2015年2月14日(土) 開幕~1回戦
開幕
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一年で一番華やかなプロの祭典、今年で21回目の大会となった「プロ棋士ペア碁選手権2015」が、2月14日(土)に東京・市ヶ谷の日本棋院本院で開幕した。ベテラン勢から初参加の棋士まで、トッププロ男女16名ずつが勢ぞろいて、一回戦から準決勝まで三局が一気に行われた。
今年も大勢のファンが集まり、対局の様子を直接見守ったり、大盤解説会を楽しんだり、楽しい一日を過ごした。注目はなんといってもディフェンディングチャンピオンの矢代久美子六段・井山裕太棋聖のペアだ。昨年は、日本最強の井山棋聖はペアでも強いと話題になったが、そんな井山棋聖の厳しい碁についていって、しっかり勝ち切った矢代六段の適応力も好評だった。対抗するのは、一昨年まで三連覇した謝依旻女流名人が河野臨九段と組んだペアだ。呼吸が合えば、破壊力は抜群である。ほかにも有力ペアが揃って、ファンは勝敗予想をしながらひいきの棋士を応援して楽しみは尽きない。
開会式
出場棋士32名と見守るファンを前に、滝裕子日本ペア碁協会常務理事があいさつ、「実力と人気を兼ね備えたトップ棋士に勢ぞろいしていただいて感激です。ペア碁は世界に広がりました。ますます盛んになるように、精一杯がんばります」と抱負を述べた。
審判長は大竹英雄名誉碁聖は、「ペア碁は相手を尊重しながら打つことが大切です。トッププロがどんなふうに戦うか、間近にご覧になって楽しい一日をお過ごしください」とにこやかにあいさつ。
対局開始
1回戦の組み合わせどおりに、対局の二組ずつ紹介されて、棋士たちが所定の席に着く。すでにファンが取り囲んでいる。ルール説明がていねいに行われて、「一手30秒、一分の考慮時間が10回」と確認する。対局者たちは自分のペアはもちろんだが、相手のペアともルールを確認して、対局前はいつも和やかである。
対局開始とともに真剣な表情に変わって、「10秒…20秒…」とあちこちで秒を読む声がする。一気に空気が張り詰めて行く。ファンも無言で見守っている。
モニター
8局の対局にはそれぞれ専用のモニターがあって、碁盤が直接見えにくい位置からでも進行が確かめられる。人気の対戦は凄い人だかりだから、モニターの存在価値は大きい。
解説会
解説は二十四世本因坊秀芳(石田芳夫九段)と小川誠子六段。石田九段は組み合わせが決まると、勝敗予想をするのを楽しみにしている。今年の注目は、藤沢里菜女流本因坊 会津中央病院杯と一力遼七段の十代ペアだという。昨年優勝の矢代六段・井山棋聖 名人 本因坊 碁聖ペアが有望なのは当然だが、初出場の秋山次郎九段も気になるようで、「緊張してなければ、ペアを組む鈴木歩六段は慣れているからうまくいくかもしれない」と予想していた。「毎年予想どおりにはならないので、どうなるかわかりませんよ」と笑いを誘っていた。
石田九段はサービス精神旺盛で、いい手は誉めるが、悪い手は厳しく指摘する。それが面白くて受けるのだが、あまり言い過ぎないように抑えるのが、聞き手の小川誠子六段の役どころになっている。たまには石田九段に逆襲して会場が盛り上がる。
1回戦
矢代久美子六段・井山裕太棋聖 名人 本因坊 碁聖ペアvs小山栄美六段・羽根直樹九段
一対一の対局のように四人の呼吸が合って、序盤からきれいなフリカワリが起こった。昨年優勝の矢代・井山ペアが好調と思われたが、小山・羽根ペアがしぶとく耐えて逆転、主役が入れ替わった一番である。矢代・井山ペアが1回戦で消えたのは予想外だったが、替わって勝ち上がった小山・羽根ペアが大活躍するきっかけになった。
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向井千瑛五段・高尾紳路天元 十段ペアvs藤沢里菜女流本因坊 会津中央病院杯・一力遼七段ペア
昨年の女流本因坊戦では、藤沢二段が挑戦して向井五段からタイトルを奪っている。向井五段も高尾天元 十段もペア戦は得意で、成績もいい。舞台は違うが、向井五段にとってはリベンジを果たしたいところである。藤沢・一力ペアはともに初出場。序盤から力を出して押しまくったが、試合巧者の先輩たちにかわされて、いつのまにか逆転を許した。向井・高尾ペアの貫禄の勝利である。
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奥田あや三段・張栩九段ペアvs加藤啓子六段・村川大介王座ペア
348手の大熱戦だった。他の対局が終わっても、延々と打ち続けた。あちこちでコウが出来て、取り合った石が碁笥のふたから溢れた。最後に作ってみると、盤面が全部埋まって、さらに碁笥の石が余ってしまった。しかも白番の加藤・村川ペアが1目半勝ちという僅差である。取り囲んでいたファンたちは、熱戦を拍手で称えた。
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謝依旻女流名人 女流棋聖・河野臨九段ペアvs青木喜久代八段・小林覚九段ペア
前々回ペアを組んで優勝した謝女流名人 女流棋聖と小林覚九段が敵見方として対戦した。謝女流名人 女流棋聖は毎年優勝候補に上げられる。ペアを組んだ相手にとっては勝てる可能性が高いだけにプレッシャーもあるだろう。謝・河野ペアが厳しい手を連発、青木・小林ペアを押し切って2回戦に進出した。
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万波奈穂三段・依田紀基九段ペアvs桑原陽子六段・結城聡九段ペア
解説の石田九段は、万波・依田ペアを有望視していたが、桑原・結城ペアが強過ぎた。万波三段によると、事前に作戦を練ったそうだが、その甲斐もなく1回戦で姿を消した。結城はここ4年で3度準優勝しており、今回は優勝を狙っている。石田九段は、「結城さんの碁は難しいからペアの相手は大変ですが、いつも成績がいいんですよね」と不思議な様子だった。厳しい結城の碁が意外に女流と合うのだろうか。
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小西和子八段・溝上知親九段ペアvs吉田美香八段・山城宏九段ペア
吉田・山城ペアが圧倒的な強さを発揮、攻めながら地を稼ぐ理想的な展開で、小西・溝上ペアを追い込んだ。さすが百戦錬磨のベテラン同士のペアである。吉田八段は優勝経験もある。冷静な山城九段は無理をしないで、呼吸を合わせるのがうまい。勢いに乗れば有望と思われた。
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石井茜二段・山下敬吾九段ペアvs鈴木歩六段・秋山次郎九段ペア
石井・山下ペアはともに優勝経験のあるが、今回は流れをつかめず1回戦敗退となった。秋山九段は意外にも初出場だが、鈴木六段はペア戦でいつも活躍する頼りになる存在である。「手厚い棋風が似ていて打ちやすかった」と鈴木六段が言う通り、するすると勝ち上がって行った。「ぼくは鈴木さんに付いて行くだけです」と秋山九段は謙虚な態度を崩さなかった。
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王景怡二段・趙善津九段vs知念かおり四段・二十五世本因坊治勲
王・趙(善)ペアが相手の模様に深入りして苦戦、知念・二十五世本因坊治勲ペアが猛攻を掛けて大石を仕留めたと思われた瞬間、まさかの事件が起こった。あろうことか、二十五世本因坊治勲がとどめを刺し損なって自滅してしまったのである。王・趙(善)ペアはたなぼたの勝利で2回戦進出を果たした。
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