大会レポート
シャッフル親善ペア碁
シャッフル親善ペア碁も、もう一度シャッフル&組み合わせ抽選が行われて、2局目が打たれた。
親善ペア碁は、和やかに打ち進められ、検討時も笑い声に包まれた。
中南米代表のフェルナンド アギラールさんは、一日目の一回戦、謝・井山ペアとの対局を「素晴らしい碁だった」と、まず振り返り、「親善対局でも井山さんと対局できて、くじ運がよかった」と満面の笑み。「親善ペア碁では、三人のプロ棋士に囲まれ、三人から指導碁をしてもらえる幸せを味わいました」。また、30年ほど前に、井山七冠の師匠である石井邦生九段にアルゼンチンで打っていただいたことがあり、その縁もあって「ずっと井山先生のファンです。新鮮なスタイルで、味を利用したり、手所で素晴らしい発想があり、井山先生の碁は素晴らしい」と語った。
ヨーロッパ代表のナタリア コヴァレヴァさんは、「子供のころは、囲碁の学校で打っていましたが、最近はロシア囲碁連盟の副会長になり、対局するよりオーガナイズする側に回っています」とのこと。
一力遼七段とペアを組んだ親善ペア碁では、「相手の時間が切れて勝てましたが、内容は負けでした」と笑い、「一力さんは英語が堪能で、わかりやすく検討していただき、とても勉強になりました。一力さんの堅い打ち方、厚い手が印象的です」
同じく親善ペア碁で村川大介八段とペアを組んだ、ヨーロッパ代表のリタ ボーチャイさんは、「今は大学の試験勉強が忙しく、月に一度、ブタペストの囲碁クラブで打つのが唯一の対局機会です」と語る。囲碁は、元ヨーロッパチャンピオンのお父さまから習った。「村川さんは、わかりやすい手を選んでくださり、ついていきやすかった。気持ちよく打てました」と大満足の様子。「今回は、世界中のトップの棋士に会え、打つところを間近に見ることができて嬉しい。また、こんな規模で解説会が行われることはヨーロッパではないので、感激ばかり。とても楽しかったです」
ヨーロッパ代表のプロ棋士、アリ ジャバリン初段は「今回深い印象を受けたのは、運営の技術・素晴らしさです。これだけ盛大にファンを引き寄せるレベルの高い運営は初めて見ました」とコメント。
同じくイリヤ シクシン初段からは「囲碁は中国で生まれましたが、成長・発展させたのは日本人です。もっともっと打って欲しいし、日本人も優勝してほしいと思います」とエールを送られた。
さて、本戦に戻ろう。
本戦・決勝、三位決定戦
午後2時半に、決勝戦と三位決定戦がスタート。
改めて対戦カードをご紹介しましょう。
決勝戦は、於之瑩五段・柯潔九段ペア(中国)VS 黒嘉嘉七段・陳詩淵九段(中華台北)
三位決定戦は、呉侑珍二段・崔哲瀚九段ペア(韓国) VS 崔精六段・朴廷桓九段ペア(韓国)
韓国ペア同士の決戦となった三位決定戦は……
序盤から互いに研究の布石でスタートし、激しい戦いに突入していった。白番の呉侑珍二段・崔哲瀚九段ペアが一時は打ちやすいかと思われたが、黒番の崔精六段・朴廷桓九段ペアが読み勝ち、シノギきると、その後は抜群の安定感で差を広げ、黒番中押し勝ちとなった。
決勝戦は、白番の中国ペアが強さを見せつける展開となった。
「黒は序盤に作戦ミスがあり、対して白の打ち方は完璧。黒は相当勝てない形勢です」(二十四世本因坊秀芳)。「この白は本当に強いですね。黒は右上の損がずっと尾を引いている。取り返しがつかない。逆転しようがない碁の形です」(趙治勲名誉名人)。「黒は下辺の三間ビラキで星に打っていれば、立ち直るチャンスができたかもしれないと思います。それを逃してからは、白が寄せつけない打ち回しを見せました」(小林光一名誉棋聖)。と、3名の解説者も白の強さを謳った。
結果は、於之瑩五段・柯潔九段ペア(中国)の白番中押し勝ち。見事な優勝だった。
準優勝の陳九段は「結果には満足しています」と喜びの声。「自分がまずく、いいところがなくて、パートナーに苦労をかけました。実は決勝まで、全ての対局が逆転勝ちでした。自分が時間つなぎを打って黒さんに判断を委ね、助けてもらったこともありました。戦術で勝てたのかもしれません。今回参加でき、本当に嬉しい。競技性よりも面白さ、パートナーと息を合わせる大事さがペア碁の魅力だと思います」
黒七段は「陳先生と組めて楽しかったです。準決勝では、たしかに私が決断した場面がありました(笑)。決勝まで来ることができたのは、ペア碁の経験からコツがわかっていたからかもしれません。ペア碁では男性が優しいことが一番大事で、そうでないと萎縮してしまいますから、その点でいえば、陳先生は人柄もよく、怒られることは全くなく、そういうプレッシャーが全くなく、助けられました。一つの場面で同じことを考えられ、息が合ったと思います。中華台北には女流棋士が8人しかおらず、国内でのペア碁の大会は難しい。今回の大会に参加でき、たくさんの方にお礼を言いたいです」
三位の朴廷桓九段は、準決勝の様子を尋ねられ、「序盤はよかったと思います。でも自分もパートナーも間違えた。逆転負け。それだけです。一生懸命勝負したので、悔いはありません」と答えていた。
「ギャラリーがすぐ近くで観戦していて打ちにくいということはなかったですか?」という報道陣の問いかけに、崔精六段からは「うらやましい」と即答が返ってきた。「棋士が対局している雰囲気を感じてもらえるのは、嬉しいし、ファンの皆さんにも喜んでもらえると思う。韓国にもこういう機会があればいいと思いました」
優勝ペアのインタビューに、それまで寡黙だった柯潔九段は饒舌に応じていた。
柯潔九段「優勝は非常に嬉しいです。いいパートナーに恵まれて嬉しかったです」
於之瑩五段「優勝は嬉しいのですが、今日は2局とも大変な碁で、自分にミスが多く、実力が足りないことを感じました。勝てたことは嬉しい。パートナーに感謝しています」
柯潔九段「決勝戦は、スタートから順調に優勢を築けました。途中、少しもつれそうになりましたが、勝敗にはあまり関係なく、順調でした。それもパートナーのおかげです」
於之瑩五段「序盤でだいぶリードしたのが幸いしました。中盤以降は自分がまずい手を打ち、わかりにくくしたのですが、パートナーに助けてもらいました」
お互いにパートナーを立て合うコメントが続き、微笑ましい。過度にプレッシャーを感じていた於之瑩五段の気持ちをほぐそうと、柯潔九段が懸命になっているようにも窺えた。
柯潔九段「ペア碁に出るのは初めてなので、ペア碁の経験が豊富な於之瑩さんと組めたことは本当にラッキーでした。私は性格がせっかちで、相手のせいにしやすい。でも自分も準決勝の終盤にミスをしました。勝敗に響かなかったのはラッキーでした。ペア碁は息が合わないとばらばらになるわけですが、何局か打ってきて、息が合ってきた。於之瑩さんはさすがペア碁の経験が豊富だと実感しました。またぜひ於さんと組んで出場したいです」
於之瑩五段「私はペア碁の経験があり、テクニックもコツもつかんでいる部分があります。柯潔さんとは練習できていませんでしたが、初めて組む感じもなく、いい碁が打てたと思います」
最後に、ギャラリーに囲まれて打つ心境を尋ねられた柯潔九段は「日本のファンはマナーがよく、対局中におしゃべりすることもありません。対局していて集中力が途切れませんでした。中国でもこのような形を試してみたいです。この大会の発展を願っています」と語った。
閉会式・表彰式
午後4時半、閉会式、表彰式が始まった。
日本ペア碁協会理事長の松田昌士が「真夏より熱い熱戦、おつかれさまでした。大勢の立ち見の方も含め、お越しいただいた皆さまにお礼申しあげます。ペア碁の選手権をこれからも広げていきたいと思っています。世界トップクラスの選手の皆さんに心から拍手を送っていただきたい」とあいさつし、会場は大きな拍手に包まれた。
優勝ペアにはトロフィと金メダルと賞金目録が贈られた。
準優勝ペア、3位ペアにはそれぞれ、銀メダルと賞金目録、銅メダルと賞金目録が贈られた。
大画面モニターには、アーティスト、日比野克彦氏による次回の優勝カップのデザイン画が映し出された。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの年に、どんな形で「ペア碁ワールドカップ」が催されるのか、世界中の棋士と囲碁ファンが楽しみに注目している。