すごい、やられて」
 杉田「一瞬勝ったかなと(笑)」
 津田「負けたかなと(笑)」
 杉田「最後は、そこからまたやられ返されて」
 津田「いやでもわからなかったです」
 藤原「最後はもうお互い時間がなくて、よくわからなかったです」
 倉科さんは、力尽きた様子で、終始無言だった。最後に杉田さんが「よく戦えたかなと思います」と笑顔で締め括ってくれた。

 4回戦を終え、13時10分頃から選手たちは昼食休憩に入り、優勝決定戦に進んだ韓国の韓智媛・洪世煐ペアと日本の藤原彰子・津田裕生ペアも、14時40分にスタートする決戦に備えた。
 本戦5回戦は14時にスタート。選手たちは気持ちを新たに最終局に臨んだ。

 中華台北ペアは、強豪揃いの関東甲信越予選を1位で通過した内田祐里・坂室智史ペアを降して3位、ヨーロッパペア碁チャンピオン(フランス)ペアは、小幡・太田ペアを降して4位に入賞。中国ペアも近畿代表の金子もと子・佐藤洸矢ペアに勝って1敗を守り5位に入った。倉科・杉田ペアは大沢・土棟ペアに勝って4勝1敗の好成績だったが、スイス方式で6位となった。
 本戦の結果詳細は、こちらへ。

 注目の優勝決定戦は別室で行われ、15時半からは24世本因坊秀芳(石田芳夫九段)と吉田美香八段による日本語大盤解説と、マイケル・レドモンド九段による英語大盤解説もスタートした。

●本戦・優勝決定戦

 世界17カ国・地域から32ペア64名の強豪が出場した本戦は、いよいよクライマックス。韓国の韓智媛・洪世煐ペアと日本の藤原彰子・津田裕生ペアが優勝決定戦に進んだ。

 対局前に両ペアにお話を伺うと……
 洪「準決勝の時に大きなミスをして、ほぼ負けそうな局面だったのですが、運よくここまでこれたので、このツキを使って決勝も勝てるようにがんばりたいと思います」
 韓「ペア碁にまだ慣れ切っていないということもあって、呼吸は完璧には合ってない状況なんですけれども、決勝はペアの呼吸をできるだけ合わせて、いい成績を残したいなと思います。何より楽しく打ちたいと思っています」
 津田「毎回いいところで韓国チームに負けているので、そろそろその借りを返したいなと思います。」
 藤原「あまりミスのないいい内容の碁を打てればなと思います。」
 韓国ペアのお二人は、くつろいだ様子で、気さくにインタビューに応じてくださった。
 日本ペアのお二人も特別緊張した様子はなくにこやか。共に自信を感じた両ペアの決戦は、中盤から劇的な展開となった。

 14時40分に優勝決定戦が開始された。持ち時間は50分。握って日本ペアが黒番となった。
 15時半からは24世本因坊秀芳(石田芳夫九段)と吉田美香八段による日本語の大盤解説と、隣室ではマイケル・レドモンド九段による英語の大盤解説がスタート。対局を終えた選手たちが次々と集まり熱戦を見守った。石田九段の解説と共に、決戦を振り返ろう。

1譜(1~69)
 立ち上がりは穏やかだった。「白は働いた打ち方で30まで左辺を囲いましたが、黒37まで黒がリードしてます」と石田九段。「白38とツケたのはいいけれど、「右上の白は必死のところです」。
 コウの形になったが、今すぐ白AやBと仕掛けていくのは白も心配。白としては、コウダテづくりに向かい状況が整えば決行だ。だが、その後も黒は流れがよく、「一人で打っているみたいにいいペアですね」と吉田八段が感心。黒69まで、石田九段も「黒十分」との評価だった。

2譜(70~132)
 黒85に、白88から92と厳しく応じ、中央がにわかに険しくなってきた。黒95からコウを争いながら中央の折衝が続くなか、黒129が「負ければ敗着」と石田九段。黒130と1子を逃げておくほうがよかったという。白130と抜かれると、中央の黒が一気に心もとなくなった。黒131に白132とコウを妥協。
 「中央の黒を取りますよ」と宣言する一手だ。

3譜(133~202)
 黒33から黒の必死のシノギが始まる。左下の黒や、左下の白、中央(下辺寄り)の白との攻め合いも絡み、複雑な戦いになるが、結局、中央の黒が取られた。
 ここで勝敗が決したかと思われた。
 だが、ここから事件が起きる。黒101のツケコシに「白Aとハネていれば、白の安全勝ち」と石田九段。白102と遮ったために、白にとっては大変なことになったのだ。

4譜(203~229)黒時間切れ。白勝ち
 黒103のハネから策動し、なんと左上の白を取ってしまった。黒の大逆転だ。だが、残念なことに、黒は持ち時間が尽きていた。黒29を打ち下ろした瞬間に黒の時間切れ。日本ペアは、優勝にあと一歩届かなかった。
 石田九段も吉田八段も「残念」と健闘を讃えていた。

 決勝戦を戦い終えた、両ペアへの合同インタビューをお伝えしよう。

――韓国ペアのお二人、優勝おめでとうございます。今のお気持ちを聞かせてください。
 韓「洪さんとは同じ道場の出身で、仲がよかったので、軽い気持ちで韓国の代表選抜戦に出たら代表になれ、大会にまで出られて優勝までできて、とてもうれしいです。決勝戦はよくなったり悪くなったりと形勢が揺れ動いて、最後は負けたかなと思っていたところで相手の時間が切れて勝つことができ、運がよかったんじゃないかと思っています。時間切れの碁は初めてでした」
 洪「大会が始まってから最後までパートナーと息が合わなかったのに優勝できて不思議に感じています。海外の人と打つ機会はこれまでほとんどなかったのですが、今回はたくさんたくさん打つことができ、自分は楽しい経験ができました」

――韓国の予選を勝ち上がれたということは、息が合っていたのでは?
 韓「韓国では息が合ったのに、なぜか日本にきたら息が合わなくなりました」
――洪さんも同じ意見ですか?
 洪「(しばらく無言の後)彼女の意見には一応同意しますが、自分は韓国にいるときから苦しかったです」(これを聞くと、韓さんは「もう」というように洪さんの肩をぶっていた)

 洪さんの親しさあふれる遠慮のないユニークな言い回しと、韓さんの反応に、一堂大笑いし、一気に場が和んだ。
 洪さんは今、「アマチュアの大会に出ながら、プロを目指し、入段の勉強をしている」とのこと。韓国では、アマチュアにもチームがあり、チームから多くはないが給料をもらえるので、日本での「アマチュア大会出場」とは少し意味が違うようだ。
 韓さんもアマチュアの大会に出ているが、「囲碁の勉強は昔ほどはしておらず、他に特にやっている仕事はなく、将来はどうしようかとちょっと悩んでいるところ」だという。

――お二人でペアを組んだのは初めてで、洪さんはペア碁自体が初めてだったそうですね。来年もお二人でペアを組みたいですか?
 韓「(どうなの?という笑顔で洪さんを向き)あなたが先に話して」(一堂、笑)
 洪「一緒に出たいけれど、少しは悩むんじゃないかと思います」(一堂、笑)
 韓「次のプロ試験で、彼がプロになることを応援しているので、彼はプロになり、自分は別のパートナーを探して、またこの大会に出られたら理想的じゃないかなと思います」

――日本ペアのお二人は、決勝戦は残念でした。今のお気持ちは?
 津田「決勝戦は、途中まではいい感じに打っていて、けっこう追い詰めていたかと思うのですが、途中からちょっと息が合わなくなってしまい、苦しくしたかなと思います。大会全体としては、息のあったいい碁が打てたので、それはすごくよかったなと思います」
 藤原「(津田さんの感想と)同じくです。決勝戦は、中央の攻防を、ずっと私一人だけ勘違いしていた感じで(津田さん、韓さん、洪さんが、うんうんとあいづち)、先にパートナーのやりたいことを組み取れなくて。ただ、今回の大会は、全体的に内容がけっこうよかったので、よかったなと思います。また挑戦したいなと思います」

――久しぶりの国際戦でした。
 津田「久々に海外の方もこうやって日本に来られて、以前のように賑やかな大会になって、すごくいいなと思いました」
 藤原「そうですね。ただ、私たちは、この韓国戦まで全局日本ペアと打っていたので、ちょっとそこが残念でした」
 津田「そうだった。忘れていた(笑)」

 最後に韓国ペアに、改めて、大会の感想を伺うと、お二人はうなずいて少し思いを巡らせた後、心のこもった回答を返してくださった。
 韓「普段、世界の人と打つことがなかなかないので、それがとてもよかったですし、みんな予想以上に強く、5局全て楽に勝った碁がないくらい全て苦しい碁を勝つことができ、囲碁的にも勉強になり、個人的には忘れられない思い出になりました」
 洪「韓国の囲碁の大会に出ると、どうしても勝負が優先され、勝ち負けをすごく気にしますけど、今回の大会は初めてちょっとお祭りみたいな感じがあり、韓国の大会のときより楽しく打てたんじゃないかなと思います」

●ベストドレッサー賞

 恒例のベストドレッサー賞が、今回も、コシノジュンコ氏を審査委員長にお招きして行われた。受賞ペアの皆さんに、衣裳についてや、衣裳を選んだ経緯などのお話を伺った。

<ナイスペア・アワード>
竹野・平井ペア

<ナイスペア・アワード> 本戦・四国代表 竹野麻菜美・平井良介ペア
 平井「今回はペアと一緒に着物を着ようと相談しました。狙っていた賞でしたので、受賞できて本当にうれしいです。ペアは気合が入っていたので、ぜひ彼女の話も聞いてあげてください」
――気合が入られていたそうですね?
 竹野「はい(笑)。コロナ以降3年ぶりの大会で、コロナ禍のなか海外から皆さん来てくれるので、こちらもきちんとお迎えしたいと思いました。着付けは会場の近くの美容院でやってもらえるところを探して。対局中はちょっと腰が痛くなりますけど、気持ちが引き締まりました」

<チャレンジ・アワード>
長尾・西沢ペア

<チャレンジ・アワード> 荒木杯ハンデ戦・Bブロック 長尾布美子・西沢宥多ペア
 長尾さんのお父様は、なんと着付け師だそうだ。「では、ご自宅の着物なのですね?」と伺うと、「いえ、これはレンタルです(笑)」と長尾さん。西沢さんは「これは家にあった着物です」と胸を張られていた。「でも今日は1勝3敗。全然だめでした(笑)」

<チャーミング・アワード>
野中・竹中ペア

<チャーミング・アワード> 荒木杯ハンデ戦・Aブロック 野中優希・竹中卓真ペア
 お二人は埼玉県指扇の碁会所で知り合った。優希さんは小学校4年生の10歳だ。
――この服を着て、どんな気持ちですか?
 優希「うれしいと恥ずかしいの真ん中くらい」
――彼女の服に合わせたんですか?
 竹中「はい。今回はこれでいこうね、と。テーマは<花>です」
――竹中さんは普段と別人みたい?
 優希「えーと…別人みたいとは思わなかったけど、でもなんか、シャツがお洒落だなと思った」
 お二人は「碁を打つぞ」という気分になり、結果は2勝2敗だったそうだ。

<キッズファッション・アワード>
森田・森田ペア

<キッズファッション・アワード> 荒木杯ハンデ戦・Cブロック 森田結月・森田光希ペア
 「兄弟です!」と妹の結月さんが元気よく答えてくれた。衣裳はお母さんが選んでくれたそう。ペア碁に出るのは「私のほうが多かったと思う。二人で出るのは3回目くらい」と結月さん。「今回は1勝3敗でした」と光希君は少し元気がなく、「でも一勝できてよかったね」と励ましたのだが、「いやー、不戦勝だったので」とのお返事。それでも、表彰式ではコシノジュンコ氏とのスリー・ショットに笑顔で応えていた。

<ナショナル・コスチューム・アワード>
アヴラム・ベスツェペア

<ナショナル・コスチューム・アワード> 公式ハンデ戦 ルーマニア/オーストリア代表 ラウラ アウグスティナ アヴラム・ダニエル ベスツェペア
 ルーマニア・オーストリアペアは、それぞれお国の伝統的な衣裳を説明してくださった。
 アヴラム「母が小さい頃は、よくこういう服を着て日曜日に教会に行ったりしていたそうです。今は結婚式とかに着るのが普通です」
――お母様が若い頃というと…
 アヴラム「40年くらい前ね(笑)
 ダニエル「オーストリアでは、日本の浴衣みたいな感じで休日のイベントとかに着るものです。結婚式とかフォーマルな場では、このようにしっかり着て、親戚の誕生日の時とかだとネクタイをしなかったり、襟のないシャツで上着を着たりします」
 「フォーマル」スタイルは、編み上げの靴まで、全身ビシッと決まっていた。

<ナショナル・コスチューム・アワード>
アルテイニー・パパゾーグルペア

<ナショナル・コスチューム・アワード> 本戦・フランス代表 ジュリー アルテイニー・バンジャマン パパゾーグルペア
 フランスペアの衣裳は、帽子が特徴で祝祭色に溢れている。
 パパゾーグル「ブルターニュ地方の民族衣装だよ」 ジュリー「お祭りの時とかに着るの」
 パパゾーグル「ブルターニュのお祭りの時にはみんな着るんだ」
 お二人も、この衣装を着ると陽気度もアップされるようだった。

<ナショナル・コスチューム・アワード>
ワン・ツェンペア

<ナショナル・コスチューム・アワード> 公式ハンデ戦 中華台北代表 ワン サオティン・ツェン ハオウェンペア
 公式ハンデ戦の後、荒木杯にも出場され、サオティンさんは「昨日はちょっと疲れたけど、今日は大丈夫」、ハオウェンさんは「ずぅーっと楽しくて、疲れは感じません」と元気いっぱい。サオティンさんが衣装について詳しく教えてくださった。
 サオティン「台湾というのは、もちろん漢民族もいるのですが、たくさん原住民族がいて、これは原住民族の衣裳です。彼らは普段からこれを着ていたりします。『民族衣装』というと、だいたい原住民族のものにしますね、漢民族のものだと普通の中華服になるので。本当にたくさんの原住民族がいるので、今回日本に来た台湾ペアの衣裳はみんな違う衣裳です。私たちのはアメイ(AMEI)族の衣裳。これが一番華やかだったので、これを選びました」
 サオティンさんは漫画家。中華台北で賞を獲った囲碁の漫画『獅子藏匿的書屋』は、「貸本屋で囲碁教室が開かれている」エピソードなど、中華台北の囲碁文化も満載だ。

<ナショナル・コスチューム・アワード>
スム・リーペア

<ナショナル・コスチューム・アワード> 本戦・シンガポール代表 ドーン スム・ジェイムス リー
 「ポララカンバティック」という衣裳だそうだ。シンガポールのフォーマルな場ではかなり着られている服装で、インドとマレと中国がフュージョン(融合)・ミックスされているという。「シンガポールは移民の国なので」とお二人。衣装をレンタルされた選手が多い中、スムさんとリーさんは「自分たちの服」だそうだ。

●表彰式

 3日間の催しが、全て終了し、17時過ぎから閉会セレモニーが始まった。今回はコロナの感染に配慮し、例年実施している式後の立食パーティーは行われず、関係者と入賞者のみが参加しての式典となった。また、恒例のお楽しみ抽選会は、当選した選手の番号が掲示され、特設のブースで豪華商品と引き換えられた。

 表彰式に先立ち行われた大会主催者、ご来賓、後援者からのごあいさつを順にご紹介する。

 最初に本大会の大会会長、公益財団法人日本ペア碁協会理事長、松浦晃一郎氏が登壇された。
 松浦「皆様方のおかげで、3年ぶりですけれども、この大会及びイベントを開催することができました。かつ大勢の方にご参加いただき、31カ国の参加、本当にありがとうございます。3年ぶりに世界ペア碁協会の理事会も開くことができ、世界各国・地域囲碁協会の方々に集まっていただきました。ペ今回もベストドレッサー賞の審査を引き受けてくださり、コシノジュンコ先生ありがとうございました。日本棋院、関西棋院はじめ、特別協賛をいただいた3社や協賛各社に大変お世話になりました。その他にもたくさん、お世話になりました。本当にありがとうございました。

ご来賓挨拶 橋本聖子 参議院議員

 続いて、司会者の方から紹介された後、ご来賓の参議院議員の橋本聖子氏が登壇された。
 司会「橋本聖子様がご多忙の中、表彰式にかけつけていただきました。橋本様は1984年から1996年まで、日本人選手最多の冬季大会6回、夏季大会3回、計7回オリンピックに出場され、1992年に行われましたアルベールビル冬季オリンピック、スピードスケート女子1500メートルの種目で銅メダルを獲得されました。今年開催されました東京オリンピック・パラリンピックを陣頭指揮され、コロナ禍の中で大会開催成功に多大なご尽力をされました。また、今年3月にはIOC・国際オリンピック委員会により、女性のスポーツ参加に貢献した関係者や団体に贈られる女性スポーツ賞で最高位となる世界賞が日本人として初めて授与されました。それでは、橋本様、よろしくお願いいたします」
 橋本「皆様こんばんは。ご紹介いただきました橋本聖子でございます。大変丁寧なご紹介をいただきまして、恐縮をしております。第32回の国際アマチュア・ペア碁選手権大会、3年ぶりの大会となりますこと、本当にたくさんの皆様方にこのようにお集まりいただきまして、盛大に開催されましたこと、心からお喜び申しあげます。本当におめでとうございます。昨年、1年延期となりましたけれども、コロナ禍の中で東京オリンピック・パラリンピック大会を開催させていただきました。一番重要だったのは、オリンピックもそうですけれども、パラリンピックでした。パラリンピックの成功なくして東京大会成功なしということで力を尽くしてきましたけれども、パラの選手たちの熱い戦いから、いかに共生社会や多様性と調和というものが大切であるかということを学ばせていただきました。スポーツを直接できない方にも大変な感動と勇気を与えていただきました。先ほど松浦理事長からもIOCのお話がございましたけれども、コロナにおきまして、IOCはじめ、IPC、全てのスポーツ界が学ぶことが大変多くありました。これから、バーチャルスポーツ、あるいはメタバース、そういった観点からいかに多くの方がスポーツというものを親しんでいくかということが大事であり、社会に、世界に非常に貢献することになるんだろうということ、その中においては、やはりマインドスポーツというものは欠かせないものであるということを学んだ時でもありました。これからアジア大会が日本ではあります。そして万博、その先には国際大会をたくさん招致しようという動きになっております。このペア碁が、そしてマインドスポーツが当たり前に競技になるように、私たちしっかりと尽力させていただきたいと思っております。今日は個人的にですけれども、少し早めにきて、ちょっと試合を観させていただきました。その時に、もう終わったのかなといってみたんですけれども、感想戦というのをされておりました。あとになって、どういう手を打ちながら進んでいたのかという反省会をされていたんですけれども、正にスポーツの世界では勝っても負けても反省が必要で、勝ち方の質を上げるために毎回の試合を考えていくということ、まあこういったことも今日はさらに学ばせていただいたと思います。先ほど、解説もずっと観させていただいて、石田先生と吉田先生の掛け合い漫才のような解説が大変面白くて、私もやってみたいな、でもやると性格まで読まれてしまうのかな、というようなところまで、本当に面白かったんです。幅広い方々に、先生の解説をもっともっと多くの方々に聞いていただくことが素晴らしい裾野の拡大に、普及になっていくのかなあというふうにも思いました。これからも皆様方に、ペア碁が素晴らしい世界のスポーツになるように、ぜひご指導賜りますように、心からお願い申し上げまして、ごあいさつに代えさせていただきます。ありがとうございました」

ご来賓挨拶 朝日健太郎 参議院議員

 司会「続きまして、ご来賓の参議院議員の朝日健太郎様にごあいさつをちょうだいしたいと存じます。朝日様はバレーボールの全日本代表選手として活躍され、2002年にビーチバレーに転向。2008年の北京オリンピック、2012年のロンドンオリンピックで日本代表選手として活躍されました。本日はご公務でお忙しいなか、表彰式にかけつけてくださいました。それでは朝日様よろしくお願いいたします」
 朝日「皆様、こんばんは。ペア碁応援団の一人であります、参議院議員の朝日健太郎です。3年ぶりとなる第32回国際アマチュア・ペア碁選手権大会、そして学生の皆さんのペア碁大会、そしてハンデ戦も今日開催されたと聞きました。選手の皆さん、本当にお疲れ様でした。そしてその中でも優勝された皆さん、本当におめでとうございます。本日はこの大会に日本中から、そして世界各国から選手の皆さんが集まってくれています。私もスポーツを通じて、指を折り数えると60カ国くらい回ることができました。各国を回り、いろんな経験をし、そして友人が増えました。このペア碁を通じて、選手の皆さん、関係者の皆さんも友情がそして絆が深まったことだと思います。これからますますペア碁を発展させてその友情を深め、そして世界中にもっともっと広げていってほしいなと思います。最後に皆さんと一つだけ共有をしておきたいと思います。ペア碁をゆくゆくはオリンピックの正式種目にしたいと思う、私もその一人です。そのためには、条件が大きく三つあると言われています。国際の統一ルール。これはペア碁は既にクリアされていると思います。男女それぞれが参加できる。これは正にペア碁の趣旨でもあると思います。そして三番目は、世界中に受け入れられ、そして多くの選手がいることです。それなので皆様にお願いです。このあと、この大会が終わったあとは、ペア碁をさらに広めていただいて、大きな大きな勢いをつけて、オリンピックを皆さんと一緒に目指していきたいと思います。本日の大会は、本当に本当におめでとうございます。ありがとうございました」

ご来賓挨拶 小林覚 日本棋院理事長

 続いて、公益法人日本棋院理事長の小林覚氏、一般財団法人関西棋院理事長の正岡徹氏が紹介され、後援いただいた両棋院を代表して、小林覚氏があいさつに立たれた。
 小林「こんばんは、日本棋院の小林です。何よりも海外から日本に来ていただいた選手の皆さん、その他の応援団の皆様、本当にありがとうございます。日本の選手も本当に参加していただいてありがとうございます。今回、やはり、本当に人と人が目の前で打つのはどれだけ大事かということを痛感いたしました。今、プロの世界でも、インターネットの対局というのが非常に増えている中で、本当に先に滝さんが思い切ってやっていただいたことに感謝いたします。ペア碁はプロのほうでも28年ですかね、やったんですが、こんなに面白いゲームがあったのかとみんなも感動しました。一生懸命打って、パートナーと仲良くなって、失敗しても絶対怒らない、こんなに礼儀正しいスポーツがあるのか、あ、スポーツじゃない囲碁ですね、と思いました。で、考案者の滝さんはすごい人だなと思っていたんですけど、実はもっとすごいのは、ファッションを入れたことだと思います。ファッションというのは世界共通語になるもので、なんでこれに気づいたのか、ベストドレッサー賞なんて囲碁界にそれまでなくて、棋士が碁を打つのにオシャレをしたのを見たことがございません。その中で、なんでこんなことを考えついたかなと思いました。今回、ドレスアップした人たちが優雅に、紳士的にマナーもよく対局しているのを見て、これがすごく価値があるものなんだと、そういうことを狙ってやったのかと思うと、天才なのかなと。それとも偶然だったのかな、それはちょっとわからないんですが。先ほどから世界に広めてというお話がありますが、囲碁は碁盤を見ていても、なかなかやらない人にはわからないんですが、ファッションを入れたことによって、囲碁、ペア碁のよさが、また一つ上がったと思います。エレガントです。これは大変いいことだと思います。で、そこに審査員にコシノジュンコさん、超一流のデザイナーが。なんでそんなことに気がつくのかな。普通の人では気がつかない。これによって、賞をとった人たち、コシノさんから賞をもらえたと胸を張ることができます。滝裕子さんはすごい。走り回っています。この2日間見ていたんですが、たぶん20キロくらい走っていると思います。本当にがんばっていただいています。たくさんの人がペア碁を応援していただいています。日本囲碁界は今人気が落ちていますが、ペア碁をきっかけに必ず世界中で囲碁をやる人が増えることを皆さんにお願いして、感謝の気持ちとさせていただきます。ありがとうございました」

 続いて、今大会をご支援いただいた、ご協賛各社が改めて紹介され、特別協賛のJR東日本、日立製作所、日本航空はじめ、協賛いただいた16社が、会場内のスクリーンに表示された。
 そして、最後に、多く寄せられた中から文部科学大臣の永岡桂子氏の祝辞が読み上げられた。
 「第32回国際アマチュア・ペア碁選手権大会の開催を心からお慶び申し上げます。各ブロックでの予選を勝ち抜き、大会本戦に出場される選手の皆様には、本戦において日頃の実力をいかんなく発揮されることを期待しています。また、ペア碁の対局を通じて、国際交流を大いに深めていただき、今大会が皆様の思い出に残るものとなりますよう祈念いたします」

本戦優勝の韓・洪(韓国)ペアに
松浦大会会長からIAPG杯贈呈

 いよいよ表彰式がスタートした。
 まずは、本戦。全国から予選を勝ち上がった日本選手15ペア30名と、世界の強豪17ペア34名あわせて世界17カ国・地域32ペア64名の熱戦を勝ち上がり優勝を決めた韓国ペア、二位の日本ペア、三位の中華台北ペア、そして、日本最上位ペアの表彰が行われた。

 優勝の韓国代表、韓智媛・洪世煐ペアには、賞状、IAPG杯トロフィー、副賞のハワイ旅行ペアチケットと賞金10万円が贈呈され、さらに、内閣総理大臣賞、外務大臣賞も贈られた。

 日本最上位ペアの藤原彰子・津田裕生ペアには、JAPG杯トロフィー、盾、副賞として国内往復ペア航空券が贈呈された。

 続いて、「松田杯 第7回世界学生ペア碁選手権大会」、「世界ペア碁ハンデ戦」、そして「荒木杯 ハンデ戦」の表彰が次々と行われていった。
 受賞ペアは、プレゼンテータ各氏と共に、晴れやかな笑顔で記念写真。「荒木杯 ハンデ戦」の表彰後には、A、B、Cブロックの女性により、「5万円」が当たる「碁石当てクイズ」も行われ、場内が沸いていた。

コシノ審査委員長の総評

 そして、本大会ならではの大イベント、「ベストドレッサー賞」の表彰が行われた。
 審査委員長のコシノジュンコ氏は、受賞ペア一組ずつに商品を手渡された後、今回の感想をスピーチされた。
 コシノ「コシノジュンコでございます。このところ数年、ベストドレッサー賞の審査員ということで、みさせていただいています。この3年間、残念ながらこういう華やかな催しがなかったんですけど、久々に最後にこうしてベストドレッサー賞ということで皆さん全員が装って、大変華やかで素敵なことだと思います。また、このところ外国に行くチャンスもなく、それぞれの国が同じコロナの体験をして、自国の文化を改めて見直した時代になっていると思うんですね。その中で、囲碁というと、男社会とか地味なイメージがあるのですけれども、こうして女性が入ることによって、ペア碁があることによって、ファッショナブルで楽しくてコミュニケーションがあって、一つの社交の世界でもある。そのことを改めて感じました。来年こそまた楽しくファッショナブルで迎えてくださればうれしいなと思います。本当にみなさんおめでとうございます。おつかれさまでした」

 コシノ氏のお言葉に応えるように、ベストドレッサー賞受賞者全員が並んでの記念撮影が行われ、3日間の大会が華やかに幕を閉じた。来年もまた世界の囲碁仲間と再会できますように。

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