日本のトッププロ男女16名ずつが集合して、今年で20回目の記念大会となった「プロ棋士ペア碁選手権2014」が、1月25日(土)に東京・市ヶ谷の日本棋院本院で開幕した。長くペア碁に参加しているベテラン勢からまだ慣れない若手まで、一流棋士が勢ぞろいして、真剣勝負の中にも和やかな雰囲気に包まれながら、年に一度のペア碁に取り組んだ。
豪華メンバーの戦いが間近で見られるとあって、今年も大勢のファンが詰めかけた。抽選で決まったペアの顔ぶれと組み合わせを見ながら、目当ての対局を取り囲んで見守る。昨年優勝の謝依旻女流名人・女流棋聖・小林覚九段ペアが、今年の本命であることは間違いない。対抗するのはどのペアか、予想するのも楽しい大会である。
対局会場で行われた開会式では、滝裕子日本ペア碁協会常務理事が、「この大会は日本ペア碁協会が財団として認められたことを記念して始まった。岩本薫先生に初代の審判長になっていただき、それから回を重ね20回目の記念大会を迎え大変嬉しく思う」とあいさつ。国際的にもペア碁の普及が進んでいる。「2020年のオリンピックでペア碁の開催を実現したい」と語り、会場から大きな拍手が送られた。
審判長の大竹英雄名誉碁聖は、「すばらしい棋士たちがそろって壮観です。今日はゆっくりお楽しみください」とあいさつ。
壇上でペアと1回戦の組み合わせが紹介されて、それぞれ対局の席についた。一局ごとにファンが取り囲む。対局前にルール説明があって、「一手30秒、一分の考慮時間が10回」などが確認された。年に一度の大会だけに、ペア同士でもう一度ルールを説明し合う姿も見られて、対局の前は和やかだった。それが、一手目が打たれるとすぐ空気がピンと張り詰める。真剣勝負のスタートとなった。
それぞれの対局には専用のモニターが用意されて、後ろの方からも進行が見られる。大勢が取り囲んでいるから、後ろの方からは対局の碁盤が見えないこともあるので、モニターの存在は大きい。
会場には20回大会を振り返るパネルが設置されて、過去の成績が分かるようになっていた。そして、出場棋士たちが、ここ20年のビックニュースを記している。「東日本大震災」や「インターネットの普及」など世の中の出来事や、「入段した」や「子どもが生まれた」など自身のことなど、多彩な内容が示されていて、対局の合間に見入るファンも多かった。
解説は二十四世本因坊秀芳(石田芳夫九段)と小川誠子六段が担当。石田九段は毎回、組み合わせが決まると勝敗予想をするという。昨年優勝の謝依旻女流名人・女流棋聖・小林覚九段ペアが本命なのは、だれもが一致するところだが、「連覇を阻止するペアが出て来るかどうか、期待しましょう」と楽しそうだ。
小川六段はいつも穏やかで、石田九段が歯に衣着せぬ解説で暴走するのを、柔らかく調整しながら笑いに変えていく。
謝依旻女流名人・女流棋聖・小林覚九段ペア vs 鈴木歩六段・金秀俊八段ペア
謝女流名人・女流棋聖・小林九段ペアは、本命中の本命である。三年間負けていない謝女流名人・女流棋聖は、やや緊張気味。少し前、二人が顔を合わせたときに小林九段が、「気楽にやろうね」と和まそうとしていた。ただし、勝負を前に謝女流名人・女流棋聖の気合が緩むことはなかった。
鈴木六段はペア碁の優勝経験があって慣れたもの。金八段との呼吸が合えば、流れをつかむ可能性もある。強豪ペアを相手に健闘、石田九段が、「有望」と評する場面もあったが、突然おかしくなって逆転されてしまった。「先ほどの形勢判断は何の役にも立たなくなった」と石田九段も茫然としていた。
矢代久美子六段・井山裕太棋聖・名人・本因坊・天元・王座・碁聖(六冠)ペア vs
大澤奈留美四段・二十五世本因坊治勲ペア
井山六冠とペアになった矢代六段は、プレッシャーを感じているだろう。ただ、それより気になることがあるらしい。井山六冠は直前の十段戦挑戦者決定戦で高尾紳路九段に敗れている。気落ちしているだろう井山六冠が会場に現れたのを確認して、ホッとしたと言うのは冗談かもしれないが、パートナーとしては井山六冠の心境が気になるところである。
大澤四段・二十五世本因坊治勲ペアは、二人で組んで優勝した経験があって息もぴったり。とくに二十五世本因坊治勲は、相手が井山六冠ペアと聞いて、気合が入っている様子である。石田九段は、「一人じゃ敵わないが、ペアならなんとかなると思っているんでしょう」と茶化していた。
実戦は、井山六冠の斬新なシチョウアタリが功を奏して、一気に流れが傾いた。「ペア碁でも緩まない」と井山六冠の妙手に、解説会場が沸いた。そのまま快勝して勢いをつけることになった。
岡田結美子六段・張栩九段ペア vs 青木喜久代八段・羽根直樹九段ペア
すごい組み合わせである。女流の二人も強豪だし、張九段と羽根九段はタイトル戦の常連である。四人とも優勝経験があって、どちらのペアが勝ってもおかしくない。見守るファンの人垣も一段と大きかった。
細かい碁だったが、青木・羽根ペアが二回戦に勝ち上がっている。
小山栄美六段・山下敬吾九段ペア vs 石井茜二段・溝上知親八段ペア
山下九段は手厚い棋風で、激しい戦いになることが多い現代碁の申し子のような存在である。「本当は地も好きなんですよ」と言うが、なかなか信じてもらえない。ペア碁は四人のうちで誰かが戦いを始めることが多いので、山下九段にはうってつけかもしれない。10年前の第10回大会で優勝の経験がある。
小山・山下ペアが勝って二回戦に進出している。
知念かおり四段・瀬戸大樹七段ペア vs 奥田あや三段・河野臨九段ペア
猛烈に細かい終盤で、慎重にヨセ合う碁になった。他の対局がどんどん終わって行く中で、一局だけ残って必死のヨセが続いた。2時間47分掛かってようやく終局、知念・瀬戸ペアが半目残して白星を掴んでいる。石田九段が、本命対抗の一つに上げていた奥田・河野ペアが敗退、1回戦で姿を消すことになった。
吉田美香八段・今村俊也九段ペア vs 王景怡二段・山城宏九段ペア
百戦錬磨の吉田八段と今村九段のペアが有望と見られていたが、王二段・山城九段ペアが奮戦して白星を上げている。
解説会で小川六段が、「山城九段はふだんの手合でも好調なんですよ」と紹介すると、石田九段は、「おじさんの〇〇咲き」とチャチャを入れる。「言いつけてやろう」と小川六段がすかさず斬り込むと、会場がドッと笑いに包まれた。
桑原陽子六段・高尾紳路九段ペア vs 向井千瑛女流本因坊・結城聡十段ペア
向井女流本因坊と結城聡十段は、ともに昨年タイトルを取って絶好調。ペア碁でも有望と思われる。
小川六段が、「桑原・高尾ペアの息が合っている」と紹介すると、石田九段も、「二人の碁はバランスが取れている。勝つと予想しています」と始まる前に言い切っていた。「結城さんの碁は難しいから、相手が大変でしょう」というのもその理由のようだ。
ところが、向井・結城ペアが勝ち切って、いい意味で期待を裏切る結果を残した。
ペア碁はなかなか予想通りにはならないようで、「今日は当たらないなあ」と石田がぼやいていた。
加藤啓子六段・小林光一名誉棋聖・名誉名人・名誉碁聖ペア vs
吉原由香里六段・柳時熏九段ペア
石田九段が、「小林さんはどんなときも真面目なんです」と加藤・小林ペア押しである。対局が終わっても、真面目にていねいに検討している姿が印象的だった。加藤・小林ペアが、石田九段の期待通り勝ち上がって二回戦進出である。人気の吉原六段のペアが早々に消えたのは、ファンにとっては残念だった。
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