「プロ棋士ペア碁選手権2012」が、1月21日(土)に東京の日本棋院東京本院で開幕した。男女16名ずつがペアになって、トーナメントで日本一を争う。ペア碁は二人の実力はもちろん、互いの相性も大切で、どれだけ呼吸を合わせられるかが、勝敗に直結する。それだけに、実力者同士がペアになったからといって、必ずしも有利とは限らない。どのペアが活躍するか、自分なりに予想しながら楽しめる大会である。
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1回戦から準決勝まで、一気に3局打つスケジュールである。華やかなムードでスタートしたが、最後まで二人の集中力が続くかどうか、体力も必要な一日となった。
実力ナンバーワンと思われるのは、昨年度優勝の謝依旻女流三冠・王銘エン九段ペアである。ディフェンディングチャンピオンとして再度ペアを組んで、もちろん連覇を狙っている。また、向井千瑛四段・高尾紳路九段ペアは国際戦の代表ペアとして戦った経験があり、対抗ペアとして注目された。
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< 開会式 >
< 対局開始 >
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< 1回戦 >
〈【白】謝依旻女流三冠・王銘エン九段ペア 対 万波佳奈四段・坂井秀至八段ペア【黒】〉
開始前に、王(銘)九段が手番を間違えたときを心配していた。コミ三目のペナルティがあるのだが、真面目な坂井八段が、ルールブックを持参していて、正確に答えていたのが印象的だった。
坂井八段「間違えたことはあるんですか」
王(銘)九段「うーん、三目取られたことはないかな。坂井さんは、ふだんペア碁を打つことあるんですか」
坂井八段「この大会だけなので、5回目だと思います」
などと話してるうちに、大竹審判長の合図で対局開始となった。すぐあちこちで、「10秒、20秒…」と秒読みの声が響き始めた。一気に緊張感が増してくる。
同時進行で大盤解説が始まり、まずこの碁から紹介していた。序盤のやりとりで、謝依旻女流三冠が新手を繰り出して成功、有利な形になった。「これは研究済みですね」と石田九段が感心していたが、「謝さんペアの勝ちですね」と即断して、会場を沸かしていた。
実際は、中盤で万波(佳)・坂井ペアが攻勢に立って分からなくなったが、謝・王(銘)ペアが猛烈に反発して、大乱闘の末に得意の豪腕でねじ伏せてしまった。やっぱり、この二人が本命である。
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〈【白】矢代久美子五段・小林光一九段 対 佃亜紀子五段・山下道吾名人・本因坊【黒】〉
この組み合わせを見ただけで、石田九段が勝敗を予想していた。
「矢代・小林ペアに〇印を付けました」と言い切っていたのは、大胆な発言で解説会を盛り上げようとしたもの。ただ、その根拠も秀逸だった。
「山下さんの碁は難しいですから、相手がついて行くのは大変です。それに対して、光一さんは分かりやすい。常識的な進行を好みますから、相手も合わせやすい。山下さんは、分かりやすい手と、先行き不透明な手との選択肢があれば、難しい方を選ぶんです」というので、初めは笑っていた会場のファンも、なんとなく納得顔になる。
結局、予想通り矢代・小林ペアが勝ち上がったが、偶然当たったわけではないような気がしてくる。
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〈【黒】井澤秋乃四段・王立誠九段 対 知念かおり四段・井山裕太天元・十段【白】〉
中盤の競り合いの最中に、井澤・王(立)ペアがソッポを打って苦しくなった。石田九段はその手を見た途端、「信じられない」と声を上げた。しかし、乱戦で逆転、井澤・王(立)ペアが腕力のあるところを見せて1回戦を突破した。これで勢いに乗りそうである。
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〈【白】鈴木歩六段・山城宏九段 対 大澤奈留美四段・溝上知親八段【黒】〉
鈴木六段は昨年、結城九段と組んで準優勝している。一般棋戦でも活躍しているが、ペア碁も得意なようだ。今回は山城宏九段とのペアでリベンジを狙っている。大沢・溝上ペアを堂々と押し切って、2回戦に進出した。
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〈【黒】小山栄美六段・二十五世本因坊治勲(趙治勲九段) 対 小川誠子六段・小県真樹九段【白】〉
中盤で、突然事件が起こって、真ん中の大石同士の攻め合いになった。小山・趙ペアが攻め合いを制して、一気に決着をつけた。敗れた小川・小県ペアも納得するしかない。勝った勢いで、「優勝候補だよ」と趙九段がニヤッとしていた。
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〈【黒】吉原由香里五段・結城聡九段 対 万波奈穂二段・山田規三生九段【白】〉
勝った方の吉原五段から反省の弁ばかり出てくる。どうやら危ない手を打って、ツブレもあったらしい。結城九段がパートナーを気遣って、「はっきり悪いときはなかったですよ」とフォローしていたが、このあたりがペア碁で好成績を残している所以かもしれない。
負けた方の山田九段は、「負けたけど、楽しくやれたのでよかった」と明るかった。昨年は姉の万波佳奈四段と組んでいて、今年は妹の方だ。ファンもうらやむ抽選の妙で、楽しかったのは当然かも。万波(奈)二段は残念そうだったが、ペア碁は実力だけじゃないので、勝ち負けは時の運とも言える。来年また頑張ってもらいたい。
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〈【黒】向井千瑛四段・高尾紳路九段 対 吉田美香八段・瀬戸大樹七段【白】〉
向井・高尾ペアは、経験豊富で前評判が高かった。ペア碁を打つ機会は少ないだけに、呼吸の合ったペアに対抗するのは大変である。吉田・瀬戸ペアは強豪を相手に実力を出し切れなかったようだ。この大会はよく関西勢が活躍するが、惜しくも1回戦敗退となった。
その関西勢の活躍について、解説会で青葉かおり四段が話していた。「関西の男性棋士は、女性が変な手を打っても、ニコニコして大丈夫な振りをするんだそうです」それで女性も安心して打てるのだというのである。石田九段が、黙って拝聴しているだけだったのが面白い。なにしろ、石田九段がペア碁を打つと、感情を顔に出してボヤキが厳しいと有名なのだ。
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〈【黒】榊原史子六段・羽根直樹碁聖 対 青木喜久代八段・張栩棋聖・王座【白】〉
この組み合わせも、石田九段が対局前に勝敗を予想していた。「青木・張ペアに〇印です。青木さんは好調で、十何連勝もしました。女流棋聖の挑戦も決めています」とその根拠を示していた。
序盤の解説で、「この手は相手が迷う」と言ってから、「自分も迷うんじゃないか」と妙な言い回しをしたものだから、聞き手の青葉四段に、「石田先生の話は、分かったような分からないような(笑)」と突っ込まれていた。(青葉さんもやるなあ)という顔をして、石田九段の話がちょっと止まった。前回まで聞き手だった小川六段には、同じ木谷門下ということもあって、ときどき鋭い突っ込みにやられていたが、コンビが変わってもやっぱり女性は手強い。
碁は中盤で、青木・張ペアの石が千切れてしまった。最後まで最善を尽くそうと踏ん張ったが、榊原・羽根ペアに押し切られて、石田九段の予想がすっかり外れてしまった。
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