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大会レポート
<ペア碁親善ドリームマッチ>
3月18~20日

 日本、中国、韓国、中華台北を代表するプロ棋士計16ペアによる「ペア碁親善ドリームマッチ」がオンライン形式で行われた。互いのペアの顔を画面越しに見ながら、通常の対局と同様、目の前の碁盤に石を置いていくやり方で、相手の着手は男女2人の担当者がパソコン画面を見ながら即時に盤上に再現する。この大会で初めて採用した、対面対局に近い形でのオンライン対局だ。

 日本ルール、オール互先で先番6目半コミ出し。ニギリで手番を決め、持ち時間は40分、使い切ると1手30秒の秒読みとなる。それぞれの対局日には山下敬吾九段、羽根直樹九段、二十四世本因坊秀芳による大盤解説会も行われた。

<日中国交正常化50周年記念 日中ペア碁親善ドリームマッチ>
① 仲邑菫二段・関航太郎八段ペア vs 唐嘉雯四段・王星昊六段ペア

 トップバッターで登場したのが、世界的にも注目度の高い13歳の仲邑と若きタイトルホルダー、20歳の関天元のペア。相手の唐、王も共に18歳で、日中の俊英対決となった。開始直前、日本ペアはリラックスした表情。関が仲邑に「普段の対局より粘ろう」と小声で話し、「簡単には投げない」ことを確認していた。

 仲邑・関ペアの先番で始まり、序盤は白ペース。左下隅で仲邑が黒37と外側を押さえた手と、続く白38に関が黒39と下からアテた手がかみ合っていなかったようで、白主導の競り合いが続く。中盤戦、右辺中央で始まったコウ争いを早めに解消した白に誤算があり、形勢は混とん。一進一退の攻防が続く中で黒にもチャンスはあったようだが、生かしきれず、最後は左上隅の黒が取られて日本ペアの投了となった。

 対局終了後、仲邑二段が「序盤から苦しい展開で力を発揮できなかった」と悔しそうな表情を見せたのに対し、中国の唐四段は「自分は菫ちゃんが大好き。菫ちゃんが水を飲む動作が可愛すぎて、対局に集中できなかったほど」と笑顔で語り、親善ムードを盛り上げていた。

仲邑・関ペア 対 唐・王ペア

<日中国交正常化50周年記念 日中ペア碁親善ドリームマッチ>
② 奥田あや四段・村川大介九段ペア vs 周泓余六段・丁浩九段ペア

 奥田・村川ペアはプロ棋士ペア碁選手権2020の優勝ペア。中国の周六段は呉清源杯での優勝経験があり、一方の丁九段もCCTV杯で優勝している。ともに21歳の若手ペアだが、両者とも売り出し中の強豪として知られている。

 序盤、下辺白36のツケからの攻防で黒に誤算があったらしい。白54のノビから白72まで中央に厚みを築き、中国ペアは早くも優勢を確信していたらしい。ペア碁は「出場する他のペアと1回練習しただけ」だが、コンビネーションに問題はない。「中央の白模様のまとまり具合が勝負」(村川)という状況で黒79と突入していったが、結局、弱い石を攻められて上辺に大きな白地を作られて勝負あり。

 村川は「相手のペアは豪華な顔ぶれで、やはり強かった。いい経験になった」と話し、奥田は「残念な結果には終わったが、素晴らしい環境で楽しく打てた」と笑顔で振り返っていた。

奥田四段・村川九段ペア
中国 周六段・丁九段ペア

<日中国交正常化50周年記念 日中ペア碁親善ドリームマッチ>
③ 藤沢里菜五段・井山裕太九段ペア vs 於之螢七段・柯潔九段ペア

 日中の男女のトップ棋士4人が一堂に会する文字通りのドリームマッチ。井山は前日まで京都で棋聖戦七番勝負の第7局を戦っており、肉体的にも精神的にも疲労の蓄積が心配されたが、定刻には元気な姿を見せ、関係者を安心させた。

 右下於が白58と切ってから戦いが起こり、戦火が広がっていく。白128まで、中央白4子と右下黒の大石のフリカワリは「白良し」との見方で4人は一致していたが、そのあと「自分が時間つなぎで打った手がひどい手で、わけが分からなくなった」と柯。ペア碁としてはまれにみる大乱戦に決着がついたのは左上での攻防だった。「黒169とホウリ込む前に(井山が)黒167、白168を交換したのがまずかった」というのが柯と井山の一致した見解だったが、30秒の秒読みの中では、ほとんど結果論。黒193と、このコウを解消した後に、白200までの隅の無条件生きを読み切っていた於・柯ペアの読みの深さを誉めるしかないだろう。最後は盤面勝負の形勢で、中国ペアの中押し勝ちとなった。

 終局後、於は「自分の実力以上のものが出せた気がする。勝ててうれしい」と語り、柯は「自分がうまく打てたとはいえないが、於七段のおかげで勝つことができた。面白い碁だった」とにこやかに語っていた。一方の藤沢は「難しい碁で、一手一手がよくわかっていなかった」と振り返り、井山は「柯九段の顔が見える形での対局は久々で、緊張感があった」と語っていた。

藤沢五段・井山九段ペア
中国 於七段・柯九段ペア

<日中国交正常化50周年記念 日中ペア碁親善ドリームマッチ>
④ 小林泉美七段・小林光一九段ペア vs 張璇八段・聶衛平九段ペア

 日本のレジェンドの一人、小林光一九段が娘の小林泉美七段とペアを組んだ一戦。相手のペアは中国のレジェンド、聶と大ベテラン、張の組み合わせだ。

 序盤は白(日本ペア)ペース。下辺の攻防で白のパンチが入り、しばらく白の流れが続くが、中国ペアも一歩も引かず、生きるか死ぬかの激しい攻防が続く。「正しく打たれたら負けになっていた局面もあった」(小林光一九段)が、黒がチャンスを逃し、最後は黒の大石が死んで終局となった。

 終局後、感想戦で延々と意見を戦わせている中国ペアの様子について、インタビューの通訳をしてくれた孔令文七段が「父(聶九段)は有名な楽観派で、ずっと自分の形勢はいいと思っているのに対し、張八段はずっと悪いと思っている。感想戦は成り立たないかもしれない」と解説してくれた。

 一方の小林泉美七段は「普段、なかなか親孝行できないが、こうした形で一緒に打つ機会を頂き(いい勝ち方をして)親孝行になればありがたい」と語っていた。

小林七段・小林九段ペア
中国 張八段・聶九段ペア

<日韓ペア碁親善ドリームマッチ>
① 上野梨紗初段・福岡航太朗三段ペア vs 曺承亜五段・申旻埈九段ペア

 上野15歳、福岡16歳の10代ペアと、韓国の若手、ともに23歳の曺・申ペアの一戦。申九段は第25回のLG杯で優勝している実力者だ。

 「ペア碁とはいえ世界チャンピオンと打てる機会はめったにない」と対局前、いささか緊張気味に語っていた上野と福岡だが、序盤から臆せず堂々とした打ち回し。黒31(福岡)の強手から中央を厚く打ち、白に主導権を渡さない。黒123(同)から左上の白の大石に寄り付いていったのも好判断で、「打たれて初めて大石が弱いことに気付いた」と局後の曺。最後はこの大石を仕留めて中押し勝ち。ネット解説の林漢傑八段が「特に中盤以降は完璧な打ち回しで、これほどまでに息の合ったペアは見たことがない」と絶賛する内容で日本に貴重な1勝をもたらした。

 終局後のインタビューで上野、福岡が「強いペアを相手に、とても勉強になった」と口をそろえ、一方の申は「自分なりにうまく打てたが、それ以上に相手がうまく打った。攻めるときにミスがなかった」と日本ペアを褒め称えていた。

上野・福岡ペア 対 曺・申ペア

<日韓ペア碁親善ドリームマッチ>
② 奥田あや四段・村川大介九段ペア vs 崔精九段・朴廷桓九段ペア

 プロ棋士ペア碁選手権2020の優勝ペアである奥田・村川ペアが、世界ペア碁最強位戦で2018、2019と連覇した崔・朴ペアと相対した。崔、朴はそれぞれ個人戦でも数多くの優勝経験があり、文字通りの最強ペアだ。

 黒番の奥田・村川ペアは、序盤、左上で3子を捨てて厚みを築き、左辺から白を攻め立てる。中央黒61のコスミツケから左辺と上辺の白のカラミ攻めを目指すが、上辺で白70(崔)まで形を整えた後、左辺も白76(朴)とノビきった形が良く、隙を見せない。その後、上辺白のサバキに成功して地合いリードを保った韓国ペアが、最後、左下の黒を仕留めて寄り切った。

 崔は「久しぶりに(朴と)ペアを組み、ワクワクして臨んだ」と笑顔で語り、朴も「コロナで大会が延びたのは残念だったが、今日は楽しかった」と話していた。村川は「中盤の攻め方で少し息の合わないところがあった」と残念がっていた。

奥田四段・村川九段ペア
韓国 崔九段・朴九段ペア

<日韓ペア碁親善ドリームマッチ>
③ 上野愛咲美四段・芝野虎丸九段ペア vs 呉侑珍九段・申眞諝九段

 日韓の若手トップ棋士によるペア対決。ハンマーパンチで知られる上野(20)が令和三羽ガラスの一人、芝野(22)とペアを組み、韓国の呉(23)・申(22)ペアと戦った。呉は韓国の女流では崔とトップ争いをし、今年、第26回LG杯優勝の申は今や世界ナンバーワンの呼び声が高い。

 序盤は白が下辺を大きく盛り上げて上野・芝野ペアのペース。「上野さんとは一緒に布石などの勉強をしている」(芝野)間柄で、呼吸が合っていたようだ。ただ、中盤戦、白106と下辺からの大石に攻めかかったとき、手を抜いて黒107と左辺に先行したのが呉・申ペアの勝負手。その後、白の攻撃を冷静にかわして大石をシノギきり、地合いのリードを保って逃げ切った。

 呉は「いつも通り息を合わせることができた」、申は「今回は緊張せずに臨むことができ、いい結果を出せた」と満足そうな表情。一方の上野は「(韓国ペアは)大事なところを逃さず打ってくる。読みの正確さがすごい」と感心しつつ「次に当たる機会があればリベンジしたい」と意気込んでいた。

上野・芝野ペア 対 呉・申ペア

<日韓ペア碁親善ドリームマッチ>
④ 吉原由香里六段・趙治勲九段ペア vs 朴鋕恩九段・曺薫鉉九段ペア

 趙、曺という日韓のレジェンドが、それぞれ吉原、朴というタイトル経験のある女流棋士とペアを組み、対決した。

 黒53(吉原)からの下辺の攻防は、白76(曺)の二段バネからの攻めが厳しく、やや白ペース。しかし、右辺から中央にかけての攻防で黒が反撃。黒111から113と白5子に攻めかかり、一進一退の攻防の末、最終的にはこの白の一団を取り切って黒が抜け出した。

 「優勢だとは思っていたが、計算ができていなかった。相手が投了してくれて初めて幸せな気分になれた」と趙。「ボクが打ってほしいと思うところに(吉原が)打ってくれるので感激しています」とパートナーを盛んに褒め称えていた。

 一方の曺は「白からの厳しい攻めで日本のペアがもう少し動揺してくれるかと思っていたが、そうでもなかった。やはり底力がある」と相手ペアを高く評価していた。

吉原六段・趙九段ペア
韓国 朴九段・曺九段ペア

<日本 - 中華台北ペア碁親善ドリームマッチ>
上野愛咲美四段・芝野虎丸九段ペア vs 黒嘉嘉七段・許皓鋐七段

 日本でもおなじみの黒が許とペアを組んでの一戦。「黒嘉嘉さんに見とれてしまった」という上野のコメントに象徴されるように、和やかなムードで行われた。

 序盤、中華台北ペアが左上隅で黒39(許)から足早に地を稼ぐ。日本ペアも白52(芝野)と右辺に深々と打ち込み、右辺で大石との競り合いに持ち込むが、「黒を攻める展開に持ち込めなかった」と芝野。「気が付いたら地が足りない状況」(上野)になっていたという。一方の中華台北ペアは「決断の求められる場面で手番が回ってきたのがきつかった」(黒)というが、「上辺の1子をわかりやすく取って勝ちを確信した」と許。日本ペアは「最後の勝負手も逃して」(上野)黒の中押し勝ち。中華台北ペアの落ち着いた打ち回しが光った一局だった。

上野四段・芝野九段ペア
中華台北 黒七段・許七段ペア

 ペア碁親善ドリームマッチ全体では日本勢は3勝6敗。男女の世界トップクラスの棋士で構成するペアに苦戦する日本のペアが目立ったが、その中で世界チャンピオン経験者を擁する格上のペアを破った上野梨紗初段・福岡航太朗三段ペアの健闘が光った。

 一方、コロナで対面での対局が叶わない状況の中で、互いの姿をカメラ越しに見えるようにして行った今回の対局のやり方については大好評で、中国の於七段や柯九段、韓国の崔九段や朴九段などから「単にパソコンに向かって打つのに比べて、臨場感があって面白かった」との声が相次いだ。当初、懸念されていた秒読みになってからのタイムラグによる時間切れの問題も起きず、「他の世界戦でも使えるのではないか」との声もあったほど。対面での対局が一日でも早く復活することが望まれるのはもちろんだが、コロナが長引く中、一つのやり方を示したという点でも今回のペア碁ドリームマッチは有意義だったといえる。

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主催

日本ペア碁協会 / 世界ペア碁協会 / ペア碁ワールドカップ2022 ジャパン 大会実行委員会

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