大会二日目は、本戦と、同時開催される「第5回世界学生ペア碁選手権」と「荒木杯ハンデ戦」もスタートします。会場は、早朝から賑やかな空気に包まれました。
まず、公益財団法人日本ペア碁協会筆頭副理事長の滝裕子よりあいさつがありました。 滝「おはようございます。朝から皆さんの早く対局をしたいというやる気がムンムンと伝わってまいりました。本日は、第29回国際アマチュア・ペア碁選手権大会と第5回世界学生ペア碁選手権、荒木ハンデ戦が開催されますので、総勢196ペアという多くの方々に参加していただいております。お洒落をしてこれだけ多くの方が一堂に参加するのは、この大会だけだと自負しております。世界的なデザイナーのコシノジュンコ先生がベストドレッサーの審査委員長をしてくださるという贅沢な企画も、この大会ならではだと思います。この大会は、1990年から毎年開催しております。近年は、世界のトッププロ棋士がペアで出場する国際大会も開催しております。2018年も、『世界ペア碁最強位戦2018』が8月に渋谷で開催され、日本、中国、韓国、中華台北の囲碁界を代表するトッププロ棋士ペアが集結しました。熱戦の結果、韓国の崔精九段・朴廷桓九段ペアが中国の於之瑩六段・柯傑九段ペアから『世界ペア碁最強位』のタイトルを奪取いたしました。2019年も、『世界ペア碁最強位戦』を開催する予定でございます。 そして、2020年はいよいよ、東京オリンピック・パラリンピックの年になります。トッププロ棋士だけでなく、アマチュアの皆さんも参加するイベントを開催したいと思っております。この国際アマチュア・ペア碁選手権大会は、毎年20か国・地域のアマチュア選手の皆さんが集結しますが、2020年にはもっと多くの国々の方に参加していただき、ペア碁を国際親善、国際平和の舞台となるような、楽しいペア碁大会を企画したいと思っておりますので、どうぞご期待なさってください。最後になりますが、このように華やかな大会を開催できますのも、JR東日本さまをはじめ、協賛各社さま、関係各位の皆さまのご協力のおかげだと心より感謝申し上げます。そして、選手の皆さまが真剣かつ楽しい一日を過ごされることを期待しております。ありがとうございました」
続いて、審判長の石田芳夫二十四世本因坊秀芳、小川誠子六段、そして審判のマイケル レドモンド九段が紹介され、審判団を代表して石田審判長より競技説明がありました。そして、「この大会が始まった29年前は私も40代だったのですが…」と会場の空気をほぐし、「本戦は昨日一回戦が打たれ、半数の方は負けたのですが、全勝が1チームですから、1敗でも二位になる可能性ありますので、がっかりしないように」と応援メッセージも贈られていました。
そして、選手宣誓。日本選手を代表して、倉科夏奈子・岡田健斗ペアが、海外選手を代表してキプロスのニカ レギノウ・デミトリス レギノスペアが大役を務めました。
キプロスからは、29年の歴史の中で2回目の出場。お二人は親子です。大学生のお嬢さんのニカさんは「親子で近い関係なので、悪い手を打って怒られないか、ビクビクしています」と笑顔で話してくださいました。お父さんのデミトリスさんの職業はミュージシャンです。普段は仲間と対局したり、インターネット対局をして腕を磨いているとのこと。「キプロスでは、まだまだ女性で囲碁を打つ人は少ないです。増えるように、これから普及していきたい」と話され、「ペア碁は、パートナーが考えていることを理解しなければなりませんので、教えるときのツールとして、とてもよいと思います。娘も、この大会の間にも強くなるのではないかと期待しています」と温かい目をお嬢さんに向けていました。
そして、恒例のベストドレッサー賞の審査委員長長を務められる、デザイナーのコシノジュンコ氏がご登壇されました。コシノ「昨夜は前夜祭がありました。私は囲碁に関しては詳しくないのですが、選手の皆さんが、それぞれの国の代表として、象徴である民族衣裳を着て、なんと華やかで、世界がここに一つに集まっていると感じました。ファッションは、言葉を越えた、言葉のいらないコミュニケーションです。和気あいあいとした素晴らしい会でした。私は最初は、囲碁は地味な大会だなと思っていたのですが、昨夜の光景を見て、益々素晴らしい、益々オリンピックにふさわしい会になるのではないかと確信をしました。」
コシノ氏は、一度、ご降壇されかかったのですが、またマイクの元に戻ってこられて、こんなお話もしてくださいました。「今年の春に園遊会に出させていただきまして、私の隣は井山裕太さんでした。秋篠宮さまから、子供のときに囲碁をやったことがあるとお声をかけられ、私もペア碁の話をして、大変盛り上がりました。嬉しいお話でした」
会場の雰囲気が和みかけましたが、再び石田審判長がご登壇されると、すぐにピンと張りつめた真剣モードに。そして、「それでは、対局を開始してください」とコール。いよいよ、熱戦の火ぶたが切って落とされました。
本戦は、前日の一回戦の勝者ペア同士、敗者ペア同士が組み合わされて、二回戦からスタートです。さっそく、優勝候補ペア同士が激突する注目の対戦が二局ありました。一局は中国ペアVS中華台北ペア。もう一局が、韓国ペアVS日本の小田彩子・永代和盛ペアです。過去に何度も準優勝している実力派の夫婦ペアで、「今年こそは」と意気込みを見せていました。永代さんは「五局目までいくと疲れも出るので、元気なうちに当たったほうがいいかもしれない」と気合いを入れて臨みました。
会場を見回る石田審判長は「永代さんのところはいい勝負。中国と中華台北戦もけっこういい勝負なんだよ」。実力伯仲の模様。その後、マイケル レドモンド審判は「小田・永代ペアが少し優勢に見えたんだけど、細かくなったかもしれない。何が起こるかわからない」とドキドキのコメント。結果は韓国の田有珍・許榮珞ペアの勝利となりました。
田さんは、違うパートナーと出場し、この大会での優勝経験があります。そのときはあまり笑顔を見せない印象でしたが、この日は勝った瞬間にパーっと笑顔になり声を出さんばかりの喜びよう。「序盤に私のミスがあり、流れが悪かったのですが、黒から見て右辺で、相手の攻めが十分ではなく盛り返しました。相手に時間があれば、危ないところでしたが、それを乗り越えて勝つことができました」という感想を聞き、喜んだのもうなずけました。男性の許さんは引き締まった表情を崩さずに「非常に苦労しました。相手が時間管理できていたら、もっと苦労したと思います」と謙虚な感想でした。
もう一つの注目局、中国VS中華台北戦は、中華台北ペアに軍配が上がりました。
そしてもう一局、日本の有望若手ペア同士、「関東・甲信越」の辻萌夏・星合真吾ペアと「東北・北陸」の倉科・岡田ペアの一戦は、倉科・岡田ペアが白星。倉科さんは「パートナーに助けられ、奇跡が起きました」と勝利を喜んでいました。
三回戦は、宇根川・瀧澤ペアが、勝負強さを見せ、中華台北ペアに逆転勝ちを収めました。宇根川さんは「なんだか戦いで、読み合いで、最後までよくわからず、ほとんどパートナーに任せていました」とホッとした様子。瀧澤さんは「全然ダメでした。相手がミスしてくれて」と負けたのかと思えるような厳しい表情で話してくれました。
二連勝の関本・内田ペアは、「三年連続で四回目のペアなのですが、内田さんがやさしくて、打ちやすいです」と笑顔の関本さん。これを受けて内田さんは「考えていることが同じなので」。関本さんが「次もポカに気をつけて」と話すと、内田さんは「いやいや、それがペア碁の醍醐味ですから」とペアの息はピッタリ合って信頼し合っているのが手にとるようにわかりました。が、三回戦は、若手強豪の倉科・岡田ペアに敗退。「負けました」「強かった」と、やはりピッタリ息を合わせて教えてくださいました。
ヨーロッパペア碁チャンピオンでもあるドイツのリサ エンテ・ベンジャミン トイバーペアと新井・多賀ペアの一戦も二連勝同士で注目されました。互いに持ち時間がわずかとなる熱戦でしたが、最後はヨセの決め手を放ち、新井・多賀ペアが勝利しました。ドイツペアはお二人ともソフトウェア開発者。エンテさんは「序盤は悪かったのですが、がんばって途中からいい勝負になり、逆転したかと思ったのですが、ミスが出てしまいました」と無念そうに話されていました。
さて、韓国の田・許ペアは、三回戦、四回戦と日本ペアを降し、優勝決定戦へと駒を進めました。四回戦で敗れた倉科さんは「難しい内容で、よくわからない世界でした」と印象を語り、「もっとボコボコにされるかと思ったので、がんばれたのかなと思います」とのこと。岡田さんも「思っていたより全然いい勝負ができました。でも、だんだんと、力の差がじわじわ出てきて」と振り返っていました。
もう一局の全勝対決は、昨年の優勝ペアと18年前の優勝―宇根川・瀧澤ペアと新井・多賀ペアが激突しました。結果は、宇根川・瀧澤ペアが勝利して、二年連続の決定戦進出を果たし、連覇への期待がふくらみました。
同時開催の「第5回世界学生ペア碁選手権」は、静かに真剣勝負が繰り広げられていました。今年は、世界11か国・地域から16組、32名が参加しました。
日本からは、アマチュア大会や学生大会で優勝した強豪ペア5組が参加。岩井温子・鈴木智大ペアは最年少の高校生ペアでした。岩井さんは京都出身、鈴木さんは神奈川出身。岩井さんは「打ったことはありますが、ペアを組むのは初めてです」、鈴木さんは「作戦も何も立てていません」と、やや緊張した表情。初戦はニュージーランドペアに快勝したものの、二回戦では韓国の趙殷振・申載焄ペアに惜敗。最終的には二勝二敗の結果でした。
知名度も高く期待の集まった藤原彩子・栗田佳樹ペアは、初戦で中国ペア、四回戦で中華台北に敗れて二勝二敗。栗田さんは「負けた碁もチャンスはあったのですが、押し切られました」とさばさばした表情で、「ペア碁の大会に出るのは初めてでした。意思疎通が難しいですね。でも、勝ったときは嬉しい」と顔をほころばせ、大会を振り返っていました。
日本勢で唯一、三勝をあげ、5位に入賞したのは、野村美奈・山田真生ペアでした。野村さんは「明らかに実力が足りないと感じました」と、敗れた韓国の趙・申ペアとの一戦を振り返り、「でも、四局全て、パートナーが支えてくれて嬉しかったです」。山田さんも敗勢を「最近の手を取り入れられて、完敗に近い内容でした」と脱帽した様子。「最近の手は、知らないと一気に形勢を損ねてしまうので、パートナーと共有しておけばよかったと反省しました。中国や韓国は、女性も男性と変わらないくらい強く、相当に追いつくのが大変だと感じました。次回は勉強して、しっかり準備したいと思います」と、刺激を受けた様子で、頼もしいコメントを残してくれました。
韓国の2組、趙・申ペアと李知垠・金桐漢ペアの4名は、明知大学の囲碁学科の学生で、国内で予選を勝ち上がってきたそうです。趙さんは「大学では心理学や教育学と囲碁を関連させて学んでいます」と教えてくれました。
三回戦で注目された、韓国の李・金ペアと中国の陳思・魏笑林ペアの一戦は韓国ペアの勝ち。金さんは「序盤は均衡を保っていましたが、中盤で白から見た下辺で相手にミスがありました。大きなミスだったので楽になり、リードを保てました」とのこと。三連勝の李さんは「前回出場したときはあまり勝てなかったのですが、今年はパートナーのおかげでいい成績。決勝もこの調子でがんばりたいです」。金さんは「今回の大会は、私たちはくじ運が悪く、相手のペアが皆さん強かった。ここまで勝てて嬉しいです」とコメント。そして、もう一組の全勝も、やはり韓国の趙・申ペアで、申さんも「苦しい碁が多く、私たちはくじ運が悪かったのだと思います」とのこと。「でも、結果が良かったので、よしとします」と笑顔でした。
圧巻の強さを見せた韓国勢同士の優勝決定戦は、李・金ペアに軍配が上がりました。金さんは「優勝できるとは思っていなかった。強いペアが多くて苦しかったです。でも、パートナーが強かったので、毎局、この一局を楽しもうと臨みました」、李さんも「一局一局楽しく打とうと心がけ、結果につながり優勝できて嬉しいです」とそれぞれ満面の笑みでした。それぞれに、パートナーへのコメントを求めると、金さんは「彼女から勉強になったことは多く、難しい場面でも落ち着いて対応しているのが印象に残りました。時間を使うところはしっかり使って」。すると李さんは「時間を使ったのは、私が弱かっただけです」と笑い、「実力差があるのに信頼してくれて、落ち着いて打てました」と讃え合っていました。金さんは今後、プロを目指して囲碁の勉強を続け、李さんは囲碁はアマチュア界に残り、囲碁以外の職業につきたいそうで「興味のある分野は旅行関係です」と教えてくれました。
「荒木杯ハンデ戦」は棋力別にA、B、Cブロックに分かれ、合わせて148組、296名が参加しました。
Cクラスには、お洒落をした可愛らしい子供ペアが何組も参加。最年少は、共に5歳の、宮優希乃さんと見出千宙くんのペアでした。どちらも、「お兄ちゃんが子供囲碁教室に通いはじめ」、ついていくようになり、「やってみたい」と思うようになったのだそうです。二人は、囲碁をはじめてちょうど一年。真剣な表情で、最後までしっかり打ち切っていました。それぞれ、お母様は「いい表情をしてる!」と嬉しそうに見守っていらっしゃいました。
二人が通う「谷中こども囲碁教室」を主催しているのは、大橋憲昭さん。ご自身も生徒とペアを組んでCクラスに参加されていました。この囲碁教室にはこどもが100人通っているそうで、「この大会は、一年に一度の子供たちの楽しみです。教室ではペア碁の練習もします」と優しく語られ、今年も8組のペアをこの大会に送り込まれたそう。ご自分の対局が終わると、教え子たちの対局をいそいそと見て回っていらっしゃいました。
また、子供たちの対局姿には、コシノジュンコ氏も「素晴らしい」と絶賛でした。「『躾』という字は、身を美しくと書きます。お洒落をして、真剣に対局して子供たちに未来を感じ、将来的にも、日本は素晴らしいなとつくづく感じました」
Bクラスの藤田美穂子・近藤士郎ペアは、お二人合わせて160歳の最年長ペアでした。昨年に続いてのご出場で、今年もお元気そうで、若々しい碁を打っていらっしゃいました。
さて、この大会には、プロ棋士のお子さんもしばしば参加されます。今年は、Bクラスに、鶴山淳志七段のご子息2人と、安藤和繁五段と中島美恵絵子二段のお嬢さん2人がそれぞれペアを組んで、2組が出場していました。鶴山七段は、「今日は付き添いです」と朝からそわそわ。次男の誠士郎くんが心細そうにしているのを見つけると、顔が見えるところまで近づいていきました。誠士郎くんは、お父さんを見つけるとパッと顔を輝かせ、以降は自信たっぷりの表情に。「お父さん効果」が抜群でした。
共に9歳同士の安藤来美ちゃんと鶴山隆之介くんペアと対戦した青山久恵・梅田芳男ペアは、「2子置かせて6目コミを渡す「ハンデ」にものをいわれ2目負け。「コミが出せませんでした」と敗れた青山さんは少々残念そう。梅田さんは「わかってないところもあるのだけど、いいところが、ものすごくいい!」とキラキラした才能を発見された様子で興奮されていました。
Aクラスは、本戦の地区予選で敗れたペアや、アマチュア大会でも名前の知れた強豪がひしめく激戦区でした。
中丸仁夫妻ペアは、視覚障害者用の碁盤と碁石を使われ、目の不自由な仁さんを由紀さんがフォローしながらの対戦です。フォローといっても、3人の打った石を、仁さんの手をとって「ここですよ」と伝えるだけ。仁さんは頭の中の碁盤で戦うのですから、大変な集中力です。結果を「全て負けました」とにこやかに教えてくださった仁さんに、由紀さんが「一局勝ったじゃない」と訂正し、「ああ、そうだった」と仁さんが笑うヒトコマは微笑ましく、勝負より対局そのものを楽しんでいるご様子でした。
山口庸可・大関稔ペアは、大関さんが「関東・甲信越」予選で「一敗」の好成績ながら、「スイス方式」により本戦出場を逃したとき、「それならば」と、山口さんが「荒木ハンデ戦に私と一緒に出てください」とお願いして、出場が決まったそうです。山口さんは初戦から「めっちゃ勉強になります!」と明るく、「全部信頼できるので、安心感しかありません。その代わり、負けたら私のせい」と笑っていました。その信頼感も強みとなったのでしょう、見事に全勝してAクラスの優勝を決めました。大関さんは「本当によかった。想像以上にうまくいったかな、という気がしています。碁の内容も結果も。お互いに意思疎通できないところもありましたが、そこをカバーでき、自分の間違いもうまくカバーでき(笑)、全体的に非常によかったです」と手放しの喜びよう。山口さんも「本当に初戦から、困ったら任せれば大丈夫という信頼感、安心感があり、いい意味で気楽に、緊張しすぎずに打てました」と喜びを語ってくれました。
さて、本戦に戻りましょう。優勝決定戦進出が決まった瀧澤さんは、「どんな碁を打つんだろう」と、まだ対局中だった韓国ペアの様子を偵察にでかけました。そして「ダイレクト三々を多用しているみたい」と宇根川さんに報告。緊張が伝わってきました。宇根川さんは「ここまでで既に満身創痍です」と笑いながらも「ここまで帰ってこられただけでもうれしいのですが、打つからには最後の一局まで勝ちを目指して全力を尽くしたいと思います」と気を引き締めていました。そして瀧澤さんについては「私が打ちすぎれば、軌道修正してくれるので」と全幅の信頼を置いている様子でした。お二人は早稲田大学囲碁部の同級生ですが、さらにさかのぼって「小学生のころから、大会などで打っていてよく知っていました」と宇根川さん。互いに気を使う必要のない抜群の相性のようです。
いよいよ優勝決定戦が始まりました。優勝決定戦は、大盤解説も行われました。石田芳夫九段の解説、小川誠子六段の聞き手という名コンビの解説会場には、対局を終えた多くの選手たちがつめかけました。別室では、マイケル レドモンド九段の英語による大盤解説も行われ、こちらでも多くのファンが熱戦を見守りました。
握って、韓国ペアが黒番。黒が右辺で大きく構え、さらに、カタツキからAI流も取り入れた今風の布石となりました。その後、左辺に打ち込んだ手がやや急で、さらにコウを仕掛けていったのががんばりすぎだったようです。コウを解消され、白が二手連打した左上も黒に生きられ、序盤から黒にリードを奪われました。その後は、「黒は安全運転」と両解説者。白が紛れを求めながら必死に勝機を探りましたが、的確に応じられて勝負が決しました。
宇根川さんは、「(連覇の期待のかかった今年は)昨年とは環境が全く違っていて、ここまでこられただけでも、正直、ホッとした部分もあります。自分より圧倒的にレベルが向こうのほうが高かったかなと思います。パートナーには、すごい迷惑をかけてしまいました」と、満足感と疲れと悔しさが入り混じった様子。瀧澤さんは「完敗でしたね。なんにもできなかった。やること全部まちがえていた。ま、実力なのかなという感じです。自分たちが弱かった」と、悔しさをかみしめていました。
見事な優勝を決めた韓国ペアは、二人そろって終始にこやかに取材に応じていました。田さんは「決定戦は、今回の大会で一番うまく打てましたし、内容的にかなり満足しています。昨年、韓国ペアを破ったペアだと聞いていましたので、少し緊張していましたが、対局中は盤面に集中できました」、許さんは「瀧澤さんの容姿が強そうだったのでとても緊張しましたが、対局が始まってからは、決勝戦のわりにはあまり緊張せず、自分の碁を打てたので優勝できたのかなと思います」と、それぞれ喜びを語りました。
また、パートナーについて、田さんは「彼とは長い知り合いで、気がねなく打て、自分がいくらミスしてもうまくフォローしてくれますし、形勢が悪く自分がイライラしていても落ち着いているので、安心して打つことができます」と絶大な信頼を寄せていたようです。許さんも「何も文句を言わずに自分の碁についてきてくれます」とにっこり。そして「またペア碁の機会があれば、また彼女と組んで出たい」と話すと、田さんは小声で「ビックリ」と嬉しそうにしていました。
2日間の長く熱い戦いを終え、表彰式とパーティーに移りました。選手の皆さんは、悔しさよりも、充実感に満ちた様子で「おつかれさまでした」と笑顔で声をかけあって会場に集まってきました。
公益財団法人ペア碁協会理事長、大会実行委員長の松田昌士より、閉会のごあいさつがあり、ペア碁を、東京オリンピックのある2020年に向けてますます盛り上げ、世界に広めていきたいこと、そして協賛各社、関係者の皆さま、選手の皆さまへのお礼が述べられました。
ペア碁創案者の滝久雄氏からも挨拶がありました。
滝「皆様、大会にご参加いただき有難うございます。今回も、参加した皆さんが友好を深めあった素晴らしい2日間になりました。昨日の前夜祭では、日本オリンピック委員会の副会長であり、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の理事である橋本聖子先生が、2020オリンピックイヤーに、ペア碁をプレ大会に採用したいとお話くださっています。本日の表彰式に駆けつけてくださった文化庁長官である宮田亮平先生も、日頃から、『とても優れたコミュニケーションゲームであり、頭脳スポーツである』とペア碁を評価してくださっています。
私は、グローバル社会では、互いの国の歴史的成り立ちによる固有の文化を尊重し合うことが大切であると考えています。毎年、多くの国から参加していただいている本大会では、国境や言葉を超え、ペア碁を通じて素晴らしい交流ができています。オリンピックも同じように世界中の人たちが交流する平和の祭典です。そのオリンピックにペア碁は大変ふさわしいゲームです。
ペア碁の一層の普及は、世界にとって大きな意義を持つものです。世界の多くの人々が注目する2020東京オリンピック・パラリンピックイヤーに、是非、皆さんとともに、ペア碁の素晴らしいイベントを開催したいと願っています。ペア碁を育てるパートナーであるPGPP(ペア碁プロモーションパートナー)は、世界で1000人近くが活動しています。2014年に開催された国際アマチュア・ペア碁選手権大会の25周年大会も、PGPPの皆さんのおかげで大いに盛り上がり、とてもいいイベントになりました。2020年に向けても、皆さんの力が集まれば、きっと素晴らしいペア碁のイベントを実現できるはずであると信じています。」
JR東日本をはじめとする特別協賛と協賛会社が改めて紹介され、表彰式は始まりました。本戦優勝ペア、国内最上位ペア、学生優勝ペア、ハンデ戦優勝ペアが、次々と壇上にのぼり、賞状や副賞が手渡されていきました。
乾杯のご発声は、日本棋院理事長の團弘明氏がつとめられました。ペア碁がますます発展しますように。ご盛会を祝して。おつかれさまでした! おめでとうございました!」という声に、会場中が一つになったようでした。
ベストドレッサー賞の発表があり、小山薫堂氏作詞・プロデュースのペア碁の歌「Pair Go, My Dream」が、歌手の平田輝さんとKatie Kcoさんにより披露され、お楽しみ抽選会がありと和やかな時間のなか、選手たちの笑顔の交流はいつまでも続くようでした。本戦出場の竹野麻菜美さんは「私は今回が8回目の出場なのですが、年々、日本ペアもヨーロッパのペアもレベルが上がっている気がします」と話し、「だから楽しい!来年も出たいと思います!」と笑顔で会場をあとにされました。「来年もまた」は、おそらく選手皆さんの同じ思いでしょう。来年もまた、皆さんの熱戦と素晴らしい出会いと交流が楽しみです。
大会結果
各大会、各ブロックの優勝者には表彰状、盾、記念品が授与されました。
最年長・最年少出場ペア
最年長・最年少出場ペアには記念品が授与されました。
ベストドレッサー賞
各賞受賞者には記念品が授与されました。