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ペア碁ワールドカップ2016東京 ペア碁ワールドカップ2016東京

熱戦の模様を全対局ライブ中継!

大会レポート

本戦・二回戦

 午後2時。二回戦の開始がコールされた。
 ヒカリエホールAでは、解説者が入れ換わり、大盤解説会を趙治勲名誉名人と小川誠子六段が担当。大盤解説コーナーを二十四世本因坊秀芳と吉田美香八段が受け持った。そして、やはり2か所の解説会が同時に進行(!)。初めて見る贅沢な解説光景だ。

その他の二回戦の写真を見るにはこちら

 注目の謝・井山ペアと崔・朴ペアの一戦は、序盤から難解な接近戦に突入した。
 この折衝の中で、井山九段に悔やまれるシーンがあったそうだ。「打ってすぐに気がついたのですが…。その手を打っていれば、優勢を築けました。それを逃したのが申し訳なかった」と局後の井山九段。「その手」を、局後の検討で韓国ペアに示したところ「二人とも同意していた」という。
優勢を築くチャンスを逃したものの、形勢を損ねたわけではない。
 しかし、勝負はこれから、というときに、事件が起きた。
 大盤解説会場では、趙名誉名人が、「あれ。これは黒番の韓国ペアがまずかったのでは? ワナにハマる可能性がありますよ」とコメント。有名な筋が決まったかと思われた。しかしその直後、趙名誉名人が悲鳴をあげる。おそらく、謝・井山ペアも心の中で悲鳴をあげたのではないだろうか。その局面に限って、有名な筋に対して、返し技があったのだ。一瞬にして白の中央の大石が取られて、事実上ここで勝敗が決してしまった。
 局後、謝六段はガックリと肩を落とし「序盤、あまりにも難しくて、よくわかりませんでした。いい勝負と思っていたのですが、中盤に入ったところで、簡単な手筋が見えていなくて…」と唇をかむ。
 井山九段は、韓国ペアの印象を「やはり強い。非常に安定しています」と語り、「でも、悔やまれます。あの手をしっかり打っていれば…」。これに謝六段は「私は、それすら気づいてなかったので」と返し、「これ以上ないパートナーとペアを組め、楽しかった。それだけに、正直、もう少し打ちたかったです」と無念を語った。それから気を取り直し「次のチャンスには、迷惑をかけないように、鍛え直します!」
 井山九段も「刺激を与えてくれる人々が大勢集まっていて、また、日本のファンのためにももっと勝ちたかったのに残念です。この経験を生かしたい。生かせるかどうかは自分次第」と自分に言い聞かせるように、リベンジを誓うコメントを残してくれた。

 勝った韓国ペアは、日本ペアに対して、朴九段は「ミスが出て、十分な実力が発揮できなかったのかなあ、という印象です」、崔六段が「私たちも緊張していましたが、日本ファンに囲まれて、さらに緊張されてしまったのではないでしょうか」と、それぞれ、日本ペアを気づかうコメント。明日の準決勝戦に向けては、「ベストを尽くせば、チャンスを作れます。相手のペアは強いですが、自分のパートナーも強い。ベストを尽くします」と朴九段が、「今日勝ち残れてとても嬉しい。パートナーが合わせてくれるので、力が出せました。強い日本ペアに勝てたので、その責任も持って、明日も楽しみたいと思います」と崔六段が、それぞれ豊富を語ってくれた。

 日本ペアに2日目に勝ち残ってほしい……というファンの期待は、残る、向井・一力ペアに注がれた。相手は韓国の呉・崔ペアだ。終盤まで難しい形勢の、息詰まる接戦だったが、結果は韓国ペアが黒番4目半勝ち。日本勢は1日目でトーナメント表から姿を消すこととなった。
 一力七段は「チャンスが多かったのですが、決めきれませんでした。相手は勝負所が強いなという印象です。二転三転するペア碁らしい展開でしたが、ヨセに悔いが残ります」とコメント。
 向井五段は「私のほうが年上ですが、一力さんが頼りになるので安心して頼りにして打てました。予想にない手を相手に打たれたときなど、一力さんのサバキ方を見て、こういうふうに打つのだなと勉強になりました」とパートナーへの信頼ぶりを語り、「結果がちょっと残念ですが」と加えた。敗れたとはいえ、ペア碁を十二分に堪能した様子。一力七段も「二人の息を合わせるので、それぞれの棋風も変わるのが面白いですね。普段自分が打つときとは違う碁になれる。これは楽しさでもあります」と、ペア碁の魅力を語った。

 王・村川ペアに勝利してベスト4に進出した呉・崔ペアは……
 崔九段が「二局とも強い相手で、最後まで勝ちが見えない碁でした。明日はもっとよい碁を打ちたいと思います。でも、どちらも不利でしたから、よくここまで残ったと嬉しく思っています」と喜びを語った後、「勝った要因は二つあり、一つは、パートナーが強かったこと。もう一つは、最後まで集中を切らさずに打てたことです」と振り返った。
 呉二段は「手が見えませんでしたが、パートナーを信頼して打つことができました」
 明日に向けては「2日目に残るという第一の目標をクリアできたのでホッとしています。明日は楽しみながら打てば結果もついてくると思います」と崔。呉は「決勝の舞台に立ちたいです」と闘志を見せた。

 ベスト4進出を決めた残る2ペアは、
 黒嘉嘉七段・陳詩淵九段ペア(中華台北)と、於之瑩五段・柯潔九段ペア(中国)だった。
 黒・陳ペアに敗れた北米ペアのエリック・ルイ初段は、「エキサイティングな碁。派手な碁でした」と言葉少なに振り返り、「相手は強かったです。ペア碁の経験がなかったので、思うようにいきませんでした」と無念そうにしていた。
 中華台北ペアの陳九段は「序盤苦しかったのですが、相手のミスがあり逆転できました。運がよかった」、黒七段も「挽回できてよかった」と苦戦を振り返った。明日に向けて、陳九段は「ここまできたので、のぼりつめたい。パートナーはよいので、鍵は自分だと思っています。自分のミスを少なくしたい」と語り、黒七段は「プレッシャーはありますが、それを楽しみ、エネルギーに変えて挑みたい」と抱負を語った。

 中国の柯潔九段は、涼しい表情で「全体的には順調です」とのコメント。「2局目は、序盤で自分がうまく打てなかったが、中盤から相手のミスが出て救われました。明日も一生懸命打つだけです」。ペア碁は初めて打つという柯潔九段、「普段はプレッシャーが多い。ペア碁はプレッシャーが半分になり気楽。いい調整になります」
 これを聞いていた於五段は「私はものすごくプレッシャー」と思わず口にした。「今までペア碁は何局も打っていますが、一番プレッシャーを感じています。負けると、パートナーに怒られそうでこわいから」。これを聞いた柯潔九段が少し慌てた様子だったのが、なんとも可愛らしい光景だった。

 中国最強ペアに敗れた田有珍・宋弘錫ペア(韓国)は、しばらくしょんぼりしていたが、大盤解説を終えた趙治勲名誉名人が控室に入ってくるなり、嬉々として子供のようにはしゃぎ、交代で趙名誉名人とツーショットを記念撮影。宋さんは「もう一枚いいですか。今度は、僕の肩に腕を回す感じのポーズで」とおねだりしていた。

 熱い戦いは、明日の後半戦へ続く。

〈2日目〉10日(日)

 大会2日目の朝、選手控室は和やかに盛り上がっていた。1日目に敗れたペアたちも、この日はシャッフルして、親善ペア碁を打つことになっている。記念撮影やサインの交換をして、組み合わせの時間を待っていた。
 大盤解説を担当する小林光一名誉棋聖が到着すると、中国の伝説の棋士、聶衛平九段(中国囲棋協会 副主席)と再会を喜びあっていた。聶九段のご子息、孔令文七段が「光一先生は、昨日、マスターズカップで優勝されたんですよ」と伝えると、「おお! おめでとう!」と日本語でお祝い。
 とても微笑ましい光景を再現すると……
 小林「優勝は久しぶりなんですよ」
 聶「決勝のお相手は?」
 小林「淡路さん(淡路修三九段)でした。初めての60代の優勝らしいんですよ。まだ大丈夫だね」
 聶「うんうんうん!」
 小林「(優勝から)遠のいていたからね、獲れると思わなかったんだけど。勝つと嬉しいね」
 聶「お祝いしたいね」

 さて、各国の親睦が深まる中、準決勝に臨む4ペアの様子は……
 於之瑩五段・柯潔九段ペア(中国)は、昨日敗退した、王晨星五段・時越九段ペアとテーブルを囲み、笑顔で談笑。
 崔精六段・朴廷桓九段ペア(韓国)は、碁盤を挟み、想定される展開(?)を並べながら、和やかに作戦会議。
 呉侑珍二段・崔哲瀚九段ペア(韓国)は、スマホの画面を見入り、数字のゲームに没頭。脳トレだろうか?
 そして、黒嘉嘉七段・陳詩淵九段ペア(中華台北)は、対戦する呉・崔ペアの昨日の対局をパソコン画面で観戦。
 4者4様の過ごし方だ。

 1日目に日本ペアは3組とも敗れたものの、会場にはこの日も2000人近いファンが詰めかけた。
 そして、準決勝の4ペアが紹介されると、場内は大きな拍手に包まれた。
 選手たちは、決戦の対局場へ。
 この日も大勢のギャラリーに見守れる中、午前11時、準決勝2局がスタートした。

 時を同じくして、シャッフル親善ペア碁の組み合わせ抽選会が始まった。
 抽選会の進行役は、NHK・Eテレ「囲碁フォーカス」の番組司会でも知られる戸島花さんがつとめた。
 男性のプロが12ポイント、女性のプロが10ポイント、アマチュアは段位のポイント(六段なら6ポイント)として計算し、ハンディ戦となる。
 「僭越ながら、私が開始コールをさせていただきます。はじめてください」という戸島さんの声と共に、対局がスタートした。
 ヒカリエホールAは、昨日に引き続き、中央に「"パンダ先生"体験コーナー」があり、その隣のスペースで世界強豪12ペアたちによるシャッフル親善ペア碁の対局、そして、親善対局と準決勝戦を並行して解説する「大盤解説コーナー」、準決勝を一局ずつ解説する「大盤解説会」が同時にスタート、という1日目にも増してゴージャスな空間に。ファンは、どこに足を運べばよいかわからないほどだ。

本戦・準決勝

 「大盤解説コーナー」は、二十四世本因坊秀芳と、万波奈穂三段が担当した。
 「大盤解説会」は、小林光一名誉棋聖と小川誠子六段がスタートし、途中から趙治勲名誉名人と吉田美香八段が加わり4名での解説。名解説はもちろん、会話の面白さも加わってファンを大いに楽しませた。
 さて、準決勝2局の局面は……
 呉侑珍二段・崔哲瀚九段ペア(韓国)と黒嘉嘉七段・陳詩淵九段ペア(中華台北)は、白番の韓国ペアが優勢を築いたようだ。「白の剛力に、黒がタジタジになっている感じだね」と趙名誉名人。
 しかし、白が攻めの手を緩めた。「この手では、こちらに打って、もう少し黒をいじめたかったね」と小林名誉棋聖が指摘。そのあたりから、黒が反撃ののろしをあげ、じわじわと追い上げてゆく。
 流れを掴んだ黒が見事に逆転を果たし、中華台北ペアが黒番4目半勝ちを収めた。

 陳九段は「最初から悪く、苦しい形勢が続いたのですが、相手が優勢を意識してわかりやすく進めようとしたので、最後は幸運でした」、黒七段も「ヨセまでいくとは思わなかった」と苦戦を振り返った。

その他の準決勝戦の写真を見るにはこちら

 準決勝のもう一局は、中国・韓国の最強ペアの決戦。この対局を観戦しようと、会場には棋士が何人も集まっていた。
  "パンダ先生"対局コーナーには、子供たちに混ざって一人大人が熱心に詰碁を解いている…と思い近寄ってみると、高尾紳路九段だった。また、「大盤解説会」を聞きながらも、会場側面の大型モニター画面に映し出された対局映像に見入っていたのは石倉昇九段。「今、まさに勝負所なんだよ。黒の韓国ペアが優勢で、このままでは白が負け。だからなんとかしないといけない。難しい場面で、於之瑩さんが時間つなぎを打って柯潔さんに手番を渡したんだ、巧いね。それで柯潔さんが考慮時間を使っているでしょ。……あ、今打ったよ。あそこに打つのか! 勝負手だね!」と興奮気味に一気に解説してくれた。
 序盤は、韓国の崔精六段・朴廷桓九段ペアが優位に立ったが、その後、形勢不明の混戦となり、終盤に韓国ペアにミスが出て中国ペアが抜き去ったようだ。結果は、於之瑩五段・柯潔九段ペアの白番1目半勝ちとなった。

 敗れた韓国ペアは、控室に戻るとすぐに碁盤に向かい、淡々と検討を始めたが、崔六段は、ショックの色を隠せない様子だった。
決勝に駒を進めた柯潔九段は、「嬉しく思っています。決勝戦は、内容のいい碁を打てるようにがんばりたい」と内容的には不満だったのか、短いコメント。
 於之瑩五段は「布石はあまりよく打てなくて…後半は、早碁ですし、ペア碁ですし、相手に決定的なミスがあり最後は逆転できました」と、韓国ペアを気づかいながら振り返った。

 決勝のカードは、
 於之瑩五段・柯潔九段ペア(中国)と、黒嘉嘉七段・陳詩淵九段(中華台北)となった。
 陳九段は「初めて参加して、ミスもありましたが、ここまで来ることができて嬉しい。泣いても笑ってもあと一局。よい碁を打ち、勝ちを目指したい。嘉嘉さんはペア碁の経験も豊富です。うまくリードしてもらいながらがんばります」。黒七段は「決勝に残れて嬉しいです。全力で打つだけ。パートナーを信じて打ちます」。それぞれ笑顔で決勝戦の抱負を語ってくれた。

 かたい表情だった中国ペアだったが、昼休みに、万波奈穂三段と戸島花さんが「ファンです! 一緒に写真を撮っていただけますか?」と声をかけると、柯潔九段は快く応じ、「お二人とも美女なので、よく覚えています」とリラックスした様子に。「プレッシャーが大きい」と緊張気味だった於之瑩五段も、「プレッシャーをよい緊張に変えてがんばってください」と声をかけると、まだあどけない笑顔が戻り、うなずいてくれた。

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