「第33回国際アマチュア・ペア碁選手権大会」が、12月2日、3日の両日、東京・飯田橋のホテルメトロポリタンエドモンドで開催された。本戦には世界15か国・地域から代表16ペア32名、国内8地区の地方予選を勝ち抜いた16ペア32名、計32ペア64名が一堂に会し、熱戦を繰り広げた。併催大会の「松田杯 第8回世界学生ペア碁選手権大会」と「荒木杯ハンデ戦」の模様もお届けする。
●「本戦」1日目
対局会場の前に、民族衣装をまとった選手たちが集まってきた。海外選手だけでなく、日本の選手は着物を着たペアも多くいて会場が華やかな雰囲気に包まれる。
本大会は抽選で1回戦の組み合わせを決め、スイスシステムで全5回戦を二日間に渡って行う。松田杯は全3回戦、実施する。
1回戦を終えた本戦メキシコ代表のカリメ ヴィヴァンコ トレス・マリオ アルベルト メルカド サンチェスペアは、今回が初出場だ。囲碁は10年以上続けている趣味だという。メキシコでもペア碁の大会がいくつかあり、何度か出場したことがあるようで、トレスさんは、「この大会はとてもフレンドリーな雰囲気で、少しでも交流を楽しめたらと思う。今回の出場を経て、メキシコに戻っても囲碁やペア碁を広めていきたい」とのこと。サンチェスさんは「お互いの手を理解しあって、とにかく楽しむことが目標です」と笑顔で話していた。メキシコから日本まで飛行機で14時間。時差もかなりあるが、「長い長い旅だったので、日本には1週間ほど滞在して各地を観光して帰ります。」と明るい表情で大会後の楽しみも教えてくれた。
1、2回戦を終えた時点で本戦の2連勝ペアは8組。3回戦以降は翌日に行われる。
1日目の対局を終えた本戦イスラエル代表ペア。1日目は残念ながら2戦とも黒星という結果だった。アミル フラグマンさんは、「まずは楽しめたと思います。もっといろんな人と話して交流を深めたい。初めてペア碁の大会に出場したので、1勝を目指して頑張りたい。また、世界アマの優勝者や囲碁コングレスの優勝者も出場していて、大会のレベルの高さを感じています。」と力強く話してくれた。女性のベレッド チャンキンさんは「期待していた以上に素敵な大会で驚きました。日本の大会運営は素晴らしいと耳にしていましたが、実際に温かく迎えてもらえて嬉しかった。また、日本人の方はとても優しい人が多いなと感じました。食事も美味しいし、数日間しか滞在できないのが残念です。」と明るく話してくれた。
本戦中国代表の陳 思・王 琛ペアは2戦連勝で1日目を終えた。王さんは大会出場をきっかけに初めてペア碁を打つ。「この大会にも初参加です。実際にペア碁の楽しさと難しさを味わいました。また、今日の対戦相手の皆さんもとても強くて大変でした。」と話す。パートナーの陳さんは、「この大会に出るのは3回目になります。改めてペア碁の面白さを実感しました。また特に、ペア碁の普及に関するプレゼン(PGPPミーティング)では、皆さんのペア碁の普及に対する努力を感じ、これからもペア碁がもっともっと普及したらいいなと思いました。また、この大会は文化的な交流もできて楽しいです。」とペア碁に対する印象を話してくれた。大会2日目に向けての意気込みを聞くと、王さんは、「こんなに強いパートナーとペア碁ができて嬉しいです。今日は彼女から多くのことを学ぶことができました。明日も一局一局を大事に打って、良い成績が残せたらいいなと思います。」と充実した様子だった。
●「松田杯 第8回世界学生ペア碁選手権大会」1日目
並行して行われている「松田杯 第8回世界学生ペア碁選手権大会」に出場しているシンガポール代表のクラウディア チュア・ジュン ホン コーペアは、「今のところいい勝負ができてなくて…皆さん本当にお強いです。」とパートナーと顔を見合わせて少し苦笑い。「今日は私が間違えてしまって、申し訳なかったです。でも対局は楽しめました。」とチュアさんは話す。コーさんは、「ペア碁はパートナーの手も考えないといけないので、一人で対局している時とは少し違う感覚です。」日本に来たのは二人とも初めてだそうで、「日本はとてもいい国だと思いました。トイレも綺麗!技術的に進んでいるところが多くて面白い。人も親切で礼儀正しい印象です。」と楽しそうに話してくれた。
また、1日目の対局で勝ち星を収めた中国代表の周 楽萱・龐 子鈺ペア。龐さんは前回の第32回大会にオンラインで参加した。「今年は日本に来ることができたので、とても大会を楽しめています。」とのこと。周さんは、「大会には初参加です。日本にも初めて来ることができました。たくさんの方と交流できて嬉しいです。パートナーの龐さんはとても強くて、対局中引っ張ってくれるので助かります。」と話す。すかさず龐さんが「周さんとの相性はとても良いと思います。任せてくれる場面も多くて…いい感じです」と返してくれた。「一局一局を大事に打ちたいです。3位以内が目標ですが、優勝したいです。」と2日目に向けての意気込みを聞かせてくれた。
●ペア碁親善対局
大会1日目の対局終了後、真剣勝負から少し離れ、交流を目的とした「親善対局」が行われた。民族衣装を身にまとった選手たちは席に着くと写真を撮ったり、自分の名札を見せ合いながら名前や国を確認したりして交流している。また、親善対局の持ち時間の方式は “フィッシャー方式”で行われた。
松田杯フィンランド・ドイツ代表のリーナ ラーティカイネン・ニルス ションベルクペアは、それぞれ自国で用意した民族衣装で参加した。とても華やかな印象で会場でも注目を集めており、ベストドレッサー賞では見事 “ナショナル・コスチューム・アワード”に輝いた。ラーティカイネンさんは10歳の時にご両親が本大会の選手として出場することがきっかけで日本に来て今回、2回目の来日。現在はパリで勉強している学生だ。「民族衣装はパリに住んでいる友人から借りることができました。想像以上に皆さんが素敵な衣装を着ていたので、まさかベストドレッサー賞を受賞できるとは思いませんでした!」と嬉しそうだ。ションベルクさんは、「親善対局で皆さんと交流できました。ペア碁は自分より強い相手でもいい勝負ができることがあるのでそれも楽しいです。」とにこやかに話してくれた。
●荒木杯ハンデ戦
大会2日目は、1日目の出場ペアに加えて、「荒木杯ハンデ戦」の出場者も集まってきた。会場はより一層華やかさと熱気に包まれる。
前沢・鈴木ペアはBブロックに初参加。きっかけはお二人が通う教室のインストラクターの先生の提案とのことだ。お二人とも素敵な衣装をまとっていた。「囲碁では敵わないかもしれないので、衣装で勝負を…!」と、鈴木さん。前沢さんは、「普段は年配の方と対局することが多いので、今日は小さい子や若い方もたくさんいらっしゃってびっくりしました。さっきはお子さんペアと対局しました。いつもとは違う年代の方と打てるのは楽しいです。」と話してくれた。鈴木さんに目標を聞くと、「あまり勝負にこだわらず、のびのびと対局を楽しめたらと思います。お互いの悪手を許しあって、仲良く楽しく最後まで打ち切りたいですね。」と前沢さんと目を合わせて笑いあった。
矢治・高橋ペアはAブロックに参加。現在高校生という二人の衣装は矢治さんのお母様が決めてくださったそう。黒を基調とした印象で、かっこよくお洒落な雰囲気だ。ベストドレッサー賞で“スタイリッシュ・アワード”を受賞した。二人は大学の囲碁会に所属しており、ペアを組むきっかけになったとのこと。「今1勝1敗なので、残り2局とも勝ちたいです。」と意気込んでいた。
柳沢・岡本ペアはAブロックに参加。コロナ流行の影響でなかなか大会に参加することが難しかったため、「今年のこの大会を楽しみにしていました」と柳沢さん。これまでに何度か参加されたことがあるとのことで、今回は振袖と袴でドレスアップ。衣装については、「テーマカラーを決めていて、去年は黄色にしました。今年は水色です」と二人とも笑顔の様子。ベストドレッサー賞で“着物ペア・アワード”を受賞した。
白と黒という囲碁の色の袴でCブロックに参加するのは中軽米・松原ペア。現在中学生とのことだが、袴の色もあってか大人っぽい印象。参加のきっかけは、「同じ教室に通っています!」と元気よく答えてくれた。見事、ベストドレッサー賞で“ジャパン・チャレンジ・アワード”を受賞した。
【荒木杯ハンデ戦の結果】
Aブロック優勝:薛 詩雨・桑 浩哲ペア
Bブロック優勝:大久保 美穂・今泉 裕樹ペア
Cブロック優勝:大村 愛里・大村 慶太ペア
●「本戦」&「松田杯 第8回 世界学生ペア碁選手権大会」2日目
本戦、また松田杯の対局が続々と終局を迎える。本戦は3回戦終了時点で全勝のペアは、中国代表の陳 思・王 琛ペア、日本(関東甲信越)代表の倉科 夏奈子・杉田 俊太朗ペア、日本(関東甲信越)代表の藤原 彰子・石村 竜青ペア、日本(関東甲信越)代表の谷 結衣子・大関 稔ペアの4ペア。
倉科・杉田ペアは今回が本大会3回目の出場となる。杉田さんは、「これまでの大会成績は1回目が3勝2敗、2回目は4勝1敗。成績は上がってきているので今回は5勝0敗が目標です。最低でも3位以上を狙っていきたいと思っています」と話す。パートナーの倉科さんも「同じくです」と同意していた。本大会に出場するには各地方で行われる予選大会を勝ち抜く必要がある。二人は激戦区の関東甲信越予選で出場権を獲得したが、「予選は4局目の対局で大逆転して出場を決めることができて…、今のところツキも味方してくれている感じです」と杉田さん。倉科さんは「予選の4局目は私がとんでもないミスしてしまったので代表になれただけで良かったなと思っていましたが、あと残り2局を全力で頑張りたいです。」とパートナー同士、上位入賞に向けて気合い充分だ。
倉科・杉田ペアの4回戦は3回戦で強豪の韓国ペアを相手に勝ち星を飾った藤原・石村ペアとの対戦となった。また、全勝中の陳・王ペアと谷・大関ペアも勝ち星を争うことに。結果、藤原・石村ペアと陳・王ペアが勝ち、優勝決定戦の組み合わせが決まった。
松田杯は、2回戦終了時点で中国代表の周 楽萱・龐 子鈺ペアと中華台北代表の陳 芊瑜・イヴァン リンペアが全勝。最終戦の3回戦で対決し、中国代表の周・龐ペアが優勝を決めた。周さんは、「途中、私がミスしてしまってもカバーしてくれたパートナーの龐さんに感謝しています。優勝することができて嬉しいです。」と笑顔で話してくれた。龐さんは「去年は3位でしたが今年は優勝できました。今とてもテンションが上がっています」と嬉しそうな様子。3回戦について聞くと、「決勝は途中でミスしてしまい、粘って頑張りました。最後まで分からなかったです。結果、勝つことができてホッとしています」と周さん。「相手の中華台北代表ペアはとても強かったです。最後まで分からなくて、何とかチャンスをつかんだタイミングがありました。粘り強く頑張ったのが勝ちに繋がったと思います。」と龐さん。熱戦の様子を伺えた。
日本代表の中川 万脩・赤木 志鴻ペアは2回戦で中華台北代表の陳・イヴァンペアに負けてしまい、悔しい気持ちをにじませていた。「こう進めよう、と作戦を立ててもなかなか息を合わせるのが難しいです。工夫しながら頑張っていました」と中川さん。赤木さんは、「息を合わせるというのが難しいところでもあり、面白いところでもあるなと思います。僕はペア碁が大好きで、今回もとても楽しめているなと思っています。もちろん勝つことが目標ですが、結果を意識するというよりかはペア碁を楽しんで、最後に結果もついてこればなと思います。」と明るく話してくれた。見事、3位入賞を果たした。
古家 美里・北山 雄貴ペアは松田杯に初出場。大会の印象を伺うと、「海外の方との交流だったり、大会の華やかな雰囲気だったり、試合以外も楽しむことができるようになっていてすごく良い大会だなと思いました。」と古家さん。「1回戦は負けてしまい、2回戦は勝てました。最後まで大会を楽しむことができたらと思いますし、入賞目指して頑張りたいです。」と北山さんは目標を聞かせてくれた。
坂野 英恵・齊山 天彪ペアは2勝1敗で3位に入賞した。大会前に作戦を立てて準備をしていたとのことで、「石を攻めて勝とうと話していて、勝った対局はそれが上手くいった対局でした。」と齊山さん。坂野さんは「3回戦の対局も最後までどうなるのか分からなくて…、負けてしまいましたが、やりきることができたかなと思います。」と2日間の熱戦を終えて少し燃え尽きた様子。齊山さんは、「僕は優勝を目指していたので、ひたすら悔しいです。(坂野さんが来春卒業なので)次は本戦出場で戻ってきます。」と次大会への抱負も聞かせてくれた。
【松田杯 第8回 世界学生ペア碁選手権大会の結果】
優 勝:周 楽萱・龐 子鈺ペア(中国代表)
準優勝:陳 芊瑜・イヴァン リンペア(中華台北代表)
第3位:中川 万脩・赤木 志鴻ペア(日本代表)
坂野 英恵・齊山 天彪ペア(日本代表)
本戦5回戦及び優勝決定戦が始まる。優勝決定戦に進出したのは中国の陳 思・王 琛ペアと日本の藤原 彰子・石村 竜青ペア。対局は別室で行われる。また、二十四世本因坊秀芳と聞き手の飛田早紀二段による大盤解説会も実施され、大会に出場した選手や関係者が優勝決定戦の対局を見守っていた。結果、中国代表の陳・王ペアの白13目半勝ちとなった。
優勝決定戦を終えて王さんは、「ペア碁は初めてだったので上手く打てるかとても心配でしたが、終えてみるとパートナーの陳さんとはとても息が合っていたように思います。優勝できて本当に嬉しいです。」とやりきった表情が覗えた。陳さんは「今回、日本に来て打つことができて良かったです。また、王さんと息を合わせて最後まで頑張ることができて、優勝という結果に繋がって嬉しく思います。」と笑顔で話してくれた。
【第33回 国際アマチュア・ペア碁選手権大会(IAPG杯 / JAPG杯)の結果】
優 勝:陳 思・王 琛ペア(中国代表)
準優勝:倉科 夏奈子・杉田 俊太朗ペア(日本・関東甲信越ブロック代表)
第3位:藤原 彰子・石村 竜青ペア(日本・関東甲信越ブロック代表)
第4位:徐 秀京・柳 仁樹ペア(韓国代表)
第5位:金子 もと子・佐藤 洸矢ペア(日本・近畿ブロック代表)
第6位:松本 実優・小山 光晶ペア。(日本・関東甲信越ブロック代表)
第7位:谷 結衣子・大関 稔ペア(日本・関東甲信越ブロック代表)
第8位:林 曉彤・賴 宥丞ペア(中華台北代表)
●ベストドレッサー賞
恒例のベストドレッサー賞は、今回も世界デザイナーのコシノジュンコ氏を審査委員長にお招きして行われた。審査の講評をお届けする。
◆ 着物ナチュラルペア・アワード
本戦近畿ブロック 日野 里衣子・平松 慶己ペア
ペアを組むのは3、4回目で、ベストドレッサー賞は今回が初めての受賞。着物については日野さんから提案して、着物で揃えて参加しようと準備したそうだ。日野さんの着物はお母さまのもので、優しい色合いが印象的。平松さんもご自身の着物とのことで、二人ともばっちり着こなしていた。
【講評】
普段から着物を着こなしている感じがします。二人とも着物が板についていて、リラックスしたペアのさりげない着こなしがとても素敵です。
◆ 着物ペア・アワード
荒木杯ハンデ戦A ブロック 柳沢 実寿々・岡本 拓也ペア
【講評】
華やかな感じがペア碁の対局にふさわしく、素敵な装いです。
◆ ジャパン・チャレンジ・アワード
荒木杯ハンデ戦C ブロック 中軽米 優里・松原 遼太ペア
【講評】
若いながら着物を着ることにチャレンジしていて、とても素晴らしいです。また囲碁を意識した配色も、囲碁の姿勢に則っていてとても素敵です。
◆ スタイリッシュ・アワード
荒木杯ハンデ戦A ブロック 矢治 真帆・高橋 大地ペア
【講評】
若いペアですが、キチンとスタイリッシュにお洒落をしているのがとても素敵です。囲碁に取り組む姿として、いいスタイルだと感じます。
◆ キッズ・ファッション・アワード
荒木杯ハンデ戦C ブロック横関 仁乃・中軽米 亮汰ペア
【講評】
白と黒の衣装で囲碁の対局らしいお洒落をペアで合わせて装っているのがとても素敵です。子供ながらお洒落を楽しんでいるのがとても有望だと感じました。
◆ ユニーク・アワード
荒木杯ハンデ戦A ブロック 薛 詩雨(せつ しう)/桑 浩哲(そう こうてつ)ペア
【講評】
アバンギャルドな出で立ちでとても面白いです。ストーリー性も感じられます。
◆ ナショナル・コスチューム・アワード
松田杯フィンランド・ドイツ代表 リーナ ラーティカイネン・ニルス ションベルグ ペア
【講評】
若さがあって民族衣装が板についている印象を受けます。日常を感じさせるコスチュームがとても素敵です。
◆ ナショナル・コスチューム・アワード
本戦ポーランド代表 マリアンナ シホヴィアック・マルシン マイカ ペア
【講評】頭から足元まで全身トータルコーディネートをきちんとしていて、完璧な出で立ちです。国を代表する意気込みを感じさせます。
◆ ナイスペア・アワード
本戦イギリス代表 ジョアン ルン・ブルーノ ポルトロニエリ ペア
【講評】
二人ともピシッと揃っていて、何気なさがとても素敵です。ペア碁の姿勢を守った、二人で一緒にするお洒落です。