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ペア碁ワールドカップ2016東京 ペア碁ワールドカップ2016東京

熱戦の模様を全対局ライブ中継!

大会レポート

 この夏、東京・渋谷の街で、駅で、電車の中で、「Pair Go World Cup 2016 Tokyo」のポスターや広告映像を目にした方は大勢いることだろう。大々的に宣伝された「ペア碁ワールドカップ 2016 東京」は、7月9日、10日の両日、渋谷・ヒカリエホールにて、約4000人のファンを集めて、盛大に催された。

 日本からは謝依旻六段と井山裕太九段のペアが出場し、中国、韓国からもそれぞれ最強選手がペアを組んで参戦。文句なく史上最強ペアたちによる夢の大会を、会場の熱気とともにお伝えしていこう。

 まずは、大会前日に行われた記者発表会、組み合わせ抽選会、そして、史上初の画期的なイベントの模様をお届けする。

記者発表会

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 7月8日、東京・渋谷にあるセルリアンタワー東急ホテル ボールルームにて、13時から記者発表会が行われた。広い会場には、国内だけでなく、アジア各国からも報道陣が集まった。
 「1990年に日本で生まれ、従来の囲碁とは異なる発想、戦略を必要とするマインドスポーツとして育ってきたペア碁。国や言葉の壁を越え、現在、世界74カ国・地域で楽しまれています」と司会者の概要説明からスタート。プロ棋士のペアが参戦する国際大会「ペア碁ワールドカップ」の第2回となる本大会は、12カ国・地域から16ペアが出場。優勝賞金1000万円を目指し、トーナメント方式4回戦が行われる。

 大会実行委員長、世界ペア碁協会会長の松浦晃一郎が挨拶に立った。
「2010年に第一回の『ペア碁ワールドカップ2010杭州』を中国で開催しました。今年、ペア碁が生まれた東京で盛大に2回目のワールドカップを開催できることを非常に嬉しく思っています。現在ペア碁は、アジアのみならず、北米、南米、ヨーロッパ、アフリカに広がってきており、74カ国・地域に世界ペア碁協会のメンバーがいます。囲碁と同じレベルの国・地域の広がりを見せているのです。26年前にペア碁を創案した滝久雄氏に改めて感謝したい。今大会ではAIとプロ棋士による詰碁対決も企画しています。こちらも世界的な注目を集めることを期待しています。そして、明日からのトーナメント対局、皆さんの熱戦を大いに期待しています」

組み合わせ抽選会

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 いよいよ会場に選手たちが姿を現した。2ペアずつ紹介されて登壇し、組み合わせの抽選を引いていく。
同じ国・地域のペアが1回戦で対戦しないよう、まずは女性選手がブロックの札を引き、男性選手がブロック別の箱からボールを選ぶ。全組み合わせが決定し、最強棋士たちが一堂に介する光景は、やはり「夢のよう」だ。

 ここで改めて、日本の3ペアを簡単にご紹介すると……
 謝依旻六段・井山裕太九段ペア。謝六段は国内の女流四タイトル、井山九段は七大タイトルを、それぞれ独占している。
 王景怡二段・村川大介八段ペア。「プロ棋士ペア碁選手権2016」の優勝ペア。
 向井千瑛五段・一力遼七段ペア。「プロ棋士ペア碁選手権2016」の準優勝ペア。

 そして、日本の囲碁ファンにはあまり知られていないかもしれない中国と韓国の最強ペアも簡単にご紹介しよう。
 於之瑩五段・柯潔九段ペア(中国)。柯潔九段は、非公式ながら世界ランキングでトップに君臨。もちろん中国国内ナンバーワン。於之瑩五段は、あの強い中国若手男性陣に混ざり、女性では史上初の新人王を獲得している。共に1997年生まれ。

 崔精六段・朴廷桓九段ペア(韓国)。朴廷桓九段は、1993年生まれ。李世ドル九段を抜いて韓国国内トップ。崔精六段は、1996年生まれ。日本の若手陣が自費で参加するも予選さえ突破できない世界戦・LG杯で今年、見事に本戦入りを果たし、一回戦も勝利している。

 日本(3ペア)・中国(2ペア)・韓国(2ペア)・中華台北(2ペア)の選手たちは全員プロ棋士。また、近年、ヨーロッパとアメリカでもそれぞれプロ制度が整いプロ棋士が誕生している。今回は、アリ ジャリバン初段(ヨーロッパ)、イリヤ シクシン初段(ヨーロッパ)、エリック ルイ初段(北米)の男性3名がプロ棋士だ。

 対戦の組み合わせが決定したところで、審判団が紹介された。
 審判長は、大竹英雄名誉碁聖。副審判長は、小川誠子六段と吉田美香八段。そして、通訳も兼ねる審判員が、マイケル・レドモンド九段、金秀俊八段、孔令文七段だ。

 選手たちへのインタビュータイムが始まった。
 実行委員で日本ペア碁協会常務理事、世界ペア碁協会副会長でもある滝裕子が、選手たちに2つの質問を投げかけた。「世界最高峰のプロ、アマが一堂に会して戦うこのときを迎え、本当にワクワクしております。大ファンとして、まず、アマチュアの選手の方に伺います。世界のトッププロと戦うのは、どんな気持ちでしょうか?」

 エイミー ソングさん(オセアニア・アフリカ)「大変な名誉です。自分としては、もちろん緊張もしていますが、ワクワクもしています。つぶされないようにがんばりたいと思っています」
 ナタリア コヴァレヴァさん(ヨーロッパ)「夢みたいなこと。ものすごくいいチャンスだと思っています。ワールドカップに出場するのは2回目で、実行委員の方々はじめ皆様にとても感謝しています」と、それぞれ、にこやかに語った。

 滝裕子実行委員の2つ目の質問は「今度はプロの方にお聞きします。ペア碁が、一対一で打つ囲碁と違うところで、面白いと感じるナンバーワンのポイントは何でしょうか?」

 黒嘉嘉七段(中華台北)「一人の実力ではなく、二人の連携・協力が大切なところ」
 謝依旻六段(日本)は「今回参加できることに感謝しています」とあいさつした後、「お互いの息を合わせることが重要ですが、パートナーを信じる力を持って、思い切って打つことも大切だと思っています。今回もパートナーがやってくれると信じています」
 滝裕子実行委員は「思い切って打つ、という表現は初めて聞きました!皆さん、コメントをありがとうございました」。

 最後に、今大会への意気込みを、2名の棋士に語っていただいた。
 柯潔九段(中国)「この大会に出場できて、とても光栄です。今回はラッキーなことに、素晴らしい実力あるパートナーとペアを組むことになりました。この運を無駄にしないように、勝ちたいと思います」
 崔精六段(韓国)「大会へのご招待に感謝しています。今、柯潔九段も話されていましたが、私も強い方とペアを組めることを喜んでいます。恵まれた運を味方にがんばりたいと思います」
 選手の皆さんからは、高揚感と共に闘志も湧いてきたように見受けられた。

 続いては、フォトセッション。多くのフラッシュがたかれた。

"パンダ先生"チャレンジマッチ

 今大会の公式スペシャルイベント「"パンダ先生"チャレンジマッチ」のブリーフィングが行われた。

 まず、「"パンダ先生"チャンレンジマッチ」とは……
 世界一の詰碁AI「死活の神様"パンダ先生"」とワールドカップ出場の世界強豪プロペアたちが、詰碁の超難問に挑戦して、スピードと正確さを競い合う。史上初の試みとなる特別イベントだ。

 ブリーフィングでは、ペア碁創案者で日本ペア碁協会顧問・評議員であり実行委員の滝久雄、同じく評議員の久保征一郎、株式会社パンダネット技術開発室室長の佐伯知哉が登壇した。

 2016年3月、人工知能(AI)「アルファ碁」が、韓国の棋士、李世ドル九段に4勝1敗と勝利した「事件」は、世界中の話題となった。AIに脅威すら感じる昨今、滝久雄実行委員は、「これからは、AIとの良い向き合い方が大事」と語り、「世界の注目をアルファ碁にすっかり持っていかれてしまいましたが、私たちが30年かけて開発した"パンダ先生"も、誰もが手軽に使える――人間に役立つAIとして、もっと世界に注目してもらいたい」と続けた。
 滝久雄実行委員は、井山裕太九段が「人間が詰碁の形を作り、ソフトで間違っていないか確認するようになっています。スピードと正確性はかなわない」と"パンダ先生"について語った記事を読み、大いに自信を得て、今回の企画を着想したとのことだ。

 それでは、"パンダ先生"の特性を改めてご紹介しよう。
まず、詰碁を解くスピードと正確さが、他社開発の詰碁AIより優れ、現在は世界トップであること。
すでに2003年からアマ囲碁ファンのみならず、プロ棋士にも親しまれ、使われてきていること。
そして、何より、誰もが手軽に使えること。ちなみに、李世ドル九段を打ち負かした「アルファ碁」は莫大なリソース(ソフトウェアやハードウェアを動作させるのに必要なCPUの処理速度やメモリ容量、ハードディスクの容量など)を消費。「一局対局するときの電気代だけで百万円はくだらない」という。一方、"パンダ先生"が消費するのはたったの2メガバイト。これは「写メを送るのと同じ」だそうだ。

 "パンダ先生"の偉大さ(!?)を理解したところで、いよいよ「チャレンジマッチ」へと舞台が移された。

 競技のルールはいたって簡単。合計6問が出題される。各問題の解答制限時間は10分。6問終了時に、より多くのポイントを獲得したペアが優勝となる。

 この企画が興味深いのは、見所(勝負所)が3つあるところだろう。
 一つ目は、人工知能(AI)"パンダ先生"と人間との勝負。果たして、どんな結果になるのか!?
 二つ目は、世界トップ棋士たちがどんなふうに詰碁を解いていくのかを目の当たりにできること。
 そして三つ目は、出題者と解答者の勝負だ。

 今回の詰碁を出題したのは、河野臨九段、大場惇也七段、大橋拓文六段の3名。河野九段と大場七段は、超難解な詰碁作家として、詰碁ファンの間で定評がある。ピアノも玄人はだしの腕前を持つ大橋六段が作る詰碁は「芸術的」と言われている。

 この3名が2問ずつ作った6問に挑戦するのは、
 出場ペアのうち、男女共にアマチュアの4ペアを除いた12ペア。そして、"パンダ先生"ペア。"パンダ先生"のパートナーは、大澤摩耶さんがつとめた。大澤さんは、4年前、フランス・リールで行われた第2回ワールドマインドスポーツゲームズの「ペア碁」競技、金メダリストでもある。

 12ペアは、隣席が見えないようにパーテーションで仕切られたテーブルに向かい合って着席。
 まず、1問目が入った封筒を手渡される。 "パンダ先生"と大澤さんは壇上のテーブルに。"パンダ先生"の画面に問題図が入力された時点で、「よーい、始め!」とかけ声がかかった。
 棋士たちは、いっせいに開封し、瞬く間に問題図を碁盤に並べ、目を見開いて集中した。

その他の"パンダ先生"チャレンジマッチの写真を見るにはこちら

 問題が解けたペアは、テーブルの上のボタンを押す。 早くボタンを押したペアから順に、壇上の審判員席に向かい、答え合わせを行う、という流れだ。ただし、この解答権があるのは先着5ペアまで。そして、正解すれば、早い順に、「5」から「1」ポイントを獲得できる。しかし、不正解の場合は「-2ポイント」となってしまう。
 審判員長の二十四世本因坊秀芳(石田芳夫九段)と出題者3名が審判員をつとめ、「解けた!」と意気揚揚と登壇するペアたちを待ち受けた。

 数分もしないうちに、早くも、1ペア目のボタンが押され、「ピンポン!」の音が会場に鳴り響いた。向井千瑛五段・一力遼七段ペアだった。しかし、他のペアたちは動揺することもなく、熱心に問題に取り組んでいる。さらに数分が過ぎると、続々と「ピンポン!」が鳴り響き、呉侑珍二段・崔哲瀚九段ペア(韓国)、於之瑩五段・柯潔九段ペア(中国)、謝依旻六段・井山裕太九段ペア、ナタリア コヴァレヴァ・イリヤ シクシン初段ペア(ヨーロッパ)にて、締め切り。"パンダ先生"は、先着5ペアに入れなかった。
 1問目の結果は、スリリングなものだった。向井・一力ペアは不正解。呉・崔ペアも不正解。ナタリア・イリアペアも不正解。3ペアは「-2」ポイントだ。於・柯ペアが「5」、謝・井山ペアが「4」ポイントを獲得した。

 この時点で、問題が相当な難問であることが、ご想像いただけるだろう。

 どのぐらい難しいかというと、まず正解にたどりつくまでの手順が長い。ちなみに、その長い手順の途中に枝分かれはなく、一本道。この「最後まで正解が一手のみ」という問題は、作るのがかなり難しいそうだ。大橋七段らは、2問つくるのに、1か月(!)を費やしたという。
 そして手順中、例えば、白の4手目や6手目に「妙手」が隠されているそうだ。

 2問目は、最初にボタンを押した於・柯九段ペアが「-2」。次にボタンを押した呉・崔ペアは正解で「5」ポイントをゲット。そして、ぎりぎり5番目にボタンを押した"パンダ先生"が「4」ポイントを獲得する結果となった。

 世界最強ペアたちが詰碁を解く様子も、興味深かった。中国の柯潔九段は、2問目で、3手目までわかるとすぐにボタンを押した。そして、審判員と答え合わせをするのだが(審判員は、白の手を打って、解答に応じていく)、白の4手目を見ると「あ。間違えた」と言ってさっさと壇を降りてしまった。(ちなみに、大橋六段いわく「黒の3手目までは正解だったのに」とのこと)
 かたや、韓国の朴廷桓九段は慎重そのもの。正解がわかった後も、他に白からよい手がないか、何通りも検証していく。1問目、2問目、と「-2」ポイントペアが続出すると、朴九段はますます慎重になっていった。

 ここまでのスコアは、"パンダ先生"と謝・井山ペアが「4」ポイントでトップに並び、於・柯九段ペアと呉・崔ペアが「3」ポイント。会場は大いに盛り上がっていった。

 "パンダ先生"応援団からは「1問目も正解だったのに……間違えないんだけど、遅いのよ!」と、心配の声が聞こえてきた。しかし、ここから、"パンダ先生"が怒涛の巻き返しをみせ、実力を見せつけることとなる。
 3問目、4問目、5問目と、3問連続で、"パンダ先生"は「5」ポイントを獲得。残りのペアは皆不正解の「-2」ポイントという中で、圧巻の強さであった。最終問題も"パンダ先生"が「5」ポイントを勝ち取って、合計「24」ポイント。2位の呉・崔ペア「6」ポイント、3位の於・柯九段ペア「3」ポイントを大きく引き離しての、堂々たる優勝となった。

 "パンダ先生"に贈られた優勝賞金100万円は、次回の大会に持ち越されるとのこと。2位のペアには30万、3位のペアには15万円が贈られた。
さらに、あまりにも問題が難しかったためか、正解を出して「5」「4」「3」ポイントを獲得したペアには「パンダネット特別賞」としての賞金がそれぞれ贈られた。

 石田審判長は「作者3名と、どのぐらいできるのかな、と話していました。河野さんは、皆さんかなり解けるのでは、と予想していて、私も同じ意見でした。ですから、意外と正解率が低かったなという印象です。世界トップの棋士たちがこれだけ苦戦。見ている者としては楽しかったです。今回は、違った意味での囲碁の楽しみ方を教わりました。ありがとうございました」との総評。 大橋六段は「皆さんに苦戦していただいて、作者冥利につきます」と笑顔。また、3問目以降は"パンダ先生"が圧勝だったのに比べて、1問、2問は、人間が勝利したことについて、「得意と苦手が、"パンダ先生"と人間とでは違っているのが意外でした。広い空間があっても、急所を捕まえると人間は早いのですね」と興味深そうに感想を語った。
 大橋六段は、この日、交流のある崔哲瀚九段に「いい問題だった」と声をかけられ、「ぜひリベンジしたい!」と言われたという。「嬉しいですよね」と満面の笑みだった。

 大いに盛り上がった「"パンダ先生"チャンレンジマッチ」。競技終了後には、参加12ペアが、「6問中、どの問題が一番すぐれていたか」の投票を行い、最優秀作品賞は大場惇也七段(第2問)、優秀作品賞は河野臨九段(第6問)が獲得した。

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