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世界ペア碁最強位戦 2017 本戦」レポート

いよいよ始まる世界ペア碁最強位戦 2017 本戦

世界のトッププロによる「ペア碁」の夢の祭典――「世界ペア碁最強位戦 2017」が開幕した。
昨年開催された「ペア碁ワールドカップ 2016 東京」は、日本の謝依旻女流四冠(当時)・井山裕太七冠(当時)ペアをはじめ、世界12カ国・地域からそれぞれ最強ペアが参戦し、夢のような光景と超ハイレベルな熱い戦いに、会場に集まった3000人以上のファンが酔いしれた。
この「夢」を、次回の四年後の「ワールドカップ」に向けて、さらに盛り上げていこうと企画された今大会。日本、韓国、中華台北からの最強4ペアが「本戦」を戦い、本戦優勝ペアは、世界ペア碁最強位保持ペア、中国の於之瑩五段・柯潔九段ペアと「世界ペア碁最強位」をかけて決定戦を行うシナリオとなっている。
まずは、8月12日(土)と13日(日)の両日、渋谷・セルリアンタワー東急ホテルで行われた「世界ペア碁最強位戦 2017 本戦」の模様をお伝えしていこう。

世界ペア碁最強位戦 2017 本戦」組み合わせ抽選会

滝 常務理事から各出場ペアに花束が贈られた

大会前日の11日(金)には、組み合わせ抽選会と前夜祭が行われた。
抽選会会場に早くから姿を見せたのは、韓国の崔精七段。女流棋戦での優勝はもちろん、一般棋戦の世界戦でも本戦に勝ち上がる実力者だ。藤沢里菜三段が「崔さんの、男性棋士にも負けないという心構えを見習いたい」と話すように、精神力も超一流。「昨日(10日)、日本に到着してゆっくり休みましたので、体調は万全です。優勝して、中国ペアにリベンジしたいです」と、思いは早くも10月の「決定戦」に向かっていた。

17時。関係者と報道陣の拍手に迎えられて、出場選手たちが入場。1ペアずつ壇上で紹介され、公益財団法人日本ペア碁協会常務理事、世界ペア碁協会副会長の滝裕子から花束が贈られた。

崔精七段・朴廷桓九段ペア(韓国)。
文字通り、韓国「最強」ペア。昨年の「ペア碁ワールドカップ 2016 東京」では、準決勝戦で中国の於之瑩五段・柯潔九段ペアに惜敗し三位という結果だった。

黒嘉嘉七段・陳詩淵九段ペア(中華台北)
昨年の「ペア碁ワールドカップ 2016 東京」準優勝ペア。お二人とも好きな棋士は「林海峰先生です!」と声をそろえる。

謝依旻六段・井山裕太九段ペア(日本)
昨年の「ペア碁ワールドカップ 2016 東京」では、二回戦で崔・朴ペアと激突。「交通事故にあったような負け方」(吉田美香八段曰く)を喫し、今年はリベンジを期している。

藤沢里菜三段・羽根直樹九段ペア(日本)
今年、国内の「プロ棋士ペア碁選手権2017」で優勝したばかり。息はピッタリ合っている。

以上の4ペアが本戦に出場。改めて会場からは温かい拍手が贈られた。

続いて、主催者を代表して、滝裕子日本ペア碁協会常務理事があいさつに立った。
滝裕子常務理事「今日は日本では祭日。ご家族とのご予定もありましたでしょうに、こんなに大勢ご参集いただきありがとうございます。私どもがペア碁の普及をはじめまして、今年で28年になります。囲碁の普及のお役に立ちたいという気持ちでずっとやってまいりました。
そして、昨年、「ペア碁ワールドカップ2016東京」という、世界のトップ棋士の皆さまに集まっていただきました大会が大変好評で、大成功に終わりまして、それをなんとか、2020年、日本が開催する東京オリンピックにつなげようと、いろいろ考えました。「世界ペア碁最強位戦2017」というプランを立てまして、皆様にご案内申し上げましたところ、このように盛大に役員の皆さまはじめ、選手の皆さまがお集まりくださいまして、本当に光栄なことでございます。ぜひ、この盛り上がりを2020年まで続けて、ペア碁を通しての囲碁普及に力を入れてまいりたいと思います。本当にとても忙しい皆様のスケジュールを縫って、このような会ができましたことを感謝いたします。本当に、選手の皆様ありがとうございます。
世界中からいらしてくださった役員の皆様、スポンサーの皆様、この大会を支えてくださいます皆様、日本棋院様、関西棋院様をはじめ、世界各地の囲碁関係者の皆様の大応援団を支えにしながら、ぜひこの二日間、楽しい会にそして意義ある会に、ペア碁の歴史に残るような会にしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。」

続いて今大会の審判が紹介された。
審判長は、大竹英雄名誉碁聖。
副審判長は、小川誠子六段と、吉田美香八段。お二方は、大盤解説の聞き手も担当する。
そして、審判に、金秀俊八段と林漢傑七段。金八段は韓国ペア、林七段は中華台北ペアとの通訳もこなしてくださるので、大変心強い。

そして、いよいよ、注目の組み合わせ抽選会へと移った。

陶器の深めのお皿に、黒いボールが四つ入っている。各ペアから女性棋士が代表してお皿の回りを囲んだ。そして、「一斉にボールをお取りください!」とコールがかかった。
ところが、四名は、なんとなく遠慮してなかなか手を出さず。ようやく崔七段が一人手を出して三人を待ったのだが、待ちくたびれて手を引っ込めて、会場からは笑いが起こった。そこで改めて呼吸を合わせ、四名が黒いボールをそれぞれ取り上げた。ボールを割ると、中には紙が入っている。
「A-1」を引いたのは崔・朴ペア。
「A-2」を引いたのは黒・陳ペア。
「B-1」を引いたのは藤沢・羽根ペア。
そして、なかなかボールを割れずに苦労していた謝六段が、藤沢三段に手伝ってもらいながら、最後に「B-2」と書かれた紙を取りだした。
思わず、顔を見合わせる謝六段と藤沢三段。二人は「まさか、日本ペアと当たるとは」「日本同士は一回戦では当たらないのかと思ってました」と声をあげていた。

改めて、1回戦の組み合わせをご覧いただこう。

崔精七段・朴廷桓九段ペア(韓国)VS 黒嘉嘉七段・陳詩淵九段ペア(中華台北)
謝依旻六段・井山裕太九段ペア(日本)VS 藤沢里菜三段・羽根直樹九段ペア(日本)

少し緊張した面持ちとなった選手の皆さんから、明日への意気込みを話していただいた。
まず、崔七段が笑顔を交えながら……
崔精七段「このような素晴らしい、そして良い大会に招待していただきまして、本当に嬉しく思っております。ペア碁は、二人のハーモニーが重要なゲームで、二人一緒に良いハーモニーをつくることが大切だと思います。」
朴九段は穏やかな声でゆったりゆっくりと話された。
朴廷桓九段「まずは、このように素晴らしい、そして興味深い大会に参加することができ、非常に光栄です。明日の大会は、ペアの崔精さんと呼吸を合わせて、素晴らしい内容、そして楽しい内容の対局をすることによって、ファンの皆さまの声援に応えていきたいと思います。」

黒七段は、かわいらしい声で……
黒嘉嘉七段「今年も、昨年と同じようにパートナーの陳詩淵九段と一緒に出場できまして、非常に嬉しく思っています。昨年は二位でしたが、今年はさらによい成績を獲得できればと願っております。」
陳九段は大人しそうな優しい声で……
陳詩淵九段「このような大会に参加できますことを非常に嬉しく思っております。黒嘉嘉さんとペアを組むのは三回目で、ますます我々の呼吸は合ってきているような気がしています。昨年よりさらによい成績を出せたらと思っております。」

出場ペア勢ぞろい

そして、日本ペア。
謝依旻六段「今年もこの大会に参加できることを本当に嬉しく思います。主催者の皆さま、関係者の皆さまに、本当に感謝しております。今回も昨年に続き、日本最強の方と組ませていただけるということなので、足を引っ張らないように頑張りたいと思います。そして、いい碁を打てるように頑張ります。」
井山裕太九段「私も昨年に続きまして、このような素晴らしい大会、また、このような素晴らしいメンバーの中で戦えるということを非常に楽しみにしておりますし、光栄に思っております。ペア碁というのは本当に楽しいものだと思っていますけれども、昨年は謝さんと悔しい思いをしましたので、なんとか今年は二人で喜べるようなそういう大会にできればと思っています。精一杯がんばりますので、よろしくお願いいたします。」

藤沢里菜三段「このような素晴らしい大会を主催してくださいました皆さま、関係者の皆さま、本当に感謝いたします。私は今回が初出場なのですが、今年三月のペア戦では羽根先生に本当にお世話になって優勝することができました。本当に心強いパートナーだと思うので、明日は自分なりに精一杯足を引っ張らないようにして、また、パンダ先生チャレンジマッチも、楽しんでいけたらなと思います。」
羽根直樹九段「まずは、このような素敵な大会に、今回出場できることをとても嬉しく思っております。この中で、明らかに世代が私だけ違いますね(会場、笑)。あの……今若い世代がとても強いですが、ペア碁は個々の力だけではないというところを、今回見せていけたらいいなと、奥の深さのようなものをお伝えしたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。」(会場、大きな拍手)

続いて、質疑応答の時間。報道陣からの一つ目の質問は、「自分たちペアのここが強い、こういうところを見てほしい、というところを教えてください」
韓国ペアは、崔七段にマイクを譲られた朴九段が苦笑しながら「うーん…うーん…」。会場からは温かい笑いが起こった。少し考えた後の朴九段は、とても正直に語り始めた。「私たちのチームの強みですが……このように言うと生意気だなと思われるかもしれませんが、実戦的な部分ではないかなと考えております。彼女とはあまりペアを組んだことはありませんけれども、その部分を実力で補いたいと思います」

朴九段のコメントに触発されたように、残り3ペアも、「強み」をアピールするコメントだった。

黒嘉嘉七段「私と陳さんは3回ほど大会に出場したことがあります。また、何回も練習したことがありますので、呼吸は非常に合っていると思います。」

井山「謝さんとは昨年も組ませていただきましたけれども、それ以前にも何度かイベントを含めて組ませていただいたことがあります。そこは強みと言いたいところです。私は実力にはあまり自信がないので、朴九段のようには言えないのですが、謝さんとは生まれた年も同じですし、呼吸を合わせて精一杯やりたいと思います。」

羽根直樹九段「今年の大会で我々は優勝できましたので、きっと息は合うと思います。藤沢さんに自由に打ってもらって、横で感心して見ている。という感じで息を合わせていきたいと思っております。そうですね、大丈夫です。きっといい碁を打てるんじゃないかと思っています。」

もう一つの質問は「明日対戦する相手ペアをどう思われていますか?」というもの。

崔精七段「中華台北ペアは、呼吸の合うペアではないのかなと考えております。実力ももちろんなのですが、とにかく黒嘉嘉選手は非常に美しい方です。なので、私のパートナーの朴選手が、前を見ずに、碁盤に集中すれば勝機はあるのではないかなと思っております。」
このコメントに、朴九段は、笑いをこらえるのに必死な様子。井山九段も大笑いしていた。

陳詩淵九段「韓国トップの選手で、実力が高い選手です。我々は、実力はちょっと劣りますが、でも呼吸は合っていますので、がんばりたいと思います。」

謝依旻六段「今年の国内優勝ペアですので、非常に強いペアだと思っております。そして個人的には最近は藤沢さんに全く勝てないのですが、私のパートナーは日本最強ですので、きっとペア碁ではチャンスはあると思います。(そして、井山九段の方を向き)よろしくお願いします。」(会場、笑)

藤沢里菜三段「本当にとても最強だと思っていて、何回も組まれているということで、とても息が合っていると思うのですが、羽根先生もとても優しくて心強いので、なんとか力を合わせて精一杯がんばりたいと思います。」

会場からは、改めて出場棋士たちに温かく盛大な拍手が送られ、一同による笑顔の記念撮影の後、組み合わせ抽選会が終了した。

「世界ペア碁最強位戦 2017 本戦」前夜祭

セルリアンタワー東急ホテル内の前夜祭会場

その後に開催された前夜祭の様子も駆け足でお伝えしよう。
オープニングには、主催者から選手たちへのサプライズプレゼントがあった。
ヴァイオリニストで東京藝術大学学長の澤和樹氏から「今夜はリラックスしていただき、また、明日、力強く対局していただくために、今日の四曲を選びました」という心温まるメッセージとともに、四曲の素晴らしい演奏が披露された。
ここまで、日本語、韓国語、中国語の三カ国語に通訳されながら進んできたが、音楽は、囲碁と同じで言葉の壁がない。出場棋士たちも、皆一心に美しく豊かな音色に耳を傾け、ステージに見入っていた。

贅沢な時間を経て、世界ペア碁協会会長の松浦晃一郎が登壇した。
松浦晃一郎会長「皆さん、こんばんは。素晴らしい演奏に、お礼を申し上げます。
最初に、日本、韓国、中華台北の選手団の皆さん、おいでいただいてありがとうございます。おおいに熱戦を期待しております。日本、韓国、中華台北のそれぞれの棋院の全面的な協力を得て、今回こうして「世界ペア碁最強位戦2017」を開くことができましたことを大変嬉しく思っております。また、非常に多くの企業、団体からご協力いただいております。大変ありがとうございます。 ペア碁が、伝統的な囲碁と並んで、世界に広まり非常に嬉しく思っております。国際囲碁連盟とほぼ同じ数のメンバーが世界ペア碁協会のメンバーになっております。まだまだ両方とも増えてほしい。
ペア碁は滝久雄氏の創案で始まりましたが、私がぜひ強調したいのは、始めたのは滝久雄さんですけれども、国際的な普及に非常に努力されたのは奥様の滝裕子さんです(会場、拍手)。改めて、お礼を申し上げたいと思います。本日は、世界の理事の方もいらしていただき嬉しい限りです。明日からの熱戦と、大盤解説を楽しみにしております。」

続いて、上條清文大会実行委員長が挨拶した。

上條清文実行委員長「この「世界ペア碁最強位戦2017」の本戦がこのように盛大に開催されますこと、皆様とともに喜びを分かち合いたいと思います。開催にあたりましてご準備を重ねてきた皆様に心より厚くお礼申し上げます。お忙しい中、本戦を戦われる棋士の皆様、ご来賓としてご列席いただいております宮田亮平様、また、ただいまは、澤学長より素晴らしい演奏を聞かしていただきました。この大会の前夜祭に花を添えていただいたことに重ねて厚くお礼申し上げる次第でございます。
昨年に続きまして渋谷の地で開催されることになりました。私の出身であります、東急グループの本拠地でもございますので、大変光栄に存じておるところでございます。今、渋谷のこの町は百年に一度とも言われる大再開発をしておるところでございまして、2020年のオリンピックまでにはこれが完成し、街は整備されますが、これを契機にこの渋谷の街が、伝統、芸術、文化、ファッションを世界に発信する街として、また、エンターテイメントシティとして、世界一訪れたい街となるよう力を入れて取り組んでおります。この「世界ペア碁最強位戦2017」が、エンターテイメントシティとして情報を発信する上にさらに錦上花を添えるイベントとなることを確信しているところでございます。
明日から開催され、決勝戦は文化の伝統であります能楽堂で対局いただきます。囲碁の対局をするのは初めてでございます。決勝戦を能楽堂で戦っていただけますように、心からご健闘をお祈りしておるところでございます。」

日本選手団の皆さん

続いて、祝電が披露され、ご来賓の方々、協賛会社の方々、海外役員の方々がそれぞれ紹介された。そして、ご来賓の中から、ご公務お忙しい中かけつけてくださった宮田亮平文化庁長官がご登壇された。

宮田亮平文化庁長官「皆様こんばんは。
さきほど、四曲の演奏を聞きながら、ふと思ったことがあります。それは、1つの大きなセッションを仕上げるとき、素晴らしい構築力を持ったときに感動が生まれる。これはペア碁につながるのではないか、ということです。私は、囲碁を知らないのですが、相手を慮ることで連携ができ、それぞれの持ち味が発揮される。それが、ペア碁の素晴らしさなのかなと思います。
今は、囲碁をやってみたいと胸騒ぎしております。オリパラの間の20日に文化を。このすきまはいけるな、という感じがあり、やりたいなという気分になりました。多くの日本初、そして、世界の人たちが共有できる文化というものを創っていけるというところが、やはり、滝さんの発想の大きさであり、今日お集まりの皆さま方の素晴らしいこの出会いであるのかなという気がいたしました。
明日からの本戦、素晴らしい戦いになりますことを期待しております。」

そして、関西棋院理事長、正岡徹氏より乾杯のご発声。
正岡徹関西棋院理事長「前理事長の中川さんから「人生の最後の10年、15年をこれだけ幸せにしてくれる遊びはないよ。皆さんにぜひともこれを広めてほしい」と言われました。私も医者でございますので、人生の最後ということには非常に関係がございますので、理事長をお受けしたわけでございます。、明日から、最高峰の方たちが対局されるペア碁を見せていただけるのを期待しております。楽しみたいと思います。明日からの皆さんの決戦、それから楽しい観戦を祈って乾杯したいと思います。
明日からの決戦の素晴らしいゲームを祈って、また会場の皆さんの健康を祈り、ご尽力をされましたスタッフの皆さんにお礼を申し上げて……乾杯!」

その後は、夕食をとりながらの和やかな歓談タイムとなった。

「日本の皆さまには、大事な祭日の晩餐を私どもと一緒に過ごしていただきまして、本当にありがとうございます。そして海外からいらしてくださった役員の皆さま、選手の皆さま、楽しく過ごさせていただきました。元気なうちはペア碁を通じて囲碁を、世界中に、女性の皆さんに、もっともっと普及していきたい。国際親善、文化を通じて皆さんと仲良くなるように努力をしていきたいと思いますので、どうぞスポンサーの皆さまがた、これからもよろしくお願いいたします。明日、明後日と、選手の皆さま、どうぞ力一杯、日頃の鍛錬をぜひ発揮していただいて、思いやり、慮りでゲームを楽しんでくださいませ。ありがとうございました」
滝裕子の中締めのあいさつがあり、前夜祭が終了した。

明日、明後日、はたしてどんなドラマが待っているのだろうか。

主催

日本ペア碁協会 / 世界ペア碁協会 / 世界ペア碁最強位戦 2017 大会実行委員会